第130話 Sideエリー嬢(上)※
「エリー、北西の方を見つめてどうしたの?」
ノワールがエリーに尋ねます。
『エリーはエドワード様のことが心配で……』
「エドワード様ならきっと大丈夫ですわよ。フォーントゥナーを捌いたのを見たでしょう?」
『でも、向こうに凄く嫌な感じの《《色》》が見えますの!』
魔物の討伐に行ったエドワード様を心配しつつ、先日の夕食会までの事を思い返す。
◆
エリーの名前はエリー・リヒト。リヒト男爵家長女で、5歳になりました。声が出なくなったのは4歳のときです。
お父様の仕事の関係で、一緒に各地を転々とすることが多いエリーは、声が出なくなり、スヴェートの町に引き籠ることが増えました。
エリーの目はみんなと違って、見た人にぼんやり、色が重なって見えるのです。
その色は人によって違い、感情によっても変わるみたいです。お父様の仕事上、悪い人を見ることが多く、その人たちは暗い色を出していて気味が悪いの。
エリーの声が出なくなったのも、お父様に断罪される人を見てしまったからです。
見える色はいつも透けていて、人が見えなかった事は一度もありません、でもその人だけは違っていて。
真っ黒に塗りつぶされた姿に、目だけが付いていて凄く不気味。そしてその目はお父様の方ではなく、エリーの方をジッと睨んでいるのです。
怖くなったエリーは目を瞑ったのですが、その目が頭の中にこびりついてエリーはガタガタと震えました。
お父様による断罪が終わったのか、お母様に『帰りますよ』と言われ目を開けたその瞬間……。
目の前にその真っ黒なのがいて、血走った目でエリーを睨みつけているではありませんか!
「キャーッ!」
エリーは大声で叫び、そのまま気絶し、そしてベッドで目を覚ました時には声が出なくなりました。
それ以来、家族がエリーに話しかける時には暗い色が見えるようになり、エリーはそれも怖くなって部屋から出られなくなったのです。
しばらく経つと家族はエリーをスヴェートの町に置いていくようになり、1人でいるようになったのですが。そんなある日、エリーの部屋に1人の女の子がやってきました。
それがテネーブル伯爵家の次女ノワールです。ノワールは真っ黒な髪に綺麗なアメシスト色の瞳、冷たい感じに見えますが、ノワールから出ている白色はエリーまで優しく包み込んでくれるので、ノワールの傍にいるだけでほっとします。
最初、1人になりたかったエリーはノワールの事を無視しちゃいました。そしたらノワールは私が喋れないのをいいことに、自分の愚痴を一方的に言っては帰り。そしてまた次の日に愚痴を言いに来るといった日が何日も続き、意味が分かりません!
その日もエリーの前で朝からずっと愚痴を言っていたので。
『ノワールの愚痴はもう飽きました!』
心の中でそう叫ぶと。
「私の愚痴に飽きちゃったの?」
何故かノワールは返事をしたのです。エリーは伝わったのが嬉しくなって、泣きながらノワールにありったけの愚痴を言ってしまいました。
ノワールに言いたい放題言ってスッキリしたのか、エリーは疲れて眠ってしまったみたい。
次の日、目覚めるとお父様とお母様は突然エリーを抱きしめて謝ってくるのでビックリしたのです。
ノワールがエリーの気持ちを両親に説明してくれたおかげで、エリーが何に苦しんでいるのかを知ったと言ってました。
両親の話ではエリーは人の感情などを色で見ることができるらしく、そんなことができるのはエリーだけみたい。
エリーの事を理解した両親からは暗い色も消え、仲直り出来たのですが、その日ノワールがエリーの前に現れることはなかったのです。エリーが愚痴をいっぱい言ってしまったせいで愛想をつかされたのでしょうか? 不安で一睡もできませんでした。
ところが次の日、ノワールは普通に来たので、エリーがきょとんとしていると、また愚痴を言い始めたので止めました、ノワールの愚痴は重すぎてエリーでは受け止められません。
両親と仲直りできたことを言うと優しく頭を撫でてくれたのですが、一睡もしてなかったエリーはそのまま安心して眠ってしまったのです。
夕方になり目を覚ますと、ノワールはまだ部屋で待っていてくれたので、帰って欲しくなかったエリーは両親に手紙でノワールに泊まってもらうようにお願いしたのですが、ノワールは『文字が書けるなら最初から説明できたんじゃない?』って意地悪を言うのです! ノワールは酷いのです! でもその日からノワールと一緒にいることが増えました。
後から聞いたのですが、ノワールもエリーと同じような力を持っていて、その能力も関係して一族からも気味悪がられていると言ってました。何とかしてあげたいのですがエリーでは力不足です。
◆
そして、5歳になったエリーは両親と一緒に、エドワード様のパーティーへ行くことになりました。
パーティー会場には様々な色が目に入り、少し気持ち悪くなりました。ノワールと見える色を出来るだけ抑える練習したおかげで、少しだけ楽になったと思っていたところ、エドワード様を目にした瞬間、思わず制御を解いてしまったのです。
