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バンシム家の勇敢な騎士セデクにとって、ゴース王子の結婚は、さして大事ではないはずだった。
確かにゴース王子とは幼馴染みだし、身分を超えた親友だ。王子が王位継承権で第十六位という気楽な地位にあったことも幸いした。
セデクにとって目下の悩みは、美しい従妹メリヌとの恋の行方だけだった。
ところが、そんな若い騎士の愛欲を打ち砕くかのように、ひとつの布令が出された。
『ゴース王子の結婚相手を馬上槍試合で優勝した家から選ぶ』
敬愛なる王からのお達しだった。
バンシム家にとっては、またとない好機である。身内から王子の妻が出たとなれば、これ以上ない誉れになるのだから。
さっそく、一族切っての豪の者セデクに白羽の矢が立った。まだ騎士の叙勲を受けて間もないセデクにとっても、名を挙げる良い機会だった。
しかしセデクが優勝すれば……ゴース王子の妻となるのは、年齢的に考えて、愛しいメリヌであろう。
栄誉か恋人か。
酷な選択を、彼は否応なしに迫られた。