二度目の別れ
マックスは魔女と会った次の日出勤時間より前にオーナーに話をしに行った。
「失礼します」
「どうぞ。・・・マックスか。どうした?出勤時間にはまだ早いだろう」
「そうなんですが、少し気になる事があって」
「なんだ?」
「あの・・・アンジュはどうしていますか?もう随分あっていないから気になっていまして・・・」
アンジュの名前を出した途端、オーナーの雰囲気が固くなったのが分かった。空気が重くなる。
「お前・・・どこかで聞いたのか?」
「いえ・・・以前体があまり丈夫ではないとはきいていたのですが、本当に随分長く会っていないので、おせっかいながら気になったんです」
「そうか・・・お前アンジュと会った事があったな。あの時アンジュも年が近いやつと話ができたって嬉しそうにしてたな・・・」
たった数ヶ月前の話だが、すでに昔を懐かしむようなオーナーのそぶりにマックスは落ち着かなくなる。
「こうやって話をしに来たってことはまさかお前、あの子に気があるのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は、はい・・・・・」
マックスの返事は物音にかき消されそうなほど小さかった。アンジュと会った時は彼女の事は好きでもなんでもなかったが、それでも花のようにかわい女の子だなという印象は残っていた。ふわりと笑う彼女はとても可愛かった。そのアンジュがミリアの生まれ変わりだったのだ。気がないわけがない。だが気持ちを打ち明けている相手が悪い。なんってったって彼女の父親だ。だがマックスは元から真面目なタイプなのでオーナーに嫌われてはいないだろうとふんで答えたのだった。
「そうか・・・・・・・・・変な虫がつかないようにと心配していたんだが、お前なら悪くないかもな・・・・」
そういうとオーナーは改めてマックスと向き合った。
「俺はこれでもお前の真面目さはかってるんだ。だが娘をやるかどうかは別だ・・・・・・・・・・と言いたい所なんだが、お前が心配しているように娘は最近調子が悪くてな。熱が出やすくなっていて・・・そのせいで体力も落ちているんだ」
「それは・・・・・・・」
「体力が落ちてきているせいか、最近食欲もなくなってきていてな・・・」
「オーナー、お見舞いに行ってもいいでしょうか?」
「・・・・そう、だな。お前が顔を見せたらまた喜ぶかもしれないな。いいぞ」
「ありがとうございます・・・!」
その後すぐ、というわけにもいかなかったので、マックスはオーナーに休みの日程を伝え次の休みにアンジュに会いに行く事になった。以前あったアンジュは金髪に薄い茶色の瞳でとてもかわいらしい女の子だった事を覚えてる。熱が下がりにくく体力がなくなってきたと言っていたから、持っていくものはひとまず香りのきつくない花にした。
「こんにちわ、アンジュ」
「マックスさん、こんにちわ。お久しぶりです」
一昨日まで熱を出していたアンジュは起きてはいるがベッドの上にいた。以前あった時よりも痩せた、というかやつれた気がする。
(あぁ、この娘がミリアの生まれ変わりなのか)
どうして自分はミリアと幸せになれなかったんだろう、なぜあの時、どうして、そんな言葉ばかりが頭の中に浮かんでは消える。
(こんなにも近くにいたのに気づけなかった・・・)
どれ位アンジュの顔を見ていたのだろう。アンジュが首をかしげながら椅子をさしてマックスを呼んだ。
「良かったらこちらへどうぞ。私の事を覚えていてくださってありがとうございます」
「そんな、覚えているにきまってるよ。最近ずっと顔を見れていなかったから気になってて・・・今日もオーナーに無理を言ってお見舞いにきてしまったんだ。疲れている所にすまない。」
「とんでもない。私こそずっとお店に行けなくて残念に思っていたんです」
2人の会話は終始おだやかだった。マックスがアンジュと話をしていたのは30分程度だったが、マックスにとってもアンジュにとっても心地いい時間だった。
その日からマックスは定期的にアンジュの元へと通った。手土産に花、髪飾り、流行りの本などなるべくアンジュが疲れすぎないものを持って。
そして通い始めて二ヶ月目にマックスはアンジュへ指輪を渡す決心をした。
「こんにちわ、アンジュ」
「マックスさん、今日もきてくれてありがとう・・・」
「今日は疲れてそうだけど大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ」
アンジュは気丈に伝えるが、マックスは日に日に具合が悪くなっているとオーナーから聞いていた。
