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 そんな折り、王の気まぐれで、再び馬上槍試合が催された。

 優勝者には名誉と莫大ばくだいな賞金が与えられる。

 セデクは一も二もなく参加した。ただし目的は富でも名声でもなかった。

 今回はゴース王子も出場することが決まっていた。

 つまり試合で不慮ふりょの事故をよそおって、ゴース王子を亡き者にすれば、名実共にファテカを自分の妻にできるのだ。

 セデクは人生で最も張り切って戦いにのぞんだ。

 邪魔をする敵は容赦ようしゃなく叩き潰した。

 彼の戦った後には、血と肉塊が残された。

 死傷者と棄権きけん者が続出するなか、セデクは準決勝まで勝ち進んだ。

 相手は見も知らぬ若造だ。

 ゴース王子は、すでに決勝進出を決めている。つまり、もうすぐファテカが手に入る。頭のなかは美しい妻のことでいっぱいだった。

 セデクは舞い上がった。

 心も。

 身も。

 体が宙に舞い、セデクは地面に叩きつけられた。

 相手の馬上槍を受けて落馬したのだ。

 敗北を理解できず、その場で呆然としてしまった。

 そのとき主を失い恐慌きょうこうきたした馬が、勢いあまってセデクの胸を踏みつけた。

 凄まじい衝撃にセデクは呼吸を失った。いくら鎧を着ているとはいえ、興奮した馬の一撃の前には初冬の薄氷に等しかった。

 馬はなおも暴れ、何度もセデクの体を踏みしだいた。

 その度、肉と骨が粉々に砕かれていく。

 頭上では、相手の騎士が兜を脱ぎ、冷たい目でセデクを見下ろしていた。

 どこかで見た顔だ。

 そういえば誰かが言っていた。以前の馬上槍試合の決勝で、セデクが破った騎士の弟だと。恋人との逢瀬を急ぐ余り、慈悲じひもなく叩き殺したあの騎士の。

 セデクは自分の体が醜い肉塊となり、血の海に沈もうとしていることを感じた。

 薄れゆく視界に愛しいファテカの姿はなく、なぜかあのとき殺した騎士の顔ばかりが浮かんでいた。


 (完)

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