第104話 おばあ様と魔物狩り※
パーティーの後、フォーントゥナー素材の登録を試みたが、皮は不可能だった。レギンさん曰く、皮は乾燥させると脆くなる上に、臭いが酷く使い物にならないとのこと。角はそのまま武器に使いたいと言うことなので、レギンさんに渡した。いったいどんな武器を作るつもりなんだろうか。
メグ姉と剣術の練習をするため訓練場に向かっていると、おばあ様と遭遇します。
「エドワード、今から魔物を狩に行くよ!」
「誰とですか?」
「もちろん、私とに決まっているじゃないか。マルグリットもおいで」
「分かったわ」
プレジール湖を渡るため、乗船の準備をしているとアキラさんがやってくる。
「アキラさん、どうしたんですか?」
「エドワード殿、某のことはアキラと呼び捨てにてお呼び下され」
「えっ? 急にどうしたんですか?」
「二君に仕えるつもりはないと考えていたのでござるが、ツムギに叱られまして。小さなプライドは捨てて、改めてエドワード殿に忠義を捧げまする」
「それで良いんですか?」
「エドワード、そんなくだらない確認するんじゃないよ。エドワードに忠義を尽くすって言ってるんだから受け取ってやりな」
「分かりました。それではアキラこれからもよろしくね」
「ありがたき幸せ!」
おばあ様、男らしすぎます。
「それではアキラを呼んだのは、おばあ様なんですか?」
「そうだよ。ちょうどアシハラ国の剣技って言うのも、見てみたかったから丁度いいだろ?」
ということで、船を使いまたプレジール湖を渡って魔の森に移動した。
今回のメンバーは、僕、メグ姉、おばあ様、アキラさんでヴァイスとアスィミもついて来ている。
魔の森に入るポイントは、前回おじい様と入ったポイントより西側へ移動して入る。これは魔の森の魔物を間引いたり調査したりするためらしい。
森に入るなり、おばあ様は愛用のハルバードで魔物を突いたり、切ったりして倒していく。恐ろしく強いのだが、おばあ様の武器がハルバードということが一番の驚きだ。
弱い魔物だと一突きだけでバラバラとなり、切ってもなぜかバラバラに粉砕され凄くグロい。素材回収など出来る状態ではなく、メグ姉やアキラさんも無言でその光景を見ているだけとなる。おばあ様の活躍が記された本は、もしかしたら全く誇張されていないのかもしれないと思ったくらいだ。
おばあ様が鬼神のごとく魔物を粉砕していくこと30分。
「レギンに改造してもらったハルバードはかなりいいね」
「レギンさんに改造してもらったんですか?」
「柄の部分をエドワードが出した、炭化タングステンとか言う金属に換えて、さらに調整もしてもらったんだよ。力いっぱい振り回しても全然曲がらなくていい感じだよ。それにワンダリングデススパイダーの糸で作った服もいいね。この軽さで下手な鎧よりも強いのは助かるわ」
炭化タングステンの柄って……凄く重いはずなんだけど大丈夫なんだろうか?
「慣らしも終わったから、そろそろエドワードたちにも戦ってもらおうかしら? それにしても、やはりカラーヤ侯爵領やジェンカー伯爵領同様、うちの領も魔物の強さが上がっているね。前回ワンダリングデススパイダーと遭遇したのも頷けるわ」
「魔物の強さが上がっているのですか?」
「以前はこんな外縁部にいなかった魔物もいるからね、明らかに異常よ。次はエドワードがやってみなさい」
「連携とかはしないんですか?」
「ははーん、アルバンのやつが連携しろとか言ったんだね? 一番連携出来ないやつが何を言ってるんだか。今日連れて来た連中は、連携からかけ離れている者ばかりだから、順番でいいだろう。それにエドワードの力も見てみたいからね」
おじい様、色々言われてますよ。
「分かりました。それでは僕が行きますね」
僕が先頭で進み最初に現れたのは、大きな牛の魔物。
「ラーゼンクーよ」
メグ姉が教えてくれる。あれがラーゼンクーか! コンソメスープを作る時に使った牛じゃん。凄く強そうなんですけど!
