第103話 パーティーの後
パーティーは大盛況のまま幕を閉じ、参加者を送り出して現在は反省会なのだが、1人だけまだ帰ってない人がいた。
「エドワードよ! このフォーントゥナーの煮つけなる料理は美味いな!」
なぜか陛下がまだ残っているのだ。
「兄上、いい加減に帰らなくてもよろしいのですか?」
「アルバンが冷たい」
「伯父上、何か気がかりなことでもありましたか?」
「さすがハリーは鋭いな、アルバンとは大違いじゃ」
「それで何が気がかりなんだ?」
「ヴェローチェ子爵とライナー男爵は、ブラウ伯爵からかなりの借金をしているようだ、注意せよ」
『――!』
「なるほど、言われてみれば挨拶の順番で揉めたり、不審な行動は多かったですね」
さすが父様よく見ている。
「それと、エドワードにフォーントゥナーのステーキを焼いてもらう子供たちの中に、ライナー男爵の息子と娘は混ざってなかったよ」
「そうなんですか?」
全然気がつかなかった。
「終始会場の端で親子が固まっていたから、不思議に思って一度だけ声をかけたんだけどね。新興貴族だからみたいな話をしていたのだけど」
「うむ、さすがハリーはよく見ておる。ライナー男爵は武勲をあげて男爵になったのだが、様子がおかしいとの報告を受けて調べたところブラウ伯爵に嵌められたようでの」
気になっていることを聞いてみる。
「それって陛下が介入することは出来ないんですか?」
「残念ながらできんのだ。貴族同士の戦争にまでなれば別じゃが、現段階での介入は無理じゃな。借金をしておるだけだし」
「そうなのですね」
介入は難しいようだ。
「ヴェローチェ子爵はなぜ、領地が隣で同じ王国派のリュミエール侯爵ではなく、貴族派のブラウ伯爵に借金を?」
父様が質問する。
「それは今調査中じゃが、どうもブラウ伯爵だけではなく、ベルティーユ侯爵も絡んでおるのは間違いなさそうだ。要塞の件で調査していく中で判明したのだ」
「兄上はそれを伝えるために最後まで?」
「いや、メルヴィンのヤツに何かお土産をお願い出来んか? 直ぐに帰るつもりじゃったが、あまりに出てくるものが美味しすぎて、いつの間にか最後まで残ってしまっていた」
この陛下、間違いなくおじい様と血が繋がってるよ! 宰相へのお土産が本命だったとはビックリだ。
「これをお持ちください。料理長のロブジョンに用意させたものです」
父様、凄すぎ。尊敬します!
「ほう、さすがハリー。そなた本当に……」
陛下、おばあ様に睨まれて黙っちゃったよ。
「このワインは?」
「もちろん、会場で出していた。大地の恵みです」
「ハリー! 本当に恩に着るぞ! このワインとツマミがあれば、メルヴィンも怒らないはずだ」
これは絶対に怒られるやつだな。
「陛下、そろそろ」
「わかっておる」
国王近衛兵の団長さんが、陛下を呼びに来た。
「それではハリーよ、次の会議にはエドワードを連れてくるのじゃぞ!」
そう言い残して、陛下は馬車に乗り込むと去って行った。
「陛下も帰られたことだし、情報を整理しに行こうか?」
場所を移動して今日のパーティーの結果を整理する。
みんなが席に着いたところで父様が話始める。
「今日はみんなご苦労様。予定外の出来事も多かったけど。取りあえず成功と言っていいだろう」
「まさか陛下が来るとは思いませんでした」
「儂も兄上自ら来るとは思わなんだが、見つかったエドワードに会いたくて来たようだぞ」
「そうだったんですか!?」
「聞けば兄上も独自のルートで探していたらしくてな、見つかった報告をしてなかったので、文句を言われたぞ。特に祝福の儀で上がってくる能力の情報を注意していたそうだ」
「雷の魔術に適性のある子供を探していたのだから、見つからないはずだね」
「あら、エディのお父さん、例え雷だったとしても報告は上がらなかったわよ」
「マルグリットさん、どうしてかな?」
「家名が見つかった時点で、エディの情報を上げるつもりなかったからよ。家名が無くて能力が糸だったとしても上げなかったわ。国に伝わることは分かっていたもの」
「さすがエディ君至上主義のメグね」
メグ姉が凄いでしょ? と言わんばかりのポーズをとっているが、褒め言葉なのか?
