第126話 Sideアレン
今日、俺たちのパーティーに与えられた仕事は草むしりだ。朝から夕方まで町中の草むしりをしなくてはならない。
ユルゲンの口車に乗ったせいで俺たちに下されたペナルティーは、半年間の冒険者ギルドでの雑用だ。もちろんただ働きという訳ではなく最低限の賃金はもらえるがギリギリの生活だ。孤児院の生活よりはましなくらいだろう。
しかし、人間と言うやつは一度でも高い水準の生活を味わうと、元の低い生活に戻るのが辛いように出来ているらしい。
「むしってもむしっても全然無くならないわ!」
「何で僕たちまで草むしりをしなくちゃならないんだ。悪いのはユルゲンなんだろ?」
最近、メアリーとトーマスの口からは愚痴しか出てこなくなった。
現在、ユルゲンの奴はここにいない。というかどこに行ったのかも分からない。夜逃げしたようだ。
捕まったユルゲンの親父さんとギルドマスターは、俺たちの事件以外にも色々と不正をしていたらしく処刑され晒し首となっている。
それと同時にユルゲンの奴も消えてしまったのだ。
ユルゲンの奴と言えば、アイツの使う火の魔術が、他の人よりしょぼいということが発覚したのも原因の1つじゃないかと思う。詠唱が同じなのに、どうして威力が違うのかサッパリ分からない。
いなくなったものはしょうがないと思ったが、愚痴の矛先はついに俺へ向いてしまったのだ。
元々、俺がエディを仲間から外してユルゲンを入れたのが原因なので、今は我慢するしかない。
コラビでエディの奴はジャイアントスパイダーを倒した英雄になっているのだが、この間オークションでエディの倒したジャイアントスパイダーの糸が金貨3000枚で落札されたとギルドマスター代行のエイレーネに嫌味を言われた。
少なくてもエディの手元には金貨1500枚は入ってくると言ってたので、メアリーとトーマスには絶対に隠しておかなければならないだろう。
今日もクタクタになるまで働き、冒険者ギルドへ報告に行く。2人には余計な情報が入らないように、俺が代表で報告に行っているのだ。
「ちょっと、軍が来られないってどういう事よ! ジャイアントスパイダーだけじゃなくて他にも普段目にしない魔物が増えてるって言ってるでしょう! このままじゃスタンピードが起きちゃうわよ!?」
ギルドマスター代行のエイレーネが、騎士の恰好をした人に怒鳴りつけているようだ。今、スタンピードが起きるって言ったか? この町は大丈夫なのか?
「モトリーク辺境伯軍はコラビ北東の魔の森で大量発生した魔物を討伐しに行っていると言っているのだ」
「何が大量発生よ! それってスタンピードじゃない!」
「魔物がコラビだけではなく主都ヴィンスにも押し寄せそうな勢いだ、コラビの町付近の魔の森までスタンピードが起きると守ることができない。冒険者ギルドでは速やかに町の人々を、主都ヴィンスまで避難させるようにと辺境伯様から指示が出ている」
「コラビの冒険者だけで、そんなこと出来るわけないじゃない!」
「我々騎士10名もサポートする。速やかに避難せよ」
「たった10名で……あーもーわかったわよ! やればいいんでしょ、やれば!」
「我々は商人ギルドへも指示を出した後、避難の鐘を鳴らすので冒険者ギルドは住民のサポートを頼んだ」
そう言うと騎士たちは出て行ったのだ。
「各職員! 直ちにコラビの町にいる冒険者たちを手分けして呼んで来て! ついでに住民たちへ避難するように知らせて!」
『はいっ!』
職員たちが走って出ていく。エイレーネは僕を見つけると。
「アレン! あなた達は……そうね、3人で教会と孤児院に行って避難するように言って来て!」
「俺が?」
「緊急事態よ、早く動きなさい!」
◆
俺がメアリーとトーマスの所に向かうと、2人の話し声が聞こえた。
「メアリー、思ったんだけどアレンとのパーティーを解消すれば、僕たちって自由なんじゃないかな?」
「そんなこと出来るの?」
「アレンは隠してるみたいだけど、アレンの奴エディをパーティーから外すために、ユルゲンから色々と受け取ってたみたいなんだ」
――! どうしてそのことを!
「どうしてそんな事知ってるのよ?」
「ユルゲンの奴が消える前の日、僕に話したんだよ」
ユルゲンの野郎……。
「だって考えてみてよ! ユルゲンだけが悪かったら、アイツが逃げた時点で僕らへの罰は取り消しじゃない?」
「確かにそれはそうだけど……」
「アレンの奴、僕らとエイレーネさんを会話させないようにしてるでしょ?」
「それはアレンがエイレーネさんの事を好きなんじゃないの?」
誰があんな口うるさい年増女を!
