第127話 サルトゥスの町へ向けて
ヒューレーの町を出発してから数時間、度々魔物の襲撃を受けていた。
「手伝わなくていいのかな?」
「兵士たちだけで対処が出来なくなれば、お呼びがかかりますので問題ありません」
みんなが戦っているのに、じっとしているのは苦手だ。
魔物を倒し終わるとまた馬車が進み出す。
「それにしても、この辺りは街道でも魔物がたくさん出るんだね」
「私が以前通った時は、ここまで多くはなかったのですが」
「そうなんだ。やっぱり魔の森で魔物が大量発生している影響なのかな?」
「おそらく、その通りだと思われます」
「ヴァイスは何でスタンピードが起きるのか知っているかな?」
『我には分からんが、魔素が異常に濃くなっているのは確かだな』
「へー、そうなんだね」
「エドワード様、ヴァイス殿は何と?」
「魔素が異常に濃くなってるんだってさ」
「魔素でございますか?」
そういえば、みんなには説明してなかったな。
「以前、エンシェントウルフに聞いたのだけど。濃い魔素の影響で体内に魔石が出来て魔物になるみたいなんだ。今、魔素が異常に濃いってことは、それだけ魔物が発生しやすい状態ってことは間違いないのかな」
「魔素の影響で体内に魔石が出来るのですか?」
「そうらしいよ、だから同じ姿でも魔石が体内に入ってないのは魔物とは呼ばないって、エンシェントウルフが言ってたな」
「見た目に違いはないのでしょうか?」
「ないって言ってたよ。ただ魔石が出来ると狂化するので、普段大人しい動物でも人を襲うようになるみたいだよ」
「なるほど魔石の影響で狂化するのですか、テイムされている魔物を解体したところ、魔石がなかったという話を聞いたことがあります。テイムしていた魔物のほとんどは、テイマーが正しく埋葬するため解体することはあまり無いので真相は分かりませんが……」
「そんな話があるんだね。魔石が作られていない狂化前の状態ならテイム出来ると言う事なのかな?」
「エディの言う通りなんじゃないかしら。逆にテイムしていた魔物が突然狂暴になって人を襲う事例もあるらしいわよ」
「それって体内に魔石ができた事により狂化したんじゃないのかな?」
「エディの話を聞いたら研究している学者たちが発狂しそうね」
「エンシェントウルフの存在は、ナイショだから発表はできないけどね」
『そういえば、エンシェントウルフはこんな時、どうしてるのかな?』
『これだけ魔素が濃いと我がいた場所に引きこもっているのではないか?』
『ヴァイスがいた場所? あぁ、聖域化してるって言ってたから魔素の影響は受けないのか』
『我の力は凄いだろう』
ヴァイスがいると、どの位で聖域化するんだろうか? ……多分何百年単位なんだろうな。
でも、王都でコウサキ親子に出会ったときは、カビっぽい空気を正常化していたからヴァイスが傍にいるだけで、それなりに効果があるのかもしれない。
それじゃあウルスはどうだろうか? ……ウルスが置いてあったセラータの町には、オークがはびこってたくらいだから効果はないだろう。
そうこうしているうちに今日の野営ポイントに到着する。
「エドワード、悪いけどまたアーススライムで柵をお願いできるかな?」
「分かりました」
野営で大活躍、アーススライムの糸で出来た柵を使ってみんなを囲む。もちろん今回のは父様とアーダム隊長監修のもと考えた改良版となっている。今回のポイントはこちらから攻撃しやすい位置に隙間を作ってあることだ。
「何回見ても便利な糸だね」
「エドワード様、こちらの要望通りの形状にして頂きありがとうございます」
「アーダム隊長たちが守りやすい形状にするのが一番安心だからね」
「野営地までの到着に予想以上の時間がかかり遅くなりました。夕食を食べたら早めにお休みください」
この日は簡単に夕食を済ませ就寝することにした。
◆