なんと、エドワード様は虹色にキラキラ輝いていました! 初めて見る色です! エリーは眩しくて思わずお母様に隠れてしまいました。
その後、ノワールと合流してその事を話すと。
「虹色なのね、エリーの瞳と一緒じゃない」
『初めて見る色な上にキラキラだったのでビックリして隠れてしまいました……お母様に叱られてしまいました、どうしましょう?』
「そうね……私を見ても不快感を表すような感じもなかったですし、不快な感じもしませんでしたね……」
『とてもポカポカでキラキラだったのです』
「キラキラは分かるけどポカポカって何?」
『ノワールも傍にいるとポカポカします!』
「そうなの? 私と一緒というのでは判断がつきませんね。それにしてもとても料理が美味しいわね」
『どうしましょう。こんなにいっぱい、エリーのお腹に入りません!』
「全部食べなくてもいいんじゃないかしら?」
王様とお話ししていたはずのエドワード様のキラキラが揺らいだと思ったら、色が変わりました。あの色は確か……。
『どうしましょう! エドワード様、困ってます!』
「困ってるって、あぁ、あれはヴァッセル公爵の所のロゼと、デーキンソン侯爵の所のアウルムね」
エドワード様を助けなきゃと思ったエリーはエドワード様の近くへ行きます。
「ちょっとエリー! どこ行くの!」
エドワード様の近くに来たのはいいけど何も考えていませんでした。無策です、どうしましょう! でもポカポカします。
取りあえずエドワード様の服をツンツン引っ張ってみると。
「どうしたの?」
エドワード様が声をかけてくれました。あっ、エリーは喋ることが出来ませんどうしましょう! エドワード様がエリーの顔をジッと見ています! 恥ずかしいのです!
「えっと何かな?」
どうしましょう! エリーは喋れないのに来ちゃいました!
「エリーは、エドワード様の、おすすめ料理を知りたいそうよ」
ノワールが助けに来てくれました。
「おすすめの料理?」
「エリーはどの料理も美味しそうだけど、たくさんは入らないので、エドワード様のおすすめから食べたいそうよ」
ノワール、ぐっじょぶです! エリーが頷くとエドワード様が微笑んでくれます。キラキラ2割増しでした。
一緒にいる女の子2人はちょっと怖いですが、ポカポカのエドワード様とノワールがいるのでエリーは平気です!
エドワード様のおすすめ料理はどれも美味しくて、幸せな味がしてとても楽しいパーティーでした。
◆
楽しかったパーティーの後はまたスヴェートの町でノワールと2人でいることが増えましたが、最近はお母様もスヴェートの町に残ってくれるようになり。エリーは寂しくありません。
そんなある日、夢でエドワード様を見たことをノワールに話したら。お母様に言っちゃいました、酷い話です。
ところが、お母様は『あらエリー凄いわね。ヴァルハーレン大公一家がスヴェートの町にいらっしゃるそうよ。後でご挨拶に行きましょうね』なんて言うのでビックリしました。
ご挨拶に行くと、エドワード様は不在でがっかりでしたが、しばらくするとエドワード様がやって来ます。
キラキラポカポカのままだったのでエリーは一安心。人によっては、ある日突然暗い色に変わる人も見たことがあったので心配でした。
「ハリー、折角挨拶にいらしたんだから、親睦もかねて夕食でもご一緒したらどうかしら」
「いや、さすがに料理人を連れてきてないのに失礼じゃないかな?」
「あら、エドワードが作るんだからきっと美味しいわ」
エドワード様のお母様が夕食を一緒に食べていかないかと、お誘いしてくださったのですが、お母様は帰りそうな感じです、どうしましょう。
『エリーはエドワード様のお料理が食べたいのです!』
はっ! 気がついたら立ち上がってました!
「エリー、どうしたの?」
お母様が尋ねてきます。どうしましょう!
「エリーはエドワード様の作る料理が食べたいそうですわ」
ノワールがフォローしてくれたので頷きます。ノワール、ぐっじょぶです。
「あら、エリーは話が分かるわね。ラシュルはどうかしら?」
エドワード様のお母様は、優しくてポカポカで白色でノワールと同じなのです。
「エリーが自分の気持ちを表に出すことはあまりないので、ご迷惑でなければご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
やりました。お母様からも了解が出ました。
「もちろんかまいませんよ。でもエドワードは大丈夫かな?」
「ええ、食材には余裕がありますので大丈夫ですよ」
エドワード様のお父様からも了解が出たのでエドワード様の料理をまた食べられます。
それにしてもエドワード様のお父様……凄くピカピカで眩しい……。
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エリー嬢のイメージ画像です。