「そんなわけないよ、だってアレンの奴が好きなのは……」
まずい!
俺は焦った感じで中に飛び込む。
「2人共大変だ!」
「アレン、大変ってどうしたの?」
「スタンピードが起きて魔物が迫って来てるらしいんだ! エイレーネが3人で教会と孤児院に避難するように知らせて来いって!」
「嘘でしょ?」
「そんな冗談はいらないって」
「嘘じゃねぇって! ギルドに行けば分かるから早くこい!」
疑う2人を連れてギルドに入ると、職員たちが慌ただしく走り回っている。
「本当なんだ……」
「分かったら早く教会と孤児院にいくぞ!」
◆
走って教会に行くとシスターに伝える。
「大変です! スタンピードが起こって魔物が迫ってくるので、ヴィンスまで避難しなくちゃならないみたいです」
「冗談でもそんな事言っちゃダメよ」
「本当なんです! 信じてください」
カン、カン、カン! 避難指示の鐘がなる。
「嘘、本当の事なの!?」
「だから本当だって言ってるじゃないですか! 伝えましたからね!」
俺たちは次に孤児院に行くと。
「どうなってるんだ!?」
「孤児院に誰もいないわ!」
「あなた達そこで何やってるの? ここは立ち入り禁止よ」
さっきとは違うシスターに怒られた。
「冒険者ギルドから孤児院のみんなに避難するよう知らせてこいって言われたんです!」
「神父様の方針で別の町に送っちゃったから孤児はもういないわよ」
「「「――!」」」
「どうして!?」
「神父様の方針なんだから、私に聞かれても知らないわよ。私も避難しなきゃならないんだから、これ以上邪魔しないでよね!」
そう言ってシスターは去っていった。
「いったいどうなってるんだ……」
「アレンのせいなんじゃないの?」
「トーマス、なんで俺のせいなんだ?」
「エディがいなくなってから変なことばかり起きてるじゃん。アレンがエディをパーティーから外さなければ、こんなことにならなかったんじゃないの?」
「それは今、関係ねぇだろうが!」
「関係あるよ。エディとパーティー組んでおけば、今頃は金貨1500枚以上稼げたんだよ。それだけあったら王都でも暮らせてたよね?」
「なんでその話を知ってるんだ!?」
「トーマス、どういう事よ?」
「やっぱり隠してたんだね。知らないの? エディの討伐したジャイアントスパイダーの糸の落札金額は、いろんな所で噂になってるんだよ」
「アレン、最低ね! あなたとはもう一緒にパーティーを組めないわ! トーマス行きましょう」
「――!」
そう言って2人は去って行き、俺は2人の後姿が見えなくなるまで呆然と眺めていた。
「少年! こんな所で何をしている。避難指示が出ているのだぞ!」
騎士に叱られた俺はふらふらとギルドに戻り、寝泊まりしている部屋へ行く。そこには俺の荷物だけが残されていた。荷物を持って避難の列に加わりコラビの町を後にする。
結局、主都ヴィンスに到着しても2人と出会うことはなく、俺は1人で冒険者を続けることになったのだ。
◆
コラビの町がスタンピードにより陥落したことを知ったのは、それからしばらくしてからのことだ、私財を全て持っていこうと最後までかき集めていた神父が、魔物の体当たりにより倒壊した建物の下敷きになって死んだそうだ。
いけ好かない神父だったが、ギルドマスターやユルゲンの親父に夜逃げしたユルゲン自身。立て続けに欲張って失敗していく人を目の当たりにし、俺自身も失敗したせいか少しだけ同情してしまった。
ヴィンスの冒険者ギルドに向かい依頼を受けるか。
「あら、アレン君いらっしゃい。今日も依頼を受けるの?」
この人はヴィンスの冒険者ギルドの受付嬢。名前は忘れたがよく話しかけてくれる。コラビの町にいたギルドマスター代行のエイレーネは別の町に移動となり。別れるときは心を入れ替えて頑張るように励ました上に、俺があまりにも惨めだったのか、ギルドの雑務の罰は解除してくれた。
「はい、ホーンラビットの討伐でお願いします」
「パーティーを組めばもっと良い依頼を受けられるに、まだパーティーを組む気はないの?」
「1人の方が気楽なんで」
「無理しちゃダメよ? はい、依頼は受理したわよ」
「ありがとうございます。それでは」
ギルドを出るとホーンラビットを討伐するべく近くの森へ向かう。
いつの日かエディに謝るため、今は少しずつ強くなるんだ。