「エディ、朝よ起きて。外が大変な事になっているの」
「メグ姉、おはよう。どうしたの?」
「アーススライムの柵の外を見たら分かるわ」
「柵の外がどうしたの? ……!」
アーススライムの柵の外を見てビックリする。
「どうしてこんなに!?」
柵の外側には、大量の魔物の死体が散乱していた。
『エドワード様、おはようございます!』
魔物の片付けをしている兵士たちが挨拶してくる。
「みんなおはよう。昨日の夜は魔物の襲撃が凄かったみたいだね?」
「通常でしたら、これだけの数は大変なのですが、エドワード様の柵のおかげでかなり楽に倒せました」
「そうなんだね、みんなの役に立ったのなら良かったよ」
「エドワード、おはよう」
「父様、おはようございます」
「これだけの魔物を今ここで処理してたら、時間がかかりすぎて先に進めなくなるんだけど、エドワードの空間収納庫に入りそうかな?」
「分かりました、試してみますね」
散乱している魔物を回収していくと、全て空間収納庫に収納できた。
『おおー!』
兵士たちから歓声が上がる。
「入ったみたいです」
「エドワードの空間収納庫はやっぱり桁違いだね。それじゃあ朝食にしようか?」
父様に促され朝食をとるのだが、昨晩も簡単な保存食だったのでさすがに味気ない。最近美味しいものばかり食べているから、少し贅沢になって来ているのかもしれないが、寒いのでせめて温かいスープが飲みたい。
許可をもらって簡単なスープを作ることにした。
今回、試してみるのはホール缶トマト……いや、ホール壺リッコか、リッコを湯剥きして塩水に浸けてあったのだ。缶や瓶はないので壺に入れてある。瓶ぐらいは簡単に手に入るようなって欲しいところなんだが。
コンソメスープをベースに野菜やニンニク、ベーコン、ホールリッコを潰しながら入れる。リッコを入れた瞬間に聞こえる悲鳴はもう慣れたので聞かなかったことにしておいた。中火で煮て最後に塩コショウで味を調えて、ミネストローネの完成だ……多分こんな感じだったはず。
心配なので少し味見してみると、何となくミネストローネの味のような気がする。考えたら味の記憶がないので初めて食べるのだった。
兵士たちの分は兵士たちで配ってもらうことにして、取りあえず父様から順に配って行く。
「スープにリッコを入れるなんて聞いたことないけど、美味しそうな匂いがするね」
「はい、少し味見してみましたが、とても良い味になっていたので、みんなの口にも合うと思います」
みんなが口をつけ食べ始める。
「エドワード、とても美味しいわ。体も温まるし凄くいいわね」
「パスタの時もそうだったけど、この程よい酸味が癖になる味だね。旅の疲れが和らぐよ」
父様、母様共に好評だった。
「ぐぬぬぬ、悔しいけど美味しいです! それとも実は私ってリッコが好きだったのでしょうか……」
メリッサさんはパスタに続いて、ミネストローネも口に合ったみたいで混乱しているようだ。多分生では食べられないと思うよ。
「エディが作る物に不味いものはないわ」
「贅沢なメリッサさんには生リッコを出しておけばいいのです」
メグ姉は失敗しても美味しいと言いそうだけど、アスィミよ何気に酷いな! アスィミの故郷では味を気にする余裕がないくらい食べ物がなかったらしく、毒以外なら何でも食べていたと言っていたので、好き嫌いはなさそうだ。
体が温まり、程よいリッコの酸味で疲れが取れると兵士たちにも大好評だった。
ホール壺リッコもいい感じだったから、これでケチャップが作れるな。
アーススライムの柵を撤去して出発となるが、街道でこれだけの魔物が出てサルトゥスの町は無事なんだろうか?
マルシュ君が心配だな、貴族で同性の友達は初めてなので無事でいて欲しい。
これ以降の道のりは、ヒューレーを出発した初日とは打って変わり、魔物の襲撃はほとんど無いままサルトゥスの町に到着することが出来たのだった。




