第139話 ミノムシ?
どうやら、カタストロフィプシケは有名な魔物のようだ。名前からして物騒な感じがするが。
「ハリー様、カタストロフィプシケという事はもしかして……」
「おそらくそうだろうね、カタストロフィモスの幼虫なんだろう」
「カタストロフィモス? どんな魔物なんでしょうか?」
「うん、過去の記録を見ると全長20メートルぐらいあると言われている天災級の魔物だね」
「天災級の魔物の存在自体初めて聞きましたが、そこまで凶悪な魔物なんですか?」
「僕も見たことはないけど、記録によると死の粉と言う毒の粉を撒いて、町を滅ぼすと言われてるね」
「上空から毒の粉ですか? それは確かに怖いですが大きいので動きも遅そうですし、魔術などで倒せそうじゃないですか?」
「噂によると防御力が高い上に、魔術による攻撃は一切受け付けないらしいよ」
「魔術が効かないって……」
空から攻撃してくるのに、防御力高くて魔術を無効化するって無敵じゃん。
「過去に現れた時はどうやって倒したのでしょうか?」
「結果的に言うと倒せなかったようだね。1か月ほど世界各地を飛び回り力尽きて死んだみたいなんだけど、その間に滅びた国もあるという話が残っているんだ」
「1か月で国が滅びるって怖い魔物なんですね」
そうか、蛾はそんなに長生きしないから勝手に死んだんだな。
◆
「エドワード様、魔石をお持ちしました!」
兵士たちが、カタストロフィプシケの魔石を持って来てくれたのだが。
「1メートルぐらいの魔石なんて初めて見ました」
「本当に大きいね、そう言えば、父様が王城にそのくらいの魔石があるって言ってたかな」
「おじい様がですか? 何の魔物か気になりますね」
「父様も何の魔物かは知らないと言ってたよ。そのカタストロフィプシケの魔石はエドワードが取り込みなさい。糸を使う魔物ということは取り込めるんじゃないのかな?」
「おそらく取り込めますが、良いのですか?」
「ここには反対する人なんていないよ」
そう言われたので取り込んでみる、やはり糸を使う魔物なので取り込めるようだ。
【能力】糸(Lv6)
【登録】麻、綿▼、毛、絹、パスタ
【金属】鉄、アルミ、鋼、ステンレス、ピアノ線、ナトリウム、マグネシウム、チタン、タングステン、炭化タングステン、銅、銀、金、白金、ミスリル
【特殊】元素、スライム▼、スパイダー▼、カタストロフィプシケ|《New》、蔓、グラウプニル(使用不可)
【付与】毒▼、魔法▼
【素材】毛皮▼、ホーンラビットの角(47)、ダウン(43)、フェンリルの毛(51)
【形状】糸、縄、ロープ、網、布▼
【登録製品】カタログ
【作成可能色】CMYK
【解析中】無
ステータスを確認してみるが、カタストロフィプシケはスパイダー系の魔物のように、数種類の糸を使い分けるわけではないようで糸の種類は増えてなかった。
「取り込めましたけど、カタストロフィプシケの糸は1種類しかないみたいですね」
「そうなんだね、どんな特性があるのか気になるけど分かるのかい?」
「使ってみないと分からないので、ちょっと試してみましょう」
魔術が効かないって言ってたのを聞いてから気になってたんだよね。カタストロフィプシケの糸で作った布を2メートル作る。
「これを木に巻いて魔術を当ててみましょう」
適当な木にカタストロフィプシケの布を巻いて、魔術の得意な兵士に放ってもらう。
ファイヤーボールやウインドカッターなどを順番に当てていくがどうやら、カタストロフィモス本体だけでなく、糸も魔術は効かないようだ。
「エディ、私もやってみていいかしら?」
「もちろんいいよ」
メグ姉が精霊魔法で布を凍らせようとするが、布が巻かれていないところは凍っていくのに、布自体は全く凍らないことから、精霊魔法も効かないみたいだ。
「本当に効かないなんて、不思議な糸ね」
「剣で切ってもなかなか切れないから防御力もありそうだけど、外套のようなもので魔術を防ぐ方が使いやすいかもね」
