第100話 貴族の子供たち
パーティーが始まるとワインだけではなく、初めて見る料理を前に、食にうるさい貴族たちも料理に群がる。
その様子を見ていると陛下に声をかけられた。
「大地の恵みもエドワードが遺跡とやらで見つけたのか?」
「その通りでございます」
「つまりアルバンはもう飲んでおるのだな?」
「はい、おばあ様に怒られるぐらいは」
そう言うとおじい様が話に入ってきた。
「これ、エドワード。そんなことまで言うんじゃない」
「アルバンめ! なぜ儂を呼ばんのだ!?」
「呼んでも簡単に来られないだろうが」
「今回来なかったら、危うく飲めなかっただろうが!」
喧嘩しそうな勢いなので、メイドに頼んで陛下にお代わりを持たせる。
「うむ、エドワードはアルバンと違って気が利くな。その辺りはハリーに似て安心したぞ」
「どういう意味だ!?」
「そのまんまだ! きっと母親のクロエに……ハリーは本当にお前たちの子か?」
「失礼なヤツだな。儂にそっくりであろうが!」
「「……」」
おばあ様の武勇伝は本になるぐらい有名で、僕も読んでみたのだが、どこまでが本当なのか聞くのが怖いぐらいの内容だった。
「それにしても、他の貴族たちも驚いているが、あの使用人たちの服装はどうしたのだ?」
「我が孫の凄さを思い知れ! エドワードが考案したメイド専用のメイド服と、男性使用人専用、執事服だ!」
そう、実はメイド服を女性使用人たちに着させたところ、男性使用人のバラバラな服装が浮いてしまったので執事服も作ることになってしまった。
執事服のランクはボタンなどの豪華さで変えてあるので、作るのは1種類のサイズ違いだけだが。
「ふむ、メイド服か……あれは実に良いものだな」
「はい、素晴らしい出来だと思います」
「まだ、他の貴族から注文は入っていないな?」
「まだ入っていませんね」
「なら良かった、城のメイドの分の発注を任せたぞ!」
「何着ぐらい必要でしょうか?」
「むっ、それは確かに分からぬな、メルヴィンのやつも連れてくれば良かったぞ」
「そんなことで、メルヴィンを呼ぶな!」
「ふぅ、やはり脳筋のアルバンにはアレの良さが分からんようだ、兄として嘆かわしいぞ」
「おじい様、残念です」
陛下とがっちり握手しました。
「まさかメイドの服で、そこまで言われるとは思わなんだぞ」
「そうだな、今は数も分からぬし一度王都まで来い」
「畏まりました」
「兄上、どうせなら次の貴族会議の時で良いかの? 兄上に献上したい物があるのだ。ついでに王家御用達の看板もくれ」
「儂にか? ふむ、次の貴族会議が楽しみになったぞ。御用達の件はメルヴィンに言っておくぞ」
「ありがとうございます」
話をしていると父様がやってきて。
「伯父上あまりエドワードを独占されては困りますね。エドワードと話をしてみたい子たちがこちらを窺ってるんですから」
本当は気がついてました! 貴族の子供って苦手意識が強いんだよね。
「それは悪かった、話の続きは今度、王都に来た時にでもするとしようか」
「畏まりました」
そうして陛下から解放されると、途端に貴族の令嬢たちに囲まれる。
「陛下とかなり話し込んでおられましたね?」
最初に話しかけてきたのは、水色の長い髪にサファイアのような青い瞳が特徴のロゼ・ヴァッセル嬢(7歳)だった。ヴァッセル公爵はヴァーヘイレム王国で数少ない海に面した領地を所有している貴族だ。水系の魔術が得意な家系らしい。
「ええ、今度王都に来るように言われたので、色々話を伺ってました」
さすがにメイド服の話で盛り上がっていたとは言えない。
「陛下に招待されたのですね、凄いです」
「あら? ロゼはお料理について伺いたかったんじゃないの?」
「アウルム! 余計なことは言わないでください!」
続いて会話に入り込んできたのは、アウルム・デーキンソン嬢(9歳)ツーサイドアップにしたダークブロンドの髪に、プレナイトのようなマスカットグリーン色の瞳が珍しい。デーキンソン侯爵領はヴァッセル公爵領の隣なので、二人は知り合いなのかとても仲が良かった。
「何か気になる料理でもありましたか?」
「はい、あの油で揚げた魚のフライにかける白いソースがとても美味しく、メイドに聞いたらエドワード様が、お考えになられたと聞きましたので」
「かなり気に入ってたみたいよ。普段小食なのに、あれ程の勢いで食べるロゼを見るのは初めてよ」
アウルム嬢のひと言で白磁のような肌が真っ赤になった。フィッシュフライの白いソース?
