第132話 サルトゥス防衛戦
「エドワード、起きなさい。そろそろ時間よ」
「えっ!?」
母様に起こされて慌てて目を覚ますが、もう辺りは暗くなっている。どうやらかなり長い時間寝ていたようだ。
「まずい、いつの間にか寝てしまったみたいだ!」
「まだ慌てなくても大丈夫ですよ」
「しかし、みんな準備しているのに僕だけ寝てしまっては!」
「エドワード、あなたには少し謝らなくてはならないようです」
「僕にですか?」
「エドワードがあまりに元気なので私たちも色々お願いしていましたが、あなたの体はまだ7歳なのです」
「どういうことでしょうか?」
「加護による弊害と言ったらいいのでしょうか、おそらく体の疲れが限界に達していても、高いステータスのせいで動けてしまうようですね」
「動けるのだったら問題ないのでは?」
「私もマルグリットに指摘されるまではそう思っていましたが、あの短時間で深い眠りに入り私が揺すって起こすまで一切起きなかったことを考えると、かなり疲れが溜まっていたのは間違いありません」
「そうなんですかね? 自分ではよく分かりませんが、スッキリしたのは確かです」
「その自分では分からないというのが問題なのです。無理をした弊害の有無も分からない以上今後は私たちも注意深く見守ることにしました」
「僕はどうしたらいいのでしょうか?」
「エドワードは今まで通りでかまいません。私たちの方で無理しないように見ていますから、体が疲れていると判断したら今回のように休息をとらせます」
「よく分かりませんが、普段通りでいいのでしたら問題ありません」
「それで大丈夫です。さあ、そろそろ時間ですので行きましょうか?」
「分かりました」
加護によるステータスアップの弊害か、体が小さいことによりステータスを使いこなせていないのは分かっていたが、その他にもあったなんて考えもしなかったな。気を付けることにしよう。
外へ出ると兵士たちが準備をしていて、その中に父様もいた。
「やあ、エドワード。少しは疲れが取れたかい?」
「はい、問題ありません」
「今回は僕が出るから、エドワードは後方支援よろしくね」
「前線に出なくていいんですか?」
「そうだね、後方で抜けて来た魔物の処理をたのんだよ。もう1つお願いは全体を見回して危なそうなところを支援してくれるかな? この辺りは高い木が多いからエドワードにとっては動きやすいと思うんだ。どこかの部隊に入れるより臨機応変に動いてもらった方がいいと思ってね」
「分かりました。木の上から援護します」
「たのんだよ。それじゃあ配置に着こうか?」
父様に言われた通り、糸を使い木の上へ登り全体を見回す。
余計な木を伐採したおかげで、兵士たちの動きが分かりやすいな。魔物を集める予定の西側に父様の部隊が陣取っている。
侯爵の部隊は連日の防衛で疲弊しているから当然か。
『エディ、かなりの数の魔物が近づいて来ているぞ』
「取りあえず鋼鉄の糸でも撃ってみるか」
まだ何も見えない森に向かって直径1センチ、長さ1センチの鋼の糸を1000メートル毎秒で20本ほど発射する。
どうやら当たったようだ、魔物の叫び声が聞こえた。
そして次の瞬間、大量の魔物が兵士たちの前に現れ、戦いの幕が切って落とされる。
◆
「アーダム! 部隊は任せたぞ!」
「お任せください!」
父様はアーダム隊長にそう言うと、おじい様のようにプラズマボールを発生させて魔物の群れに突っ込んで行く。
「……父様の戦いは初めて見るけど……」
『エディよ、アレのマネをするでないぞ。お肉がもったいないではないか!』
父様の戦い方は、おじい様似とか、おばあ様似と言う次元ではなく2人をミックスしたような戦い方だった。
切った魔物が粉々になる仕組みが理解できない。更に粉々になった肉片が、体を覆っているプラズマボールに触れると蒸発しているようにも見える。
『あれでは食べられる肉がなくなるぞ! 仕方がない、エディ、ウルスを出すのだ!』
「えっ! ウルスを使うの?」
『もちろんだ。我の背中に乗せよ!』
