第11話 Side ユルゲン
俺の名はユルゲン、この町の町長の次男だ。町長の息子といっても、俺には兄がいるから、家督は継げない。
父親は俺に商人の娘との縁談を持ちかけたが、俺はその娘の顔が気に入らなかった。俺は自分の好みの女と結婚したいし、自分の好きなことをしたい。でも、父親に逆らうことはできなかった。そんな俺の運命が変わったのは、7歳の祝福の儀だった。
7歳になった者は教会に集められて、祝福の儀を受けることになっている。本来は神父が執り行うのだが、今この町に神父はいないので、シスターが代わりにやっている。顔は美しいのだが、ハーフエルフというのが残念だと親父が言っていたのを聞いた事がある。
祝福の儀では女神から様々な能力を授かる可能性がある。だが、魔術などの強力な能力を授かる者は貴族などの限られたごくわずかの人だけで、大抵は何も起こらない。俺もそうだろうと思っていたが、俺は火の魔術を得たのだ。火の魔術は平民では珍しい能力であり、強力な力でもある。俺は驚きと喜びに歓喜した。
これなら俺は冒険者になれるな。平民には魔術を使える者は少ないため、冒険者で魔術を使える者は大人気だと聞いたことがある。
これで、富や名声を得ることができるだろう。俺は冒険者になって、名を上げるチャンスが回ってきたのだ。
問題は冒険者になるとしても魔術師1人で戦えるわけではないので、仲間を集める必要がある。
俺は戦闘に使える能力を授かったやつを仲間にするために、祝福の儀を最後まで見ることにしたのだ。
目ぼしい能力を授かったやつの名前をチェックしながら周りを見回してみると、前々から目をつけていた孤児院組のメアリーがいた。
父親に連れられて教会の行事へ参加したときに目をつけて会話もしたのだが、隣にいるエディとかいうやつの自慢ばかりするので、かなりうんざりしたものだ。
近寄って聞き耳を立てていると、どうやらこの4人は冒険者を目指しているらしいな。基本的に冒険者の1パーティーは4人が上限となっている。なんでも1パーティー4人制限のダンジョン があって、ダンジョンのある街で揉める冒険者が多発したためだと言われているのだとか。
平民の祝福が終わり、特に目ぼしいヤツもいなく孤児院組の順番になるようなので、帰ろうとしたその時。
「アレンの能力は剣術です」
孤児院4人組の1人が冒険者向きの祝福を授かりやがった。剣術持ちは前衛として使える、魔術を使える俺の能力と相性がとてもいいんだが……。
その後、体の大きいやつが盾術、メアリーが水属性の魔術か……俺のパーティーに欲しい能力なんだが。特にメアリーの水属性の魔術は、俺の火の魔術以上に貴重だと聞いた事がある。なかなか上手くいかないもんだなと諦めていると。
「エディの授かった能力は糸です」
4人目の能力は聞いたことない能力だったが、戦闘系ではないと判断した俺は、チャンスだと考えて剣術持ちのアレンに話しかける。
「おい、ちょっと話があるんだが」
「何だ? って町長の所の……」
「ユルゲンだ。お前たち冒険者を目指してるんだろ。俺のパーティーに入らないか?」
「は? 何言ってるんだ。俺たち4人でパーティー組むから無理だな」
「本当にそれでいいのか?」
「どういうことだ」
「エディと言うやつの能力は糸なんだろ? そんな戦闘向きじゃない能力より、火の魔術を扱える俺の方が相応しいと思わないか?」
「……」
もう一押しだな。コイツはエディと話してたメアリーをずっと見てた。その辺りを利用してやれば押せるはずだ。
「エディをパーティーから抜けば、メアリーから引き離せると思わないか? お前には都合よいと思ったのだが違うか?」
「……他の2人に相談してもいいか?」
「あぁ、もちろん。良い返事を期待してる」
この後、女神が俺を祝福しているかのように、エディのヤツが気絶したのだ。
こうして、俺は冒険者のパーティーを手に入れることができたのだった。
◆
家に帰って親父に話したところ、意外にも喜んで、パーティー皆んなの初期装備と初級魔術書まで買ってくれるということになった。これでパーティー内での俺への評価がさらに上がるばずだ。
孤児院組から俺に対する評価を上げて、リーダーの座を確定させる必要がある。
冒険者登録する前に装備を買ってやれば、俺がリーダーで間違いないだろう。
次の日、俺たちは親父に教えられた武器屋と、魔術書店に向かい装備を、買ってやったのだ。
案の定、孤児院組は新品の装備に目を輝かせ俺に感謝していた。
エディというやつはまだ目を覚ましてないらしく、俺は心配するそぶりを見せつつほくそ笑む。
パーティーを早く確定させたかった俺は、装備で浮かれた3人を連れて、冒険者ギルドに向かい、冒険者登録をしたのだ。
パーティー名はあらかじめ考えておいた『火剣と水盾』ですんなり決まり、俺の輝かしい冒険者人生がスタートすることになった。
1つだけ懸念があるとすればエディの存在だろう。もし冒険者になって有名にでもなったら俺の立場が危うい、親父に頼んでみることにしよう。
◆
そして俺は一人でギルドから出ていくエディを見て親父に頼んで正解だったと思うのであった。