第110話 報告
ウェチゴーヤ商会の会頭、ヤマヴィキーロたちを捕らえて連れて帰ったのだが、父様にすんなりバトンタッチというわけには行かなかった。
「なるほど、実際に狙われたのはエドワードの傍にいた、問題を起こした店主という事だね」
「そうですね、まあ僕の方向に向けて矢を射ったのは間違いないので、強引だけど行けるかなと判断しましたが不味かったですか?」
「まあ、微妙なところではあるけど、それでウェチゴーヤ商会を追い詰めることができるのならいいんじゃないかな? エドワードに暴行を働いたのは間違いないんだから」
「まさか会頭自ら来るとは思いませんでしたが、捕らえられるなら多少の強引さも必要かなと思いまして」
「それでエドワード。ジョセフィーナから蹴り飛ばされたと報告を受けていますが、怪我はしてませんか?」
ジョセフィーナが母様に報告したようだ。
「もちろん、大丈夫です。チンピラに蹴られたぐらいで怪我はしませんよ」
「どうして避けなかったのですか?」
「相手の罪を確実にするためですね。カトリーヌさんやレギンさん、コウサキ親子など身近な人まで被害に遭っていますし、ウェチゴーヤ商会の被害に遭う人を少しでも減らさないと。おじい様も王都が荒れているのを聞いて珍しく落ち込んでいましたし」
「そうですか、なら今回は仕方ないですね。でも次からは気を付けるのですよ?」
「分かりました。それでウェチゴーヤ商会はどうしますか?」
「ふむ、エドワードならどうするのかな?」
僕の考えを聞いてきた、試されているのかな?
「そうですね、今ぱっと思い浮かぶので二通りですね」
「二通りかい?」
「はい、1つは今回とった手法が強引な面もありますので、誰かが横槍を入れて来る前に始末してしまえば罪を確定させることができます。罪を確定してしまえば、ウェチゴーヤ商会を簡単に潰せるのではないでしょうか」
「なるほどね、最悪の場合ウェチゴーヤ商会が残ったとしても会頭や店主、チンピラたちは始末済みだから相手に大打撃は与えられるね。それじゃあもう1つは?」
「もう1つはブラウ伯爵を引きずり出すことですね。ウェチゴーヤ商会が無くなれば、ブラウ伯爵にとっても痛いはずですから、出てくるのではないでしょうか? 王家に引き渡して引きずり出してもいいかもしれません」
「なるほどね。それでエドワードが決断するのならどちらにするんだい?」
どっちがいいだろうか……ブラウ伯爵を引きずり出したいが、本当にこれで出てくるのか?
「僕が決断するなら、最初の案にします」
「どうしてだい?」
「まず僕では本当にブラウ伯爵が出てくるのか、分からないからですね。あと貴族派の動きも分からないですし。結果が不明な案より確実にできることをやった方が良いと思いました。あと今回は謁見やカラーヤ侯爵領など盛りだくさんなので、あまりこれにかけている時間がないというのもあります」
父様は僕の案を聞いて思案すると。
「エドワードの案で大丈夫そうだね。2つ目の案は確かに時間がかかり過ぎる上に不明点が多すぎる。今回はスピード重視で捕まえてきたから、解決もスピード重視が望ましい。エドワードの言うように貴族派がどう出るか僕にも分からないからね」
「では?」
「うん、今すぐ処刑して王都の商人ギルドにクレームを出すことにしよう」
「クレームですか?」
「ウェチゴーヤ商会を野放しにしてたんだ、商人ギルドにもそれなりのツケを払ってもらわないとね」
「そうですね。商人ギルドにもブラウ伯爵の息のかかった者がいるって、カトリーヌさんが言ってましたし不正なども行ってる可能性もありますね」
結局連れてきた警備兵を除くウェチゴーヤ商会の会頭たちは処刑となり、警備隊と商人ギルドにクレームを入れると、警備隊の隊長とギルド長は飛んできたらしいのだが、現在、父様が対応中のため話の内容は不明だ。
「うーん、暇だ」
「エドワード様、旦那様が対応されているのに暇だというのは如何なものなのかと?」
「分かってるんだけどさ、外出禁止、歩き回るのも禁止じゃ何もできないよ。そう言えば、アーダム隊長が到着するの早かったけど、アスィミが頑張って走ってくれたの?」
「そうです、と言いたい所ですが、すでにアーダム隊長が近くまで来ていたので対応が早かったのです」
「父様が連れていけって言うだけのことはあるんだな、何回か剣術の手合わせしたけど、一度も勝てたことないんだよな」
「アーダム隊長はアルバン様や騎士団長のフォルティス様から直接指導を受けており、次期騎士団長の最有力候補ですからね」
「それでもステータスでは僕の方が上のはずだから、もう少しいい勝負が出来てもいいと思うんだけど」
メグ姉が何かを思い出したかのように話す。
「そういえば、エディのレベルが凄い勢いで上がって行くから忘れてたけど、まだステータスを上手く使い切れてないんじゃないかしら?」
「ステータスを上手く使い切るってどういうことなの?」
「レベルアップによってある程度は、体がそのレベルの数値に対応しようと作り変えられるでしょ?」
「何度か体が動かなくなったヤツでしょ?」
「動かなくなったのは急激に上がりすぎたからよ、通常でも数値に対応しようと作り変えられていると考えられているわ」
「そうだったんだね」
「エディの場合、加護の力も加わって凄く伸びているけど、体は7歳のままでしょ?」
「レベルが上がっても歳は増えないから……体の大きさが関係しているという事?」
「そうよ、いくら鍛えても骨格が変わるわけじゃないでしょ? 今の体でステータスの能力をフルに使ったら体の方が負けちゃうから、自分の体を壊さないようにセーブされているのよ。魔力は体の大きさに関係ないから使えているけど、攻撃力などはステータスの数値よりも体に合わせて抑えられているのよ」
「そうだったんだ! 普通に走るとアスィミに直ぐ捕まるのもそういうことだったんだね」
「どうしてアスィミから逃げたのかは知らないけどそういうことよ」
「エドワード様は1人で入浴しようと時々逃げるのです!」
「エドワード様それはいけませんね、私かアスィミのどちらかは常にお傍に置いてもらわないと困ります!」
「はい、反省しております」
「今後は逃げないようにしてくださいよ! エドワード様に洗ってもらうと肌ツヤが全然違うんですからね!」
それは専属侍女の任務とは関係ないと思うのだった。