冗談だと思っていたのだが、空間収納庫からウルスを取り出してヴァイスに乗せる。
『ウルス分かっているな。このままではエディの父親にお肉をすべて破壊されてしまう! 美味しそうな魔物を確保しに行くぞ!』
「サーイエッサー! ウルス行きまーすっ!」
そう言うと、ウルフライダーは森の中に消えて行ったのだが、本当に大丈夫なんだろうか……。
ヴァイスはあれでも神だから大丈夫だろうけど、ウルスが心配だな……まてよ、中に魔核的なものが入っていて、ボロボロになったら新しい体を用意すればいいみたいなパターンだったらいいな。そうしたら、ぬいぐるみじゃなくて、カッコいいメタルボディの真っ当なゴーレムにすることができるかも。
そんなことを考えながらも、鋼の糸を撃って援護していると戦況が動く。
体長7メートルはありそうな1つ目、緑色の巨人が出てきた。サイクロプスとかキュクロープスとか言う名前なんだろうか? 動きは遅く右手に丸太を持っている。
「オクルスプスだ! 各自散開!」
オクルスプスと言うらしい、言いにくい名前だな。
アーダム隊長の指示で兵士たちは散らばり攻撃に備える。オクルスプスが手に持った丸太を兵士たちに叩きつけようと振り上げたその時、オクルスプスの右腕が丸太ごと消えてなくなる。父様の攻撃によるものだ。
右腕を失ったオクルスプスは痛がることもなく、今度は左手で父様を殴ろうとするが、父様はそれを危なげもなく躱す。
オクルスプスは父様に任せておけば大丈夫そうだと思った瞬間、オクルスプスは無くなったはずの右手で父様を捕まえようとした!
どうやら、高い再生能力を持っているようだが父様の相手ではないようだ。
『エディ、北側に注意するのだ!』
ヴァイスの声がどこからか聞こえてきたので、北側を見るとギアラタウルスが現れてきたが、その出現を予測していたかのようにカラーヤ侯爵の部隊が相手をしている。
マルシュ君のお兄さんのルイドさん中心でギアラタウルスと戦っているが余裕を感じる。ルイドさん結構強いな。
北側の魔物を鋼の糸で倒しつつ援護していると。丸太で組んだ防壁の上に登っていく影を見つけた。
ギアラタウルスだ! しかも2頭いる。ルイドさんの方に下りていく前に倒さないと被害がでそうだが、糸で飛んでいくには間に合わない。
直径1センチ、長さ5センチの鋼の糸を2000メートル毎秒で2頭のギアラタウルスを狙って発射する。
轟音と共にギアラタウルスの上半身が粉々に吹き飛び、その反動で下半身も飛んでいく。ヴァイスが見てなくてよかった。
「……やり過ぎたか?」
下にいたギアラタウルスを倒したルイドさんが僕を見つけて手を振る。
「エドワード様! 助かったよ」
ルイドさんはそこまで驚いてないようだ。よく考えたら、父様の理不尽な攻撃に比べたら可愛いもんだと思う。
ギアラタウルスの攻撃はそれで終わりだったらしく。その後、他の魔物が出てくるということもなかった。
父様の方のオクルスプスは、原形が分からないぐらいに粉々に潰すことで再生は止まったみたいだ。現在兵士たちが念のために残った肉片を松明で焼いていた。
父様の方へ下りて行くと話しかけられる。
「北側も方が付いたみたいだね」
「はい、ギアラタウルス3頭でこちらを切り崩す作戦だったのでしょうか?」
「3頭も出たんだ。オクルスプスを囮に使いギアラタウルスをそこまで動かすとは、やはりキングタウルスがボスで間違いないだろうね」
「キングタウルスは強いのでしょうか?」
「僕も見たことないから分からないけど、負ける気はしないかな」
話をしているとカラーヤ侯爵軍もやって来た。
「オクルスプスが出てきた時は、そちらに向かうか迷いましたぞ。大公様の到着が1日遅かったらと思うとゾッとしますな」
「エドワード様のおかげで助かった。改めて感謝する」
カラーヤ侯爵、ルイドさんが話しかけてくる。
「ボスが出てこなかったのは残念だけど、大きな被害がなくて良かったよ。町に戻ろうか」
防衛戦初日を乗り切った僕たちは町に帰還するのだった。