「アンジュ、今日は特別なプレゼントがあるんだ」
「まぁ何?先日頼んでいた本?それとも甘いお菓子?」
「どれでもないよ・・・・これ、アンジュに」
マックスは約束の指輪を差し出した。
「素敵な指輪ね・・・私がもらってもいいの?」
「アンジュに付けてもらいたいんだ。実はこれペアリングでさ、僕とおそろいなんだ」
「えっ」
短く驚きの言葉をもらしたアンジュの顔はどこから見ても真っ赤だ。
「あ、あ、あ、あの、あ、あの・・・えっと・・・」
混乱しているようで言葉にならない言葉を発しながらさらに顔を赤くしたアンジュを愛おしそうにマックスが見つめた。
「急にこんな事してごめん。でも僕にはアンジュしかいないって思ったんだ」
「・・・・・・・・・・嬉しい・・・でも、私こんなんでベッドの上にいるしかできなくて・・・あなたに何も返せない・・・」
「そんな事ない。アンジュがいてくれて僕は本当にうれしい。アンジュしか欲しくないんだ」
マックスもアンジュに負けず劣らず真っ赤になりながらも気持ちを伝える。アンジュの目から涙がこぼれた。
「ありがとう・・・指輪、つけてくれる・・・?」
はにかんだアンジュの顔を見て、マックスもにこやかに首を縦にふった。指輪はアンジュの薬指におさまった。指輪をはめた時、何か光がはじけた。
アンジュが小さい声で「きゃっ」と悲鳴をあげるが、光ったあとは何もなかったーーーーーーように見えた。
暫く茫然としたアンジュがマックスを見て目を見開く。
「ジュリアン様・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・アンジュ?今何を・・・・」
「ジュリアン様。マックス、あなたジュリアン様なのね・・・?」
アンジュに前世の名前を呼ばれて、マックスはたまらずアンジュを抱きしめた。
「アンジュ・・・・・・・ミリア・・・・・ミリアすまなかった!君を、君をあんな風に失いたかったわけじゃなかった!僕が全て悪かったんだ!」
マックスはアンジュを抱きしめながらやわらかい髪がかかる肩に顔を埋めて謝罪の言葉を繰り返した。そして前世で伝えられなかった言葉をこれでもかと繰り返した。
アンジュも暫くの間マックスの謝罪を受け止めるだけで、時間はすぎていった。
お互い泣きはらして、少し頭がぼーっとしてきたあたりでマックスがやっとミリアの体を離した。
「マックス・・・・もしかしてこの指輪・・・」
「うん。ミリアが僕に、ジュリアンにプレゼントしてくれた指輪だよ。先日魔女に会う機会があって、これがどういう指輪なのか聞いたんだ」
「それは・・・」
「アンジュ、僕は嬉しかったよ。この指輪があったからこうして君にまた会う事ができた。全て君のおかげだよ」
「・・・・・・・ありがとう。あんな気持ちを持っていると知られたら、あなたに嫌われるんじゃないかと思って言えなかったの」
「そんな事あるわけがない。本当にすまなかった。そしてこの指輪をくれて嬉しかったよ。積もる話もあるけれど、今日は長いしすぎてるね。また日を改めてくるよ」
「そうね・・・」
2人とも別れがたい気持ちはあったが、アンジュの体力も考えてこれ以上興奮させて体力を奪うのはよくないと考え後日改めて会う約束をした。
すぐに会えると思っていた。まだアンジュの体も持つはずだった。だが急に体力を使ったせいかその日の夜からアンジュは発熱を解熱を繰り返し、そのまま帰らぬ人となった。
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「僕は、また君を見送るのか・・・」
やわらかな雨が降り注ぐ日、アンジュの葬式は執り行われた。その場にマックスが居られたのはアンジュがあの日の夜家族にマックスとの事を伝えていたからだ。アンジュの家族が涙を流す中、マックスは涙を見せずに顔を俯かせるばかりだった。こうなることは魔女に会った時わかっていたはずなのに、それでもいざ目の当たりにするとこんなにも辛い。前世の事も相まってアンジュの棺を直視する事ができなかった。
「マックス、君もアンジュに別れを告げてくれ・・・」
オーナーが気を使ってマックスが一人で別れを告げられるように家族を部屋から出してくれた。お礼を告げアンジュの棺に近づく。
「僕は・・・必ず、君を幸せにしたい、いや、するよ。だから・・・来世でまた会おう・・・」
マックスはアンジュの指にしっかりと指輪がついている事を確認してアンジュに別れを告げた。
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