「服には向かないという事でしょうか?」
「試してみないと分からないけど、回復魔術も効かない可能性を考えると、上から羽織る物の方がいいと思うんだ」
「そうか、打撲などの怪我が治せなくなってしまうんですね。ところで父様だったら切ることは出来ますか?」
「どうだろう、試してみようか?」
「お願いします」
父様なら切ることができました……しかも粉々に。ただ、ちょっとだけ抵抗を感じた程度みたいだ。
物騒なミノムシを見つけるなどのトラブルはあったものの、野営の準備は完成したようだ。
ヴァイスがギアラタウルスとキングタウルスを食べたいそうなので、食べ比べできるようにステーキを焼こうと思う。
さすがに兵士たち全員に行きわたるほどギアラタウルスの肉はないので、オーク肉で我慢してもらうが、オーク肉でも兵士たちには人気なのだ。スープはオーク肉を使った豚汁にしてみたのだが大好評だった。
次に、ギアラタウルスとキングタウルスのステーキを焼いていく。
豚汁やパンなどはジョセフィーナたちに配ってもらっているので、後はお肉を焼くだけである。
まず、ギアラタウルスのサーロインを取り出す。普通の牛と比べると赤の色が濃く程よくサシしも入っていて、赤と白のコントラストが際立っているな。
『美味そうではないか!』
「そうだね」
次に、キングタウルスのサーロインを取り出してみると。
『美味そうではないか!』
「凄いピンク色なんだけど……」
そう、肉の色が完全なピンクなのだ。サシなどはギアラタウルスと同じぐらいだろう。オークキングの肉は真っ赤だったけど、さすがにピンクは食欲が湧かないな。
「初めて見る肉色だね」
「本当ね、美味しいのかしら?」
父様と母様も気になるのか見に来たと思ったらみんないたのだが、みんなもさすがにピンク色の肉にはドン引きである。
よし、この肉色をみても美味しそうと言った、ヴァイスに食べさせてみよう!
まずは、シンプルに塩コショウだけした、ギアラタウルスとキングタウルスのサーロインステーキを焼いて、ヴァイスに出してみる。焼いたら、表面はどっちも同じような色になったが、ミディアムレアなので中はピンク色だろうと思う。
ヴァイスはまず、ギアラタウルスの肉から食べ始める。
『美味い! 以前食べたラーゼンクーに似ているが、美味しさはこっちの方が上だな!』
あっという間に食べ終わると、キングタウルスのサーロインステーキに躊躇なくかぶりつく。
『なんだこれは!』
「ヴァイスどうしたの!? 不味いなら出さなくちゃダメだよ!」
『美味すぎるぞ! 口の中でとろけるようだ!』
ウマウマ言いながら、あっという間に完食する。
「大丈夫みたいだね。それじゃあみんなの分も焼くけど、ヴァイスはまだ食べる?」
『モチロンだ!』
みんなに焼き終わり、自分の分も焼いたので食べてみる。まずはギアラタウルスからだ。
ふむ、肉質はしっかりしていて、旨味が凄いな。脂身も甘いし、塩コショウだけで、これだけの美味しさは反則だな。
口の中をリセットするのも兼ねて、オーク肉の豚汁を飲んでみる。美味いな、少し肌寒いので、こういう温かいのはホッとする。
次にキングタウルスだ、ナイフで切ってみると、まずはその柔らかさにビックリする。断面はやはりピンク色だが、匂いがもう既に美味そうだ。
一口食べてみると。――! ヴァイスがとろけると言ったが正にその通りで、口の中入れて数回噛んだだけで口の中からなくなったぞ!
もう一口だ! 美味しすぎて、ずっと噛んでいたいのに口の中からすぐ消えてしまうほどの暴力的な美味しさだな。
結構なボリュームがあったはずなのに、美味しすぎて直ぐに完食してしまう。僕だけでなく、みんなも同じような感想だったみたいでヴァイス、父様、アスィミ、コレットさんがおかわりを食べる。
コレットさんって華奢なわりに意外と大食いで、大きな肉がどんどん消えていくのは圧巻だったのだが、レディの食べる姿をじっくり見てはならないよと、父様がコッソリ教えてくれたのだった。




