表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/95

クレール王子

 月明かりで明るくなった海の向こう側に黒煙が見えた。

 風向きの影響だろうか、回り込んだ隣の島まですすけた匂いが漂ってきていた。

「あの島はどうなったのかしら?」

 ヒラリーは島の様子を気にしていた。

「そうだ、イルカ。あんたあそこに登って様子を見てきてよ」

 ヒラリーは側にある島の上を指さした。

「この上なら敵に見つからないし、それにあんたは遠くまで見えるから大丈夫でしょう」

 ヒラリーが指さしたのは、高い崖の上に僅かに木が見える島だった。

 ヒラリーは飛べるのだから、私に言わないで自分で見に行けばいいのに。

「ヒラリー様、私にあの崖は登れません」

「あら、あんたの力があれば、あの崖に飛びつくことが出来たら上まで上がるのは簡単でしょう」

 何が簡単でしょうなのよ。

 思った事が顔に出ていたのだろう。ヒラリーは私を睨んだ。

 そんな私たちを見て、アルが助け船を出した。

「俺も行こう。この距離ならイルカを連れても浮けるだろう」

 アルが浮遊魔法で私を連れて上まで行くと言ってくれた。

「あら、アル。イルカを甘やかしてはダメよ。これも鍛錬の一部なのだから」

 鍛錬って、こんな所に来てまで鍛錬。

 呆れて声も出せないでいると、

「俺も現状を把握しておきたいからな」

 とアルは私の手を取るとフワリと浮いた。不思議な事に手を繋いだだけなのに私も浮き上がった。

 それを見てヒラリーが何かを言いかけたけれど、すでにアルと私は島の上に向かって船を離れていた。

 島は上に行くほど細くなっていた。頂上には数本の木が立っているだけだった。

 アルは木の隙間の土の部分に降りた。そして、海の向こうで黒煙を上げる島を見た。

 煙のためよく見えなかったけれど、林や森は黒く焼け焦げているようだ。

「島の周りに王国軍の船が見当たりませんね」

 王国軍の船を警戒していたので、肩すかしを食ったような気がした。

「島が真っ黒になるくらいだから攻撃が一段落したのかもな。煙が落ち着いたら戻ってくるんじゃないか。島の状況を確認するだけなら小さな船一隻あれば充分だからな」

 そんな話しをしていると、島から大きな爆発音が聞こえた。

「何だあれは!」

 島の中央付近で大きな爆発が起こった。空気の揺れが私のところまで伝わってきた。

 火山が爆発したにしては噴煙が上がらない。

 見ていると島の周辺がボロボロと壊れていく。

 船が隠されていた空洞を考えると、空洞の多い島だったのだろう。どんどんと島が崩れて沈んでいく。

「今、この瞬間、地図上から島が一つ消えたかもしれないな」と、私の横でアルが呟いた。

「そこまですることでしょうか?」

「あの王子は、クレール王子が生きていたら困るのだろう」

「それでも・・・」私は納得がいかなかった。

「それより、島が沈んだら余波が来るかも知れない。船に戻って、早くこの場所を離れるよう伝えた方がいいだろう」

 アルの言うことはもっともだった。大きな渦または大波が来るかもしれない。

 私たちは急いで船に戻った。

 見た状況を船長とカシムに伝えた。

 アルの話しを聞いた船長は、

「カシム、早急にこの場所から離れた方がいいな。それと予定を変えて直接ドリラム国に向かう。あそこには懇意にしている港がある」とカシムに言った。

「直接ドリラム国に!」

 カシムが驚いた。

「そうだ、相手が島をぶっ飛ばすくらいクレール王子を殺したいのなら、かみさんの領には戻らないほうがいい。もしかしたらロイド王子の手の者がいるかもしれないからな」

「確かに」

「そうと決まれば、俺は船を動かす事に専念する」

「じゃあ、私は風を送るわ」

 ヒラリーは船長の後に付いて行った。

