第114話 お茶会(下)
綿の種類が増えたので、タオラーなクリスタ様に高級タオルケットをプレゼント出来るようになったわけなのだが、王妃様たちの会話はおもしろくない方向に進んでいた。
「ソフィアの髪や肌艶が昔会った時よりも、良いのだけど何かしてるのかしら?」
セレスティア様が聞いてきたのだが、7年以上前の母様の髪や肌艶なんて覚えてるの!? 怖っ!
「それなら、エドワードに洗ってもらうと髪の艶はもちろん肌艶が良くなるのよ」
母様、それは言ったらアカンヤツでは?
「「エドワード君に洗ってもらっているの!?」」
両王妃ビックリしてるじゃん。そしてこっちを見ないで!
「お、親子の愛ですかね?」
「エドワードは何言ってるのかしら、女性陣みんな洗ってあげてるじゃない」
『――!』
母様の爆弾投下に今度は女性陣全員が僕を見る。視線が痛いです。
「つまりそれほどエドワード君に洗ってもらうと肌艶が見違えるという事なのね?」
「そうなのよ。エドワードに洗ってもらうと、目に見えない汚れが落ちるみたいで、肌艶が全然違うのよ」
『目に見えない汚れ!?』
これ以上話を広げないでください。
「そういえばエドワードが考える料理も原因の1つかもしれないわね」
母様、話を変えてくれるのは有り難いのですが、料理関係も面倒な方向に行きそうだ。
「そう言えば陛下がローダウェイクで食べた料理の自慢ばかりするんだけど、そんなにローダウェイクでは美味しい料理が食べられるのかしら?」
今度はフローレンス様が聞いてくるのだが、陛下はいったいなんの自慢をしてるんだ!
「そうよ、エドワード考案のレシピが凄く美味しいのよ。先日のパーティーでは陛下は皆さんが帰ってからも食べられてたわ」
「他の貴族が帰ってからも食べていたのかしら? 陛下もお仕置きね……」
セレスティア様は礼儀に厳しそうだ。『も』ってことはレティシア様もお仕置きされるのだろうか。
「特に気になったのがプリンアラモードとか言うデザートなんですけど、どんなデザートかしら? 陛下の説明では全く分からなかったのよね」
『デザート!?』
フローレンス様は陛下がお仕置きされるのは気にしないようだ。
「プリンアラモードは確かに最強だったわ。プリンだけでも美味しいのに、それに生クリームやフルーツまで付いているなんて、この世にあるデザートの中で一番美味しいんじゃないかしら?」
『そこまでなの!?』
「そもそもそのプリンと言う言葉が謎なのよね。響きだけで美味しいのは分かるんだけど」
響きだけで分かるの? 王妃ともなればそのくらいの能力は必須なんだろうか……。
「うーん、陛下じゃないけど確かに口で説明するのは難しいわね。エドワード、プリンなら作ったやつ持ってるんでしょ?」
「はい、持ってますけど良いのですか? 今回の旅の途中用にピエールに頼んで作ってもらったやつなんですが」
「そんなの気にしないの。両王妃様には私が臥せっている間も、度々手紙をくれたり何かと気にかけていただいているのよ」
「そうなんですね。分かりました、それでは皿とスプーンを用意していただけますでしょうか?」
「皿とスプーンね! 誰か!?」
「畏まりました。すぐにご用意いたします」
フローレンス様が声をかけるとすぐにメイドが動き出し、皿とスプーンが用意されるので空間収納庫からプリンを取り出し盛り付けていく。
プリンだけでは少し寂しいので生クリームも上に乗せて完成だ。それをメイドさんに配ってもらうと。
「エドワードは食べないのかしら?」
「ええ、パーティーの準備の試食で食べすぎたので、しばらくは食べたくない感じなんです」
「そのおかげでパーティーは大盛況だったから仕方ないわね。それでは皆さんこの上に乗せられている白いのが生クリームと言って、下のプリンに付けて食べると美味しいのですが、まずは下のプリンだけで召し上がってみてください」
母様がそう言うとみんながプリンをスプーンで掬い口に入れる。
『美味しい!』
そう言うとみんな次々とプリンを掬い口に運ぶ。
「そのままでも美味しいのですが、生クリームと言うのを付けるとまた違った美味しさに変化いたしますね」
「そのようですね。私は生クリームを付けない方が好みかもしれません」
フローレンス様とセレスティア様が感想を言う。セレスティア様はプリンだけの方が好みのようだ。
「もう無くなってしまいましたわ!」
始まってからずっと無言でお茶を飲んでいた、第一王女のリリアーナ様が初めて喋った!
