第120話 買い出し
宮殿に到着したのだが、大き目の屋敷を想像していた僕はその大きさにびっくりした。ウィーンのシェーンブルン宮殿を思わせるような立派な建物である。
びっくりしている僕の前では、父様が兵士に向けて話をしている。
「無事にスヴェートの町に到着することができた。2日間この町で滞在することにしたので、各自休息を取ってくれ。自由行動でよいが、大公家の兵士としてハメを外しすぎることのないように注意してね」
「ハッ!」
兵士たちは宿舎の方へ移動して行ったので、僕たちも滞在中に使用する部屋へ入る。
「へー、さすが王家所有の宮殿だけあって、外観だけじゃなくて部屋も広くて立派なんだね」
「国王陛下が訪れてもそのまま執務ができるように立派に作られているとのことです」
陛下、旅先でも執務をしなくちゃならないんだね。
「それで今日この後はどうするのかな?」
「私が聞いています」
「アスィミが聞いてるの?」
「はい、ハリー様は今からオークキングの件で報告書を作成されるとのことなので、エドワード様に食事を任せたいと仰ってました」
「何人分かな?」
「本当はハリー様とソフィア様、エドワード様とヴァイス様の4食でいいのですができれば、コレットさんたちや私たちの分も合わせて9食作っていただけると嬉しいです」
「アスィミ、ちょっと図々しいぞ!」
「だってそれじゃあ、私たちの分は誰が作るんですか!?」
「私たち侍女たちは干し肉で十分だろ? この干し肉もエドワード様が改良されて、以前食べてたものと比べれば雲泥の差だぞ?」
「ジョセフィーナさんはワイルド過ぎます! エドワード様の作られる料理を食べたくないんですか!?」
「そ、それはだな……」
ジョセフィーナが急にもじもじし始めた。普段しっかりしてるだけに、こういう姿は新鮮だ。
『我はオークキングの肉を使った料理が食べたいぞ!』
「分かったよ。それじゃあ、オークキングを解体した後、みんなで食材の買い出しに行こうか?」
「さすがエドワード様です! ヴァイス様もナイスアイディアです!」
「アスィミ、ヴァイスが何て言ったか分かったの?」
「いえ、全然分かりませんよ。何となくそんな感じがしただけです」
本当に聞こえてないのだろうか……怪しすぎるんだよな。
屋敷を管理している執事さんに解体できそうな場所を聞いたところ、解体場があるとのことだったので、そこへ向かう。
なんでも昔、おじい様がよくここを拠点にして魔物狩りに行ってたそうで、その時に作らせたそうだ。
「まさかこの立派な解体場がおじい様の為に作られたとはびっくりだね」
「アルバン様は王子時代からかなり無茶なことをされていたようです」
ジョセフィーナのお父さんのジェンカー伯爵は、おじい様から伯爵の位をもらったって言ってたから、おじい様の話を色々聞いてるのかもしれない。
「そう言えば、おばあ様の物語ではスタンピードが原因で魔物が溢れ返った町で、おじい様と最初に出会ったみたいなことが書かれてるんだけど、本当のことなのかな?」
「エドワード様は、嘘が書かれていると思っていたのですか?」
「ああいった物語って面白くするために脚色されてるもんじゃないの?」
「いえ、うちの父に聞いた話では、実際にはあの物語より遥かに凄惨な光景で、アルバン様クロエ様お互い魔物の返り血で真っ赤だったとか」
「本当なの!」
まさか物語の方がダウングレード! と言うよりは、物語を美しく見せるために柔らかく書いたってことか。そうなってくると、どの話もマイルドに書かれている可能性がありえるな。
会話をしながら8本の糸をつかって解体して行く。4本はミスリルの糸で、もう4本は蔓をつかって持ち上げたりしている。。
「やっぱり器用ね、特にその蔓は便利でいいわね」
「そうでしょ? エンシェントトレントには凄く感謝してるんだ」
