国王ジュリアンのジレンマ
「こんなはずではなかったのに・・・」
白に近い銀髪を後ろで一つにまとめ、涼やかな印象を与える空色の瞳の下に外の闇に負けず劣らずというクマを作っているのはテルメり王国の国王であるジュリアンだ。
「やってもやっても仕事が終わらない。どうなっているんだ・・・これではミリアと会う時間が今日もとれない。どうしよう、このままでは嫌われてしまう。あぁ・・・ほんとうにどうしよう。もしかしてもう嫌われてしまっている?あああぁあぁもうダメだ・・・」
「陛下うるさいです。心の声が漏れるにもほどがあります」
執務を手伝っているのは宰相の息子のマーティアスだ。
「だってマーティアス聞いてくれよ。昨日も、一昨日もその前だって。むしろミリアの顔をちゃんと見られた日はいつだったかもう思い出せない。一週間前?いやその日は来客があった日だからもっと前だったかな?」
「わかりました。わかりましたから。とにかくこの膨大な量の仕事を片付けないと妃殿下とゆっくりお話しする時間はとれませんよ」
ジュリアンは国王だが気弱で緊張しい。そして政略結婚だったにもかかわらず顔合わせで見たミリアに一目ぼれし、緊張のしすぎでミリアとまともに会話もできないというへたれっぷりだ。マーティアスとは長く一緒に過ごす内にうちとけ、二人きりの時ならばマーティアスの言葉が崩れていても気にする事はない。
「どうしてこんなに執務が多いんだ・・・」
「あなたのご両親のせいですねぇ」
ジュリアンは山積みになった書類に上に突っ伏し恨み言をもらす。国王という役職をそうそうにジュリアンに譲った前国王はすべてを放り投げたといってもいい程の引継ぎ期間でそうそうに王妃と領地へ行ってしまった。
前国王夫妻は恋愛物語に負けぬほど愛し合っている。しかし前国王は執務ができるほうではなかった。ジュリアンが王太子教育を終え立太子すると即座に婚約者として身分・家柄ともに申し分ないミリアを据えると、結婚式もそこそこにジュリアンに全てをおしつけてしまった。
「まぁ父上は執務が得意ではなかったから・・・いや、それにしてもどうかと思う」
「各部署からの書類を断り切れなかった陛下の性格にも問題があるのでは?」
そう。こんなにも執務が渋滞しているのはもちろん引継ぎ期間を十分に設けなかった前国王の問題もあるのだが、他部署からの問い合わせなどを断り切れずに自分で引き受けてしまうジュリアンにも問題があった。
「失礼します、ただいま戻りました」
そう声をかけ戻ってきたのは護衛騎士のエリオットだ。
「あぁ、毎日ご苦労。・・・・・・・・・・・それで、ミリアはどんな様子だった?」
「お返事をいただいた後はすぐ退室しましたので、きちんと確認したわけではありませんが落ち込まれたご様子だったと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか」
落ち込んだのはミリアだけではなくジュリアンもだったが、さりげなくマーティアスが渡した書類の束を見てそれ以上の言葉が続かないジュリアンだった。
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