第12話 染色
冒険者ギルドを出た僕は、帰ったらメグ姉に相談しようと思いながら、以前糸の能力を練習した魔の森近くの場所に来ていた。
前世の記憶が混ざり、様々知識が備わってから、明らかに以前より精神的に強くなったような気がする。以前の僕なら、あのような理不尽な出来事には耐えられなかったはずだ。能力の糸が可能性を秘めているからかもしれないが、心にゆとりがあるのは確かだ。
「将来何をするにしても、糸の能力は強化しないといけないからな」
僕は草むらに目を向けると、花が咲いてる植物を探しだす。
登録した素材から糸を作ることができるのだから、染料となるものを登録すれば、色のついた糸を作り出せるのではないかと考えたのだ。
小さな町のせいかもしれないが、あまり綺麗な色の服を着ている人を見たことがないので、能力で色を付けることができれば付加価値の高い布を作り出すことができるだろう。
草むらを探し回っていると、高さは約80センチほど、小さなピンク色の花をたくさん付けている植物を見つけた。
「この花なら、ピンク色で登録できるんじゃないかな?」
とりあえず一本だけ茎から折って手に取ってみると。
『素材、タデアイを確認。解析しますか?』
頭の中に直接響き渡り、目の前に透明な画面が現れた。
【素材】植物、タデアイの葉、藍色
解析しますか? ・はい ・いいえ
タデアイという植物なのか、しかも、使うのは花の方ではなく、葉の方なんだなと思いながら〈はい〉を押す。
【素材】植物、タデアイ(解析中)
【登録数】1/50
【解析予測時間】12時間(登録数によって変わります)
どうやら、染料は登録数や解析時間が、糸の時とは違うみたいだ。少ない方が楽でいいかと思い、次々タデアイの葉を登録していく。
タデアイを探し回っていると、今度は黄色い菊のような花を見つけたので、摘んでみると。
『素材、ベニバナを確認。解析しますか?』
頭の中に直接響き渡り、目の前に透明な画面が現れた。
【素材】植物、ベニバナの花、黄色から赤色
『現在のレベルでは解析枠が1つしかないため、解析を始めると現在解析中のものはキャンセルされます』
解析しますか? ・はい ・いいえ
早くも2色目ゲットだと思ったのだが、タデアイの解析をキャンセルするのは勿体ないので〈いいえ〉を押す。
どうやら、今のレベルで一度に解析できるのは1つだけのようだ。複数解析で効率を上げるためには早くレベルを上げる必要があるが、現時点ではレベルの上がる条件は不明なので、先にタデアイの登録を急いで行った。もちろん、ベニバナはタデアイの次に登録する予定なので、採集だけは平行するが。
しばらく採取を続けると、タデアイの登録が50本になり解析終了したので、引き続きベニバナの登録を始める。こちらは見つけやすい色なので、すぐに50本になった。そういえば、ベニバナって紅花油が採れるやつだよな。今度、油が取れるか試してみたいな。
◆
染色に使えそうな植物を求めて森の中を歩いて行くと、やがて木々が間隔を空けて水辺に出た。そこには目を惹く植物が一面に広がっていたのだ。
垂れ下がった花の形が特徴的な色とりどりの花が咲いている。確かアイリスという花だ。日本ではアヤメとも呼ぶが、色の種類が黒、紫、青、赤、桃、茶、黄、白など豊富なことからギリシア神話の虹の女神イーリスに由来するとか……。
あれっ!? 女神イーリス様って、この世界の三柱に入ってるじゃん! こうなってくると、残りの二柱も地球の神話に出てきている可能性があるな。ローマ神話にギリシア神話って随分とバラエティーに富んでいるように感じる。
取り敢えず片っ端から引っこ抜いてみると。
【素材】植物、アイリス、黒、紫、青、赤、桃、茶、黄
解析しますか? ・はい ・いいえ
まさか一気に7色も登録できるとは思わなかった。驚きながらも〈はい〉を押す。
【素材】植物、アイリス(解析中)
【登録数】1/350
【解析予測時間】84時間(登録数によって変わります)
しっかり7色分の登録は必要なようだが、これで7色登録できるのはラッキーだと考えた僕は……。
辺り一面に咲いているアイリスを抜きまくったのだった。
……イーリス様スミマセン。
◆
一日染料に使えそうなものを頑張って登録した結果、糸のステータスがこうなった。
【能力】糸(Lv2)
【登録】麻(糸、縄、布)
【作成可能色】黒、紫、藍、青、赤、桃、橙、茶、黄、緑
【解析中】無
ついに糸のレベルが上がったのだ。どうやら素材や染料など10種類登録すると、レベルが上がる仕組みのようだ。
レベル3にするのにもう10種類でいいのか、必要数が増えるのかは登録してみないと分からないが、糸のレベルを上げる方法が分かっただけでも一歩前進だ。
そして糸のレベル2になった事により。なんと鉱物を登録できるようになり、さらに解析枠が2つになった。
ついに攻撃に使えそうな金属の糸、つまりワイヤーの製作が可能になるかもしれない。
鉄をどうやって手に入れようか思案しながら、帰宅するのだった。