ちなみにリリアーナ様は、薄い水色の髪にブルーアパタイトのような瞳の色で、母親であるセレスティア様に似ている。
「ねえ、もうないの?」
反省していたレティシア様が聞いてくる。
「そうですね。元々数を用意してなかったのでお代わりはないですね」
「そうなのね……」
なんだろうか、さっきまでうるさかったレティシア様がそこまで落ち込むと罪悪感を感じる! 実際にもう2つしか残ってないので、みんなに出せないんだよね。
「陛下が絶賛するだけあって本当に美味しかったわ。ソフィアにエドワード君ありがとう」
「喜んでいただけたのなら良かったです」
フローレンス様がお礼を言う。
「ねえ、エドワード君。これって作り方を教えてもらえないのかしら?」
セレスティア様が聞いてくる。簡単に食べたければそうなるのだが。
「それが、その……」
「何か手に入らない特別な材料とかあるのかしら?」
「いえ、そうじゃなくて。おばあ様が『作り方を知りたい奴は私に許可を取りに来なさい!』と言ってまして」
「おばあ様ってクロエ様のこと?」
ん!? クロエ《《様》》?
「はい、そうです」
「「でしたら諦めるわ」」
おばあ様の名前を出した途端に両王妃が諦めた!
「お母様? そのクロエ様? に手紙を書けば済む話ではないのでしょうか?」
レティシア様が質問している。それで良いと思うのだが違うのだろうか?
「何と恐ろしいことを! レティシア! 王国史において帝国軍との最大の戦いは何か覚えている?」
「それはもちろん、ヴァルハーレン家がまだ公爵であった時代に起きたトゥールス奪還の戦いです! 当時トゥールスを治めていた子爵が帝国軍に惨殺され、占領されたトゥールスを奪還する戦争で、最大の功労者がクロエ・ヴァルハーレン……! クロエ様と言うのはそのクロエ様なんですか!?」
「そうよ、あの方にだけは逆らってはダメよ、王国が滅びるわ……」
おばあ様、凄く恐れられてるんですけど! いったい何をしたんだ! 凄く聞きたいけど聞かない方がいいとモイライの加護が言っているように感じる!
「いくらおばあ様でも、プリンぐらいで……」
「エドワード君待ちなさい! それ以上は口にしてはならないわ」
セレスティア様に止められてしまった。
「エドワード君の作る物にクロエ様が関わっているとなると、現地まで買いに行くしかないのかしらね?」
「いずれ王都に支店を出すので、それまではローダウェイクでしか食べられませんね」
「王都に支店を出すですって?」
セレスティア様がビックリしている。そんな変なこと言ったっけ?
「はい、ウェチゴーヤ商会の店舗を2つ手に入れたので、それを利用しようかと父様と話してました。ただ店舗の趣味があまりに酷いので、建て替えか改装にするか悩んでましたね」
「そうなのね、私もウェチゴーヤ商会を見たことはありますが、アレはないわね。分かりました、後のことは私に任せて下さい」
「任せるとは?」
「建物は建て替えにしましょう。私とフローが陛下に頼めばすぐに動いてくれるでしょう」
「さすがに父様に相談なしで決めるのはどうかと」
「それもそうね。ハリーには会議が終わり次第話しておくわ。エドワード君は準備だけしておいてくれればいいから」
「そういう事なら、分かりました」
その後、母様も加わった女性陣で店の外観をどうするなどの話で盛り上がり、それは父様たちの会議が終了するまで続いた。
結局父様も王妃さまのごり押しには勝てず、建物は建て替えすることになり、宰相様が責任もって行ってくれるらしい。
王都での用事を完了した僕たちは、カラーヤ侯爵領向けて出発するのだった。




