1ミリでも君に近づきたい
いつものように部屋で読書をしていたミリアにジュリアンの休みが伝えられたのはつい先ほど。
ミリアはジュリアンと過ごすための準備に忙しくしていた。以前からあまり時間のとれない日々を送っていたが、ジュリアンはミリアとの関係を少しでもよくする為に忙しい執務の合間をぬって手紙を書いていた。
ジュリアンの気持ちが嬉しくてミリアのジュリアンに対する気持ちは日に日に募っていった。
「早くお会いしたいわ」
生誕祭へ向けてさらに執務が忙しくなったジュリアンであったが、生誕祭を終えれば少し余裕ができるらしく「すまないがそれまで待っていて欲しい」と昨日も手紙であやまられたばかりだったのに、今日突然午後に休みがとれたからミリアと過ごしたいとエリオットが伝言を預かってきた。
まだ二人には少し距離があるが、一緒に過ごすことができるわずかな時間にジュリアンの優しさを感じ取る事ができてミリアはそんな彼に気持ちを返そうとジュリアンの体調を思いやる心遣いを見せていた。
「生誕祭でお渡しする刺繍もあと少しね」
生誕祭では王妃は必ず刺繍をプレゼントするのがこの国の決まりだ。今年も例にもれずミリアは王家の紋章と子孫繁栄の象徴である蔦を組み入れデザインを描き起こし、刺繍をしていた。
もとよりミリアは刺繍が嫌いではなかったし、筋が良いと褒められた事もある程の腕前で侍女たちからも生誕祭のプレゼントは高評価であった。
「あら、少しお天気が悪くなってきたわね」
「風もぬるいですし、一雨くるかもしれませんね。せっかく陛下がいらっしゃるのに」
「でもそれであれば部屋で過ごすなり、図書室へいくなりできるわ。陛下とゆっくり過ごせるなんていつぶりかしら」
少し浮足立った主人を侍女たちも微笑ましく見つめた。自分たちが仕えるようになった頃は気落ちしている事も多かったが、ジュリアンがなんとかミリアとの時間を捻出しようとしている事や会えない時間が多く、執務の関係ですれ違うように生活している時に始めた手紙のやり取りが彼女の心を守ったからだ。
「このままいけば跡継ぎも心配なさそうね」
「そうね。お仕えできるならすごく嬉しいわ」
ジュリアンがきたらどういう風に過ごそうかと外を見ながら考えこんでいる主人を見て、侍女たちは小声でおしゃべりしながら支度を手伝うのだった。
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