「カシム、ロイド王子はどうしてクレール王子に固執するのですか?」

「ここまで来てしまっては隠したままなのは不自然ですな」

 そう言って、カシムは長いこと沈黙していた。

 カシムが沈黙している間に、船は向きを変えて動き出していた。

「ソラシド国には3人の王子がいました。第1王子のコナーは正妃様のお子で生まれたときから王太子と決まっていた。第2王子のロイドは第1側妃様のお子。そして、第3王子のクレールは第2側妃様のお子だ。正妃は子爵家の令嬢で、身分の事もあって、貴族達から婚姻を反対されていた。しかし、王はその子爵令嬢と結婚出来なければ、誰とも結婚せず子ももうけないと譲らなかった。そのうち子爵令嬢の妊娠がわかり、貴族達も渋々認めることにしたのだが、側妃を娶れと条件を出した。そこで王は貴族派の薦める侯爵令嬢を第1側妃に迎えた。しかし、貴族派も一枚板ではなかったので、それぞれの派閥から文句の出ないように、公爵令嬢を第2側妃として迎えることにした。

 コナーとロイドは5歳差でロイドとクレールは10歳違う。王子様方の年齢が離れているのは、側妃は娶ったけれど、王は正妃が亡くなるまで側妃を見ようとしなかった。側妃達は不満に思っていたと思う。コナー王子が3歳の時、正妃は第二子を妊娠した。そして、その出産の時お子と一緒に亡くなられた。王の嘆きは酷く、政にも影響がでた。そんな時、第1側妃様が寂しい王に取り入って寵を受けたと聞いた。そして第2王子ロイドが生まれた。クレール殿下とロイド殿下の年が離れているのは、第2側妃様が王に嫁いだときはまだ幼い少女だったからだ。成人を迎え美しく成長した第2側妃様は、どことなく亡くなった正妃様の面影を持っていた。あれほど正妃を受け入れようとしなかった王だったが、第2側妃様を正妃に迎えたいと側近に漏らした。その話が何処からか第1側妃様の耳に入り、第1側妃様の逆鱗に触れたそうだ。

 王はその時、クレール王子を妊娠していた第2側妃様の事を考えて、波風を立てたくなかったのだろう。正妃の話しは自分が言ったことではないと否定して、その話は立ち消えになった。

 しかし、2年前、コナー王太子が突然病死をしたことから、王太子の座がロイドとクレールに回ってきた。ロイドを推す侯爵派はクレールを亡き者にしようと画策を始めた。

 そして、その企みは実行された。

 第2側妃様の実家の公爵家は、侯爵派の陰謀であらぬ疑いを掛けられて家を潰された。その公爵家の出身と言うだけで第2側妃様まで影響がおよびそうになった。その時、うすうす状況を把握していた国王は、クレールを王太子にしないという条件で第2側妃様を助けた。しかし、その条件では満足しなかったのだろう。侯爵派の手によって、クレールは毒を飲まされて死んだ。

 私は第2側妃様の次兄で、妻の子爵家に婿入りしていたため難を逃れたように見えたが、なぜか政治犯として追われる身になった。私は妻の実家に影響がおよばないよう、妻と離縁して息子と二人で逃げた。しかし、捕まってしまい、あの島に流された」

「クレール王子は亡くなったのですか?」

「そうだ」

「でも、夢見姫はクレール王子は生きていると・・・」

「そうだ。毒で死んだのは私の息子カイヤだ。クレールと同じ年で、目の色以外は外見がとてもよく似ていた。侯爵派がクレールに何か仕掛けるかもしれないと、妹と話し合って入れ替っていた」

「じゃあ、クレールの代わりにカイヤが亡くなったのですね」

「昨日のロイドを見ても分るだろう。ソラシド国を侯爵派の手に渡したらめちゃくちゃになってしまう。王子は自分の代わりに死んだ息子のことで私に負い目を感じている。息子は王子のためならと進んで身代わりになった。誇らしい息子だった」

「私に取ってはかけがえのない従兄弟でした」

 いつの間にか私たちの側にカイヤではなく、クレールが立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