出会い
執筆の意図
低予算の自主映画でミュージカルを!
現在、演劇の世界では、小さな劇団が小劇場で上演している演目にはミュージカル仕立ての作品があり、歌、ダンスが有能な役者が数多くいるのにも関わらず、低予算の自主映画において、ミュージカル映画は、余り聞いたことがありません。なので、一度、挑戦しょううと思い執筆しました。
脚本について
この脚本は、数年前、余命宣告を受けていた、とある少女が、病床でブログに書いていた小説に私がインスピレーションを受けて書いたものです。
これを書くにあたって彼女に使用の許可をお願いした時は、大変喜んでくれて完成を楽しみしてくれていましたが、完成を待たずに彼女は亡くなってしまいました。お父様は、お通夜でこの脚本を彼女に読んで聞かせて頂いたとのことでした。この脚本は彼女には妹さんがおられるとの事でしたので、主人公を妹として、それを天国から見守る姉と言った構成にして「天国へ行っても心は永遠に家族や恋人と一緒だよ」と言うことをテーマにしました。
ここでの登場人物
平尾心音 (ここね 愛称ココ 20)
歌手を夢見ている和菓子屋の
事務員
川島智弘(25)元ミュージシャン
平尾早百合(さゆり 17)
心音の姉
ピアニストを夢見ている女子高生
坂本修 (26) 智弘の友人
祇園の仏像ギャラリーの店主
38 とあるバーの薄暗い店内 翌日の夜
ジャズが流れて落ち着いた雰囲気
智弘 カウンター席に座って 手に
持ったウイスキーグラスを見
つめている
バーテン(声)「いらっしゃいませ」
心音 入って来て 智弘の横に立つ
智弘 「(心音を見て)来てくれて ありが
とう」
心音 無言で智弘の横に座る
バーテン「(心音に)お飲み物は どうされ
ますか?」
心音 「このお店で一番 苦いお飲み物くだ
さい」
バーテン「(驚いて)か かしこまりまし
た・・・」
バーテン 首を傾げてながら奥へと消える
流れるジャズ 二人 気まずい表情で暫く沈黙
バーテン「お待たせしました 当店で一番苦い
お飲み物でございます(と 心音の
前にグラスを置く)」
心音 「あ ありがとうございます・・・」
バーテン 首を傾げながら奥へと消える
流れるジャズ 二人 気まずく無言で暫く沈黙
心音 「(思い切って)何で・・・ 何で あんな
事したんですか?」
智弘 グラスを口に付けて一気に飲み干して
智弘 「実は・・・ 実は 僕 あなた
の・・・」
39 鴨川の土手 二年前 朝
智弘 ギターを抱えて座り込んで弾き語って
いる
早百合 自転車(カゴに白いユリの花束)に
乗って来て智弘の後ろに止まって
智弘の歌を聴く
智弘 歌い終わる
早百合 笑顔で拍手をする
智弘 振り返る
早百合 微笑む
智弘 微笑んで軽く会釈をする
40 とあるバーの薄暗い店内
心音 智弘 カウンターに座っている
智弘 「あの頃 蒸発した おやじが闇金
から借りていた金の返済で休む暇
もなくキャバクラや風俗で働き続
ける毎日で 僕は もう 音楽を
諦めかけたていました・・・・」
心音 「・・・」
暫く沈黙
智弘 「(思い切って)で お姉さんは
お元気ですか?」
心音 「(手に持ったグラスを見つめて)
その音楽って?」
智弘 「実は 僕 京都に来るまで 東京で
歌っていたんです ぜんぜん 売れ
なかったけど・・・」
心音 「そうですか・・」
智弘 「でも やっぱり 歌 歌いたくなっ
て 毎週 日曜の朝 鴨川の河原で
歌ってたんです あなたのお姉さん
それから 必ず聴きに来てくれて」
41 鴨川の土手 二年前 朝
智弘 ギターを抱えて座り込んで弾き語っ
ている
早百合 自転車(カゴに白いユリの花束)
の横に立って聴いてる
智弘 歌い終わって振り返って
智弘 「いつも 聴きに来てくれてありが
とう!」
早百合 軽く会釈をする
智弘 「音楽 好きですか?」
早百合 うなずく
智弘 「どうでした? 今日の曲」
早百合「よ 良かったです・・・」
智弘 「何が良かったの?」
早百合「こ 声・・・」
智弘 「(微笑んで)ありがとう」
早百合 恥ずかしそうにうなずく
智弘 「何か 音楽は やってるの?」
早百合「ピアノを弾いてます」
智弘 「へー そうなんだ」
早百合「はい」
智弘 自転車に貼ってある 高校のシー
ルを見て
智弘 「高校生?」
早百合「はい・・・」
智弘 「そうだ! ちょっと今から時
間ある?」
早百合「えっ!?」
42 祇園の仏像ギャラリーの前
智弘 早百合(自転車を押している)
やって来る
43 祇園の仏像ギャラリーの店内
智弘 ドアを開けて入って来る
掃除をしていた修が
修 「おお トモ こんな時間にど
ないしたん?」
智弘 「(ドアの外に立っている早百
合に)入って!」
早百合(白いユリの花束を持っている)
店内を見渡しながら恐る恐る入
って来る
修 「(早百合を見て)お おはようご
ざいます」
早百合「(恥ずかしそうに)おはようござ
います・・・」
修 「(智弘の耳元で)だ 誰?」
智弘 「世界でただ一人の俺のファン!」
修 「何やそれ おい 紹介してよ」
智弘 「(早百合に)君 名前 何ていう
の?」
早百合「ひ 平尾といいます・・・」
智弘 「(修に)平尾さん!」
早百合「おいおい お前 お名前も知らんか