「先ほど、陛下が言っていたヴェローチェ子爵とライナー男爵の件は、何かしなくていいのでしょうか?」
「エドワード。何かとは具体的にどんなことだい?」
「例えば借金を肩代わりしてあげるとかはどうですか?」
「頼まれてもないのにかい? 頼まれてもないのに首を突っ込むのはよくないな。基本的に不干渉のルールもあるからね。どんな理由があろうと同じ派閥の貴族から借りるならまだしも、貴族派と知っているのに借りて、何か裏切るような行為をしているのなら助けることはできない」
「そうなのですね、分かりました」
貴族同士の干渉には色々なルールがあるみたいで、まだまだ勉強が必要なようだ。
「今はおそらく、ブラウ伯爵を泳がせて反乱分子を炙り出しているんじゃないかな?」
「何!? ハリー。今のは真か?」
「おそらくですが、叔父上の考えではないでしょうか?」
「なるほど。メルヴィンのやつなら考えてもおかしくはない。この先、帝国と戦う時がくるのを、見据えているのだろう」
「帝国は父様と、おじい様が退け、城も陥落させたんじゃないのでしょうか?」
「そうだ、城を使えなくしたから当分の間はせめて来ないだろうが、倒したのは本軍ではないからの。所詮、功に焦った者たちが進軍してきたにすぎん。本軍はベスティア獣王国と戦争しているはずだ」
「ベスティア獣王国ですか?」
国内を覚えるのが精一杯で、まだ国外は習っていない。
「うむ、アスィミの出身国でもあるな」
「私がいた村は小さな村でしたので、ベスティア獣王国という名前さえも知らなかったです」
「まあ、イグルス帝国は隣接する国全てと戦争しているからな。うちのような大国は後回しになるのだろう」
イグルス帝国は戦闘民族なのか?
「イグルス帝国には注意しながらも、当面は国内を纏めるのが先決だからね。話は変わるけどエドワードは、他の子供たちとかなり打ち解けたようだね?」
「はい、僕の力と言うよりは、ヴァッセル公爵家のロゼ嬢と、カラーヤ侯爵家のマルシュ君のおかげですけどね」
「ヴァッセル公爵家のロゼ嬢はともかく、リヒト男爵家のエリー嬢が懐いていたのには、リヒト男爵がビックリしていたよ」
割と直ぐに近づいてきたけど、レアなケースだったのかな?
「エリー嬢は結局、一言も声を出すことがなかったのですが、声を発することが出来ないのでしょうか?」
「そのようだね。ある日突然出なくなったそうで、原因は分からないらしい。そのせいかすっかり心を閉ざしてしまったみたいだね」
「テネーブル伯爵家のノワール嬢と仲が良いみたいでしたが?」
「両家は仕事柄よく一緒になることが多いみたいで、何度か一緒するうちエリー嬢の言いたいことが、なんとなく分かるノワール嬢にだけ懐いたらしいよ」
「あれで、なんとなくなんですね」
ほぼ完璧に通訳していたように見えたけど。
「これから交流も増えるから、仲良くなっておくことは良いことだよ」
「交流が増えるのですか?」
「僕も今までイグルス帝国の対応を理由に、エドワードを探していたから、7年間ほとんど交流してないんだ。フィアも寝込んでから一切交流してないし、親子3人で今後は他領に行くことが増えるから覚悟しておくんだよ」
僕が嫌そうな顔をしていたのか、メグ姉が励ましてくれる。
「エディ。親子3人で旅行できるのよ、喜びなさい。それに各地で美味しいものを見つけて私に食べさせてくれるんでしょ?」
「そうだったね。どうしても貴族に対する苦手意識が残っちゃってるみたいでさ」
「次の会議で王都まで行くのは決まっているのだけど、その前にエドワードが仲良くなったマルシュ君の、カラーヤ侯爵家に行くことが決まっているから、そのつもりでね」
「カラーヤ侯爵家ですか?」
「カラーヤ侯爵に頼まれてね。魔物が異常発生しているみたいで、応援が欲しいそうだ」
「私の実家であるジェンカー伯爵領と、カラーヤ侯爵領は比較的強い魔物が魔の森から出てくるのです。父も今年は例年より多いと言ってましたね」
ジョセフィーナの実家もそうなんだ。立地的に魔の森に囲まれているから多いのだろうか?
とにかく、王都とカラーヤ侯爵領に行くことは決定したのだった。