しばらくすると、オークキングとオークジェネラルの解体が終わったので、買い出しへ向かう事にする。普通のオークの解体はまだまだ在庫がたくさんあるので次回時間がある時にする事とした。
馬車で買い物へ向かおうとしたところで問題が起きた。母様が一緒についてくると言い出したのだ。6人乗りの馬車に対して僕、メグ姉、ジョセフィーナ、アスィミの4人に母様、コレットさん、メリッサさんの3人で7人となる。母様の護衛は外せないのでアスィミを置いて行こうとしたのだが、絶対について行くと駄々をこねるアスィミ。
そこでメグ姉が『だったらエディは私の膝の上でいいんじゃない?』なんて言い出すから、今度は母様も入って来て、どっちの膝の上で行くのか揉め始める。膝の上は決定らしい。
そして今、僕は母様の膝の上に乗せられて買い物に向かっている。非常に恥ずかしいのだが、母様はご機嫌だ。メグ姉が折れたわけではなく、行は母様の膝、帰りはメグ姉の膝ということで落ち着いた。
「母様はスヴェートの町に来たことはありますか?」
「私も初めてよ。エドワードと一緒に初めて来た町を見て回れるなんて楽しいわね」
「このメンバーだとジョセフィーナ以外で来た事がありそうなのはコレットぐらいかな?」
「私も初めてですよ。リュミエール侯爵領は東側なので東側はそれなりに詳しいですが、西側にはほとんど行ったことがないのです」
「そうなんだね。だったらジョセフィーナ頼りにしてるね」
「お任せくださいと言いたいところですが、寄ったことある程度なのでそこまで期待はしないでください」
「そう言えばウェチゴーヤ商会って王都以外にもあるんだよね。この町にもあるのかな?」
「いえ、この町にはないですね」
「えっ、そうなんだ!? こんな商会が集まってくる町にはないなんて意外だな」
「エドワード様、この町は王領ということになっていますが、実質的に管理しているのはリヒト男爵なんです」
「えっ、そうなの?」
「はい、表向きは領地を持っていない事になっておりますが、このスヴェートの町はリヒト男爵が拠点として管理しており、王都から東側のカエルムの町とシュトラールの町はテネーブル伯爵が拠点として管理されているそうです」
「へー、ブラウ伯爵もその2人の拠点では支店を出さないんだね」
「さすがに自分を調べている貴族のお膝元では出せないのでしょう。少しのトラブルが命取りになりますので」
「王都ではあんなに好き放題やってたのに?」
「確かにそうですね」
ジョセフィーナでもそこまでは分からないようだ。
「エドワード様、それは王国法のせいですね」
コレットさんが知っているようだ。
「また王国法なの?」
「またですか?」
「前におじい様が王国法の話をしていたから」
「なるほど」
「もともと初代ヴァーヘイレム国王が、王領ぐらいでは自由に商売が出来るようにと、規制緩めで商いが出来るようにしたのが始まりだそうです」
「その王国法って変えることはできないの?」
「公爵以上の全会一致で変えることが出来るのですが、貴族側の規制が厳しくなる場合は貴族派が反対して、民側の規制が厳しくなる場合は中立派が反対するため、なかなか変更することができないようです」
「なるほどね、急に厳しくされると言われれば反発しちゃうのか」
「その通りでございます」
「それにしても、スヴェートの町はリヒト男爵が管理しているのなら挨拶とかしなくても良かったのかな?」
「エドワード様、逆ですね。リヒト男爵が挨拶に来るのが普通なのです。ただ現在リヒト男爵はベルティーユ侯爵領で調査中のため不在なようですね」
「リヒト男爵もテネーブル伯爵と同じでパーティーに参加した後、調査に戻ったということかな?」
「その通りでございます」
リヒト男爵もパーティーだけ参加してすぐお仕事とは、可哀想なことをしてしまったな。
「エドワード様、市場の方に到着いたしました」
市場に到着したようだ。珍しい食材が売ってないか楽しみになってきたぞ。