「ああ、タルタルソースのことですね?」
「タルタルソースと言うのですか!?」
凄い食いついてきた。マヨネーズの作り方はしばらく内緒にするよう、おばあ様に言われてるしな。
「1つ内緒にしなければならない物もあるので、それ抜きで作れる方法なら教えられますよ」
「本当ですか!? ぜひお願いします!」
「ええ、材料はゆで卵と水を切ったヨーグルトに玉ねぎ・塩コショウ・砂糖です。基本的にはそれらをみじん切りにして混ぜ合わせるだけですよ。今日出してるやつにはピクルスのみじん切りも入っていたかな?」
「へー、本当にエドワード様が考えたのですね。てっきりレシピが内緒だから、エドワード様に振ったのかと思いました」
普通はアウルム嬢の言う通り内緒にするらしいのだが、ある程度簡単に作れそうなものは、さっさと広めてしまった方が、様々な料理を開発してくれそうなので都合がいいのだ。
僕の服を引っ張っている子がいるので話しかけてみる。
「どうしたの?」
振り返るとそこにいたのは、リヒト男爵家長女のエリー・リヒト嬢(5歳)ツインテールにしたホワイトブロンドの髪に虹色の瞳が神秘的な女の子だったのだが、顔を赤らめてモジモジしている。
「えっと何かな?」
「エリーは、エドワード様の、おすすめ料理を知りたいそうよ」
横から説明が入ると、エリー嬢は頷く。そして今説明してきたのは、テネーブル伯爵家次女のノワール・テネーブル嬢(10歳)長い黒髪にアメジスト色の瞳が神秘的な女の子だ。今日この会場にいる2大神秘的少女が揃っているのだが、2人揃うと凄く対照的な感じだ。
「おすすめの料理?」
「エリーはどの料理も美味しそうだけど、たくさんは入らないのでエドワード様のおすすめから食べたいそうよ」
ノワール嬢が説明すると、エリー嬢がコクコク頷く。はっきり言って凄く可愛い生き物だ。
「確かにエドワード様のおすすめには興味ございますね」
「私でも全種類食べることは無理そうだから、聞きたいわね」
最初からいたロゼ嬢が言うとアウルム嬢も賛同する。
僕は並んでいる料理を見ると、おすすめを見つけたので近くに4人を連れて行く。
「皆さん、このスープはもう飲みました? まだ飲んでいないのだったら、ぜひ味わって欲しいスープですね」
会場の人たちも料理に夢中で、コンソメスープはまだ誰も飲んでいないみたいだ。
「他のとっておきもあるのですが、もう少し後で出てくるのでその分はお腹を空けといてね」
女の子たちにお腹を空けといてと言ったのは失敗だったのだろうか、4人とも頬が赤くなったぞ?
「とにかく、とっておきのスープだから飲んでみてよ。スープを彼女たちと僕の分ももらえるかな?」
「畏まりました」
メイドが4人と僕にスープを配る。
「綺麗な琥珀色のスープですけど、具材は見当たらないわね」
ロゼ嬢が見た感想を述べると他の3人が頷く。
「ええ。もちろん、具材を入れても美味しいのですが、初めての皆さんにはスープを味わって欲しかったんですよ」
「それだけ、スープに自信があるってことなんじゃない?」
アウルム嬢が応える。
「エドワード様のおすすめです。エリー飲んでみましょう」
ノワール嬢が促すと4人はコンソメスープを飲み始める。
「「「「――!」」」」
4人ともビックリすると一気に飲んでしまう。
「あぁ、無くなってしまいましたわ」
「なんてスープ! スープだけなのに複雑な美味しさね」
「さすがは、エドワード様のおすすめね。今日これを飲まなかったら、後悔するところでしたわ」
ロゼ嬢、アウルム嬢、ノワール嬢の感想だ。エリー嬢はみんなの感想に頷いている。この子喋れないのか? いや挨拶は……母親に隠れていたから声は聞いていないかも。
「あまりにも美味しくて一気に飲んでしまったので、お代わりをいただいても、よろしいでしょうか?」
「もちろんですよ! 4人にスープを」
「畏まりました」
メイドが4人にスープを上げている間に、僕もコンソメスープに口をつける。さすがはロブジョンさん、僕が作ったのは食材が豪華すぎて参考にならないが、普通の食材でも味に深みがあって凄く美味しい。ロブジョンさんに作り方を教えたのは正解だったな。
その後、スープでのやり取りを見ていた、大人たちを皮切りにコンソメスープは大盛況となった。