取りあえず連接剣に魔力を流して首を狙う。弧を描き伸びた連接剣がラーゼンクーの首を突き抜け、ラーゼンクーは近寄ることなく倒れる。
「意外と弱かったな」
「エドワード殿の武器は滅茶苦茶でござるな!」
「エディ。普通の冒険者たちだったら。パーティーで時間をかけて倒す魔物よ。凄いわ」
メグ姉が褒めてくれる。
「自由自在に伸ばせて飛んでいくのは便利だね。射程距離はどのくらいあるんだい?」
おばあ様が質問してくる。
「チャレンジしたことないので正確には分からないですけど、目で見える範囲ぐらいは行けるんじゃないでしょうか?」
「自分の得物の特性ぐらいは把握しておかないとダメね」
おばあ様にダメ出しされてしまった。おばあ様はキョロキョロ辺りを見回すと。
「エドワード。あの木の上の鳥は見えるかい?」
おばあ様が指さしたのは800メートルぐらい先にある、木の上にいる赤い鳥の魔物だった。よくあんなに遠いの探せるな。
「試してみます」
距離が遠いのでスピードを出せるよう魔力をたっぷり流し、真っすぐ首を突き刺すように飛ばす。
一直線に飛んで行った連接剣は赤い鳥の首に突き刺さり刎ねる。首の無くなった赤い鳥はそのまま落ちて、木に引っかかるのが確認できた。
「届いたみたいですね」
「エドワード様、理不尽すぎます!」
「エディ、凄いわ!」
アスィミが答え、メグ姉が褒めてくれる。
「800メートルぐらいは余裕で届くって事だね。弓でも届かない距離だから戦争にでもなったら驚異的だね」
弓の射程距離は100メートルぐらい、風の魔術を併用することにより200メートルぐらいまで飛ばせるらしいが、それは一部の者だけだ。
戦争では一般的に200メートルぐらい離れていれば安全とされている。もちろん地形や風など条件次第では400メートルぐらい飛ばせることもあるらしいので、その都度対応する必要はあるが。
そういったことを考慮しても800メートルという距離は相手にすれば恐ろしい射程距離となるが、戦争ならわざわざ連接剣を飛ばさなくても糸を使った方が効率は良い。
「おばあ様。戦争ならたくさんの糸を飛ばした方が楽ですね」
「たくさんの糸かい?」
僕は直径1センチ、長さ5センチの鉄の糸を10本出すと、さらに遠い所にある木を狙って高速で放つと命中した木は折れる。
『――!』
「こんな感じですね」
「これは凄いね! ハリーやアルバンでも1キロ以上離れていては直ぐには近づけないわ」
「あんなのを戦争で放たれては、絶対勝つことは不可能でござる」
「欠点としては無差別攻撃になるので、味方が捕まってたりすると使えないことですかね」
近づいてくる魔物を倒しながら赤い鳥の近くまで行くと。首のない赤い鳥が逆さまで木に引っかかっているのだが。
「2メートルぐらいあるのかな? 随分と大きい鳥なんですね」
「レッドファルコンだからこんなもんでしょう。血抜きも終わって丁度よかったじゃないか。問題はどうやってあの高さから下ろそうかしら?」
「僕が下ろしますよ」
そう言って蔓を使い下ろすとおばあ様が。
「なんだい、その便利な蔓は。羨ましいね」
「確かに便利でござるな」
「エディ、凄いわ」
レッドファルコンを空間収納庫に入れて進もうとすると。
「エドワードの糸の能力は、検証しなければならないことが多すぎるね。いったんマルグリットに代わりな」
「私の番ね。任せて」
メグ姉にバトンタッチすることとなったのだが、メグ姉は近づいてくる魔物全てを凍らせる。
「なるほど、氷華の二つ名は伊達じゃないね。エドワード同様近くに味方がいる時は、手加減しないとダメなパターンか。イグルス帝国の奴らに捕まったのは、やっぱりジョセフィーナのせいね」
「誰のせいでもないわ。私が油断したからよ」
凍った魔物を触ってみると。
「魔物がカチンコチンになってるね」
「氷耐性の強い魔物はどうするんだい?」
「もちろん、逃げるわ」
「それが間違いないでござるな」
「氷耐性が強いと凍らせることが出来ないの?」
「できないわけじゃないけど、時間がかかる上にたくさん魔力を消費しちゃうのよ」
「例えばだけど、口の周りだけ凍らせたりはできないの?」
「口の周りだけ?」
「うん、昆虫系は無理かもしれないけど、普通の魔物なら呼吸をできなくしてしまえば、凍らせる量を減らせるのかなって」
「さすがエディ、おもしろい案ね!」
メグ姉が僕を抱きしめる。
「ちょっと試して見るから、失敗したら止めを刺してもらえるかしら?」
「分かったよ。任せてね」
しばらくすると、フォルターグリズリーが現れる。フォルターグリズリーはこちらを見つけると走り出すが、直ぐに走るのを止め、もがきあがく。
次第にフォルターグリズリーの口どころか顔全体が氷で覆われて、そのままフォルターグリズリーは倒れてしまう。フォルターグリズリーって魔力耐性結構あったと思うんだけど……。
「倒したの?」
「そのようだね」
おばあ様が答えた。
「エディの言う通り、全体を凍らせるよりはこっちの方が楽だし、敵味方入り混じっていても、これなら使えそうね」
「それなら良かったよ」
「しかし、呼吸をできなくして倒すとか、おっかない孫だね」
何でも粉砕してしまう、おばあ様には言われたくないと思ったのだった。
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おばあ様、つまりクロエのイメージ画像ですw




