第10話 冒険者登録
朝、目が覚めると、メグ姉はもう教会の方へ行ったのかいなかった。昨日魔力を使い切るまで出し続けた麻縄も、丁寧に巻いて置いてあった。僕はメグ姉の優しさに感謝しながら、ステータスを出して魔力の確認をした。
【名前】エドワード・ヴァルハーレン
【種族】人間【性別】男【年齢】7歳
【LV】1
【HP】10
【MP】305
【ATK】10
【DEF】10
【INT】300
【AGL】10
【能力】糸(Lv1)▼
【加護】モイライの加護、ミネルヴァの加護
「やった! MPが5増えている」
どうやら、異世界あるあるのMP使い切って寝ると魔力が増えるパターンはこの世界でも有効らしい。僕は嬉しくて小さく拳を握る。
続いて能力の『糸』に集中してみると。
【能力】糸(Lv1)
【登録】麻(糸、縄、布)
【解析中】無
解析中だった麻布が登録されているのを確認する。
「よし、しっかり登録されてるな。麻布を出す検証はまた夜になってから寝る前に行うとして、今日は冒険者登録に行こう」
僕は孤児院で朝食を食べたあと、冒険者ギルドへと向かう。冒険者ギルドは冒険者たちのための斡旋所だ。そこでは様々な依頼が出されており、それを受けて報酬を得ることができる。依頼の内容はさまざまで、草むしりや荷物運びなどの雑用から、魔物退治や遺跡探索などの危険なものまである。冒険者登録するとギルド証という証明書をもらえる。ギルド証は身分証明の代わりになり、街への出入りがスムーズになったり、一部の町では通行税が免除されたりする。冒険者は自由で楽しそうだし、色々な場所に行けるし、お金も稼げる。だから僕は元々冒険者になりたかった。
アレンたちからはパーティーを外されたけど、ヴァルハーレン領を目指すからには、身分証明は必ず必要なので、個人として登録しておきたいと思っていた。僕は自分の目的を達成するために必要なことをするだけだ。
しばらく道を進み、町の中心から離れていくにつれ、人影は少なくなり、やがて見えてきたのは冒険者ギルドの建物だった。それは町の外れにぽつんと佇む木造2階建ての建物で、シンプルで堅実な印象を与えるもので、よくありがちな酒場は併設されていないそうだ。酒場が併設されていないということは、酔っ払いの冒険者が絡んでくるようなトラブルも少ないだろう。それでも冒険者ギルドは町で唯一の情報源であり、依頼もそこでしか受けられないので、朝一番には多くの冒険者が集まって依頼の取り合いになるという。辺境の小さな町では依頼も限られており、先着順でしか受けられないのだ。だからこそ、冒険者登録をするには朝一番ではなく、少し落ち着いた時間帯がおすすめだという話をメグ姉から聞いていたので、僕は朝食をゆっくり食べた後に出発したのだった。
冒険者ギルドの扉は開放されており、中に入ると左側には依頼などが貼ってある掲示板エリアがあった。そこには様々な依頼が貼られており、冒険者たちはそれを見て自分に合ったものを探すのだろうが、今は誰もいなかった。掲示板エリアの反対側には3つのカウンターがあり、そこで受付嬢が冒険者たちと対応するのだが、左端のカウンターは休憩中か何かで誰も座っておらず、中央のカウンターでは可愛らしい受付嬢が笑顔で冒険者と話していた。右端のカウンターには禿げ頭にヒゲ面の厳ついおっさんが座っており、暇そうにしている。
登録するだけだから、誰でもいいと思った僕は禿げた暇そうなおっさんの前に行く。
「冒険者登録をお願いします」
禿げたおっさんは一瞬僕を見て驚いた顔をするも、今度は僕の顔を見てニヤニヤしながら答える。
「冒険者登録をしたいだって? ……お前って、孤児院のところのエディだな? 悪いがお前の冒険者登録はできないな」
できないって? 一瞬頭が真っ白になるが、直ぐに聞き返す。
「どうしてなんですか!?」
「お前って生産職系の能力なんだろ? 冒険者は死と隣り合わせの職業だ、危険だから辞めとけ」
なぜか禿げたおっさんは、僕の能力を知っているみたいだ。僕は不審に思ったが、それよりも怒りがこみ上げてきた。
「は? 能力なんて冒険者登録には関係ないじゃないですか! そもそも冒険者の危険については自己責任だし、僕くらいの年齢でもできる、草むしりや掃除などの危険を伴わない安全な仕事だってたくさんあるじゃないですか!」
僕が正論を言ったのが気に入らなかったのか、禿げたおっさんは苛ついて面倒くさそうな顔をすると。
「うっせぇな。ギルドマスターのオレ様がダメって言ってるんだから、ダメなもんはダメだ!」
この禿げたおっさん、ギルドマスターなのか!? 僕は信じられなくて目を見開く。
「ギルドマスターだからって、このギルドではそんな横暴がまかり通るんですか!?」
禿げたオッサンはニヤリと笑うと。
「ボウズ覚えておけ。ギルドでは俺様がルールだ。俺様がダメと言ったらダメなんだよ!」
「――!」
これ以上なにを話をしても無駄だと思った僕は、ギルドを後にしたのだった。