ったん?(早百合に)僕 この店を
やってて こいつを世話してる坂本
修と言います」
智弘 「(修に)おい! 世話はないだろ?」
早百合 微笑む
と 智弘のスマホが鳴って
智弘 「わりいい」
智弘 スマホを耳に当てて外に出る
早百合 店内を見渡す
棚に 小さな木彫りの仏像が並んでいる
修 「お若いから こう言うの興味ない
でしょ?」
早百合「いえ・・・ 私 お寺とか行くの
好きなんです 何か 心が 落ち
着くって言うか・・・」
修 「へー そうですか そやったら
どうぞ お上がり下さい」
早百合「いいんですか?」
修 「はい!」
早百合「ありがとうございます」
早百合 靴を脱いで上がって 棚の上の小さな
木彫りの仏像を見る
修 「仏様のお顔 一つ一つ 違うでしょ」
早百合「はい・・・」
修 「きっと 平尾さんに似てる仏様がある
はずですよ」
早百合 顔を小さな木彫りの仏像に近づけて
凝視する
早百合「何か 心が安らぎます・・・」
修 「ここに来た 人は みんな そう仰っ
います(外で電話で話してる智弘を見
て)実は あいつも その一人なんで
す」
早百合「・・・」
修 「あれは 3年前の冬の寒い朝でした」
44 祇園の仏像ギャラリーの店内 3年前の冬
修(声)「あいつ まるでホームレスみたいな
っこして ふらっと この店に入っ
て来たんです・・・」
修 棚に小さな仏像を並べている
智弘(浅黒い顔 無精ヒゲ 汚れたダウンジャ
ケット ジーンズ)で入って来る
修 「(振り向いて)いらっしゃいませ・・・」
智弘 無言で立っている
修 「ど どうぞ お上がり下さい・・・」
智弘「いえ 買うつもりは ありません
から・・・」
修 「見るだけでも いいですよ 買う人
なんて あんまりいはりませんから
・・・」
智弘「そうですか・・・」
修 「さあ どうぞ どうぞ」
智弘「ありがとうございます」
智弘 汚れたスニーカーを脱いで上がって
仏像を見る
修 智弘を見ている
修(声)「あの時のあいつの目 とても澄ん
だ目をしていました」
45 祇園の仏像ギャラリーの店内 朝
早百合 外で電話で話してる智弘を見て
いる
智弘 電話が終わって入って来て
智弘 「修 ちょっと ピアノ貸してく
れよ」
修 「ピアノ?」
智弘 「(早百合に)二階に 小っちゃい
けど ピアノあるから(と 階段
を上って行く)」
早百合 修 顔を見合わせる
46 祇園の仏像ギャラリーの二階
和室の隅に小さなピアノが置いてある
智弘 早百合 修 立っている
修 「(早百合に)時々 ここで
ピアノとかギターの演奏会を
やってるんです」
智弘 「(早百合に)何か弾ける?」
早百合 もじもじする
智弘 「(早百合が持っている 白いユリの
花束を見て)それ 預かるよ」
早百合「あ ありがとうございます(と
智弘に白いユリの花束を差し出す)」
早百合 カバンから A4の茶封筒を出し
て中から楽譜を取り出して
早百合「私が 作った曲ですけど・・・」
早百合 ピアノ前に座って 楽譜を楽譜立て
に立てる
智弘 修 真剣な表情で早百合を見る
早百合の指 鍵盤に落ちる
主題曲Lilyが流れる
智弘 うっとりとして早百合を見ている
早百合 弾き終わる
修 「(拍手をして)凄い! 凄い!
(ぼーとしている智弘に)なあ
トモ? この曲 最高やんな!?」
智弘 「(ハッとして)お おお・・・」
早百合 ため息をついてうつむく
智弘 持っている白いユリの花束を見て
智弘 「いつも これ持ってるけど ユリの
花 好きなの?」
早百合「(うなずいて)ユリは 亡くなった
両親が好きだったんです 毎週 両
親が亡くなった 日曜日に 供えて
るんです」
智弘 「そうなんだ・・・」
修 「(智弘に)それはそうと 沙也加と
は どないなってんるんや?」
智弘 「さっきの電話 その沙也加から」
修 「そう で 何て?」
智弘 「子供が出来って・・・」
修 「(冗談ぽく)また?」
早百合「あのー 私 この辺で・・・」
智弘 「ああ・・うん! ごめんね 付き合わ
しちゃって」
智弘 白いユリの花束を取って早百合に差し
出す
早百合「(白いユリの花束を受け取って)あり
がとうございます」
47 祇園の仏像ギャラリーの前 朝
早百合 自転車にまたがる
その横に 智弘 修 立っている
早百合「では お邪魔しました(と 頭を
下げる)」
修 「また 来て下さいね!」
早百合「(うなずいて)はい!」
智弘 「じゃあ また 来週」
早百合 自転車に乗って走って行く
修 「(手を振りながら智弘に)あんな子
どこで 釣ったん?」
智弘 「(手を振りながら)鴨川」
修 「鴨川!?(と 驚いて
智弘を見る)」
48 とあるバーの薄暗い店内 現代
ジャズが流れて落ち着いた雰囲気
心音 智弘 カウンターに座っている
心音 「そんな事が・・・」
智弘 「初めてあの曲を聴いた時 正直 驚き
ました とても高校生が作ったとは思
えなかった」
心音 「・・・」
智弘 「僕は あの曲と早百合さんの音楽の
才能に恋をしていまいました・・・」
智弘 歌い出す(恋をイメージした曲)
心音 バーテンダー うっとりして聴く
音楽が終わる
心音 グラスに口を付けて
心音 「にっが!」
つづく