第107話 王都からの使者
カラーヤ侯爵領へ向けて、あと数日で出発するという時に、王都から使者が来たみたいなので、父様とおじい様が現在対応している。
カラーヤ侯爵領へは早めに出発して、遠回りで行くことになっていて、まだ僕が行ったことのないヴァルハーレン領のプラクラの町、ジェンカー伯爵領のヒルハイム、アルジャン子爵のプラータを経由してカラーヤ侯爵領に入る予定となっている。
しばらくローダウェイクを空けることになるので、モイライ商会の在庫は多めに作っておいた。
「ジョセフィーナは今回の目的地、カラーヤ侯爵領のサルトゥスの町へは行ったことあるんだよね?」
「はい、エドワード様を探すために魔の森近くの町は全て行きましたので、サルトゥスの町にも行っております」
「どんな感じの町だったかは覚えている?」
「そうですね、町自体はどこにでもあるような町なのですが、カラーヤ侯爵領自体が険しい山や森が多いため、町へ行く道のりが一番大変でしたね」
「カラーヤ侯爵領へ行くのはそんなに大変なんだ」
珍しくウルスが会話に入ってきた。
「エドワードはん、今回はワイも連れて行ってもらえるんですよね?」
「ウルス、また変な喋り方して。連れて行くわけないじゃん」
「えっ!? 何でやねん!」
「ヴァイスだけでも色々言われてるみたいなのに、ウルスを連れて行ったら何を言われるか分からないじゃん」
「折角シャバの空気を吸えたのに、留守番はもうあきたんや!」
「シャバの空気って、ウルスはムショ帰りじゃないでしょうが……もしかして悪いことして封印されてたって事?」
「そんなことないですよ! それに今回は魔物退治でしょ? 連れて行けばきっと役に立ちますよ!」
「どうして魔物退治でウルスが役立つの?」
「忘れてもらっては困ります。エドワードと同じ、糸の能力を使うことができるんですよ」
「それは分かってるんだけど、それだけじゃね」
「なら、これならどうですか? ヴァイス様、お願いします!」
そう言うとウルスはヴァイスに騎乗しようと……足が短いのでかなり苦労しているな……なんとか騎乗できたようだ。
「どうですか!? ウルフライダーです!」
真っ白な子狼に、ぬいぐるみが乗っている――!
「凄くかわいいね。癒されるよ」
「なんでやねん!」
「えっ! それ以外の感想はないよ?」
「エドワード様、うるさいので、取りあえず連れて行って、邪魔になるようなら鞄にでも押し込んでおけば良いのでは?」
「そうするか……空間収納庫に入れば楽なのに……」
そう言った瞬間ウルスが消えた。
『こら! エドワード、何するんだ!』
「あれっ? 空間収納庫に入ったのにウルスの声が聞こえる」
「エドワード様、私には何も聞えませんが?」
これって欲しかったナビゲートシステム的なやつ!……いややっぱりこんな中身おっさん的なぬいぐるみのナビはいらないかな。
「普段これで良ければ、何時でも連れていけるけど?」
「……」
返事が無い、ただのぬいぐるみのようだ。空間収納庫から出してみると。
「Zzz……」
「こいつ寝てやがる」
「はっ! あかん、寝てしもたがな、エドワードの空間収納庫の中、めっちゃ気持ちええで」
『なに! 我もやってみてくれ!』
試してみるが、ヴァイスは入らないようだ。
「生き物はダメみたいだね」
ガックリ項垂れるヴァイス。どうせ頭にしがみついてるんだから、変わらないと思うんだけどな。しかし、ヴァイスが入れないと分かった途端。
「ヴァイス様、残念でしたね。空間収納庫は私にお任せください!」
もの凄い手のひら返しだった。
「エドワード様、旦那様がお呼びです。応接室までお願いいたします」
アスィミが呼びに来た。
「分かったよ」
ウルスを空間収納庫に格納すると、父様の待つ応接室に行く。
「父様、エドワードです」
「エドワード、入ってくれ」
応接室に入ると、父様、母様、おじい様、おばあ様がいた。
「どうしましたか? 先程来ていた王都からの使者の件でしょうか?」
「その通りだよ。大至急、王城に来るようにとの事だったよ」
何か事件でも起きたのかな?
「王城にですか? それは急な話ですね。カラーヤ侯爵領へは、分かれて行くことになるのでしょうか?」
「それがね、エドワードも一緒に来るようにとのことなんだ」
「僕もですか? それではカラーヤ侯爵領へ行くのは取り止めでしょうか?」
「それで、話し合った結果、カラーヤ侯爵領には行くことは変わらないけれど、ルートを大幅に変更することにした」
「ルートを変更するのですか?」
「そう、まずイーリス街道を使い、先に王都まで行って用事を済ませてから、カラーヤ侯爵領に入るよ。本来はこのルートの方が速いから、王都で多少時間を取られても十分間に合う予定だ」
「それなら出発の準備はそのままで大丈夫そうですね。出発はいつぐらいになりますか?」
「明日出発することにしたから、そのつもりで準備しておいて」
「分かりました。それにしても、僕まで呼び出すなんて、いったい何の用なんですかね?」
「1つは分かっておるぞ」
さすがおじい様。
「おじい様は分かるんですか?」
「うむ、メイド服の件だ」
「そんな理由で緊急の呼び出しなんですか!?」
「うむ、おそらくだが次の会議に間に合わせられないかという、相談ではないかと思っている」
「次の会議までにメイド服が必要ってことなんでしょうか?」
「パーティーでのインパクトが凄かったからの。実際色々な貴族から、どこで作ったかなどの問い合わせや相談も来ているからな」
「そうだったんですね。王家用のデザインのエプロンはもうカトリーヌさんが作ってくれているし、メイド服自体は共通なのである程度は作ってありますよ」
「さすがエドワードだ! 準備がいいじゃないか」
「元々おじい様が、最低でも王家から注文が入ると言ってましたし。王様からも注文すると聞いてましたから」
「儂たちがやったみたいに、次の会議で揃ったメイド服を披露したいのだろう」
「なるほど、確かに各地の貴族が一堂に会する会議の時に披露するのは、効果的ですね」
「うむ、だから引き続きメイド服の件は頼んだぞ」
「分かりました」
そして、明くる朝、王都へ向けて出発したのであった。




