王妃ミリアの憂鬱
「はぁ・・・」
テメルリ王国城内の後宮の庭で薔薇の鑑賞を楽しんでいるはずのミリアの口から洩れたのはため息だった。明るい庭園の中で彼女の周りだけが暗く見える。やわらかな茶髪に翡翠のような瞳の色をした彼女はこの国の王妃だ。
「執務が忙しいのはわかっているけれど、もう少しわたくしとの時間をとっていただけないかしら」
彼女が気にしているのは彼女の夫である国王ジュリアンの事だ。ジュリアンは前国王の一人息子で3年前に王太子から国王となった25歳の若者だ。国を治める頭脳はあるが、気弱な面があり血統は申し分ないにも関わらずその性格故、国王になるにあたり賛成派と反対派が激しく対立する騒ぎもあった。現在は宰相を後ろ盾にし、政治を行っている。
(このままではお飾りの妃となってしまうわ・・・)
ミリアは3ヶ月前にジュリアンと結婚したが、執務の忙しさを理由にジュリアンとなかなか会えない日々を過ごしていた。
(蔑ろにされるわけでもないけれども、もっとたくさんの時間を共有してできる事ならばジュリアン様を・・・彼を好きになりたい。)
ミリアは公爵家の生まれで政略結婚をする事を前提に生きてきたが、それでも心の中では愛し愛される事に憧れを抱いていた。特に両親が政略結婚ではあったが仲の良い夫婦だった事もあり、その気持ちは顕著に表れていた。
(それを察してジュリアンは自分との距離を持とうとしているのかもしれない・・・。)
考えれば考えるほど悪い方向に気持ちが向かっていく為、ミリアは重い足取りで自室へと戻った。
「失礼いたします」
ジュリアンの護衛騎士の一人であるエリオットだ。この時間にミリアの部屋を訪れる人など決まり切っている。
「どうぞ、お入りになって」
今日もまた同じ言葉を聞くことになるとわかっているのに、少しだけ期待している自分がばかばかしい。
「陛下は本日も執務の為遅くなるとの事です」
「・・・・・わかりましたわ」
そう告げるとエリオットは足早に戻っていった。
「今日もわたくしは一人ね」
思わず声にでてしまった気持ちは暗くミリアを押しつぶす。その様子を見ていた侍女達もどう声をかければいいのかわからないまま、夜はふけていった。
ご覧いただき、本当にありがとうございます。