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脱出2

 カシムに案内されて家の裏の林に向かう。

 林を抜けると、海を見下ろす崖の前に出た。

 月が雲に隠れていて、崖の下の様子は分らなかった。

 崖の先端まで行き、崖の下を見下ろす。暗闇の中に波の音が聞こえる。

 カシムは崖の隙間を指さして、「ここから下に降ります」と壁面を指さした。

 こんな絶壁からどうやって降りるのだろうかと指の先を見つめる。よく見ると崖沿いの所々に窪みがあった。

「窪みが見えるが、そこの足をかけて降りていくのか」

 アルが下を覗き込みながら聞いた。

「そうです。恐ろしく感じるかもしれませんが、命綱を付けて降りますから大丈夫です」

 カシムは私たちにフックの付いたロープを五本何処からか取出した。

「このロープを腰に巻き付けて、窪みの奥に金具がありますので、そこに掛けて降ります」とカシムは自分の身体に綱を巻き付けた。

「あら、私には必要ないわ」

 ヒラリーは早々に風魔法で身体を浮かせた。

 カシムは驚いてヒラリーを見た。

「魔法で飛べるのですね」

「ああ、ヒラリーと俺は空中を飛べるから、グレッグとイルカの分だけで大丈夫です」

 アルがそう言うとカシムは驚くことも無く頷いた。そして、グレッグと私にロープを渡し腰に巻くように促した。

 私たちがロープを巻いたのを確認して、カシムは崖に向かって歩いた。崖の先端で身をかがめ窪みに手を入れて、ロープの先のフックを何かに繋いだ。カチリと音がして、カシムはロープを使い崖に降りた。

 カシムはその状態でグレッグと私に続くように促した。

 グレッグはカシムの後に続いた。

 カシムは窪みの場所を教えながら降りていく。

 私はカシムが辿っていく窪みを上から確認して降りていくつもりだ。

「グレッグ様、落ちそうになったら私が支えますから、安心して降りて下さい」

 ヒラリーはグレッグの様子をハラハラと見守っている。

 半分ほど降りた所で、カシムとグレッグの姿が見えなくなった。

 アルが上がってきて、崖の途中に穴があることを教えてくれた。

 私はそれを確認し、命綱を外し窪みに沿って降りた。

 私が降りるのを見てアルが感心したように呟いた。

「このくらいの崖はイルカにとっては朝飯前だな」

 小さいころからヒラリーの意味不明な鍛錬を受けていたので、高いところから降りるのも登るのも苦にならなかった。

 そんな事は自慢にもならないので、苦笑いで返した。

 崖の中腹に縦に避けるような穴が開いていた。

 カシムは全員が揃うと、人が通れるとは思えない崖の隙間を奥に入って行った。私たちはカシムの後に付いて行く。

 細い隙間をどのくらい歩いただろうか、急に開けた場所に出た。

 岩で隠された空間に帆船が浮かんでいた。

 帆船が岩の中にあるなんて想像もしていなかったので、それは不思議な光景だった。

 気が付くと、波が足下まで寄せている。

 船の上は賑やかに人の動く気配がする。村人はすでに船に乗っているようだ。私たちとは別ルートからこの場所に来たのだろう。

「もう少し潮が引いたら船を出します」

 船の乗組員と思われる男がカシムに伝えた。

 私たちも急いで船に乗り込んだ。

「風が必要なら、私に任せて」とヒラリーが言った。

「それは助かります。急なことだったので、何の準備も出来ていません。ヒラリー様が手を貸して下されば助かります。ありがとうございます」

 一刻も早くこの島から離れなければならないのだ。ヒラリーの申し出は願ってもない事だろう。

 船がしずかに動き出した。

 ゆっくりと崖の隙間を抜けていく。

 気が付くと、いつの間にか船は月も見えない真っ暗な海に出ていた。

 ヒラリーと私はマストに登り、周りの様子を覗う。

 風のないどんよりとした天気だ。雨が降るのかもしれない。そんな事を考えていると、島の方で大きな音がした。

 振り返ると、島が燃えているのが見えた。

 あの王子は村と言うより、島全体を焼き尽くしてしまうつもりらしい。

「すごいわね。普通あそこまでするかしら」

 ヒラリーが感心したように呟いた。

「普通じゃ無いのでしょう」と私。

「そうね、あの王子が国を継いだら大変な事になるわね」

 燃える島を見ながら2人で話していると、アルが飛んできた。

「すごいな。完全に俺たちを殺すつもりだったんだな」

「おバカの考える事は分らないわ。あら、グレッグ様は何処?」

 ヒラリーは辺りを見回し、マストの下にグレッグを見つけると降りていった。

「派手に攻撃していますね。島影に船が見えます。こちらには気づいていないようですが・・・」

 私は島影から船が出てくるのを見ていた。

「雲が晴れて月が出れば見つかるだろうな」

「この先に島影が見えます。少しスピードを上げてあの島の後ろに回れば見つからないと思います」

 私は暗闇の先を指さした。

「俺にはまだ見えないけれど、イルカが言うのなら間違いないだろう」

 アルはそう言うと甲板を見下ろした。そして、カシムを見つけると降りていった。

 アルの話しを聞いたカシムは、船の乗務員の男を呼んで打合せをしている。

 打合せが終わると、アルとカシムはヒラリーに近づいた。

 二人がヒラリーに何かを告げると、私のところにヒラリーが上がってきた。

「船のスピードを上げるわよ」

 ヒラリーはそう言うと、帆に少し強めの風を当てた。

 船のスピードが増した。

「どう、敵は見えてる」

「もう島を囲むように並んでいます」

「島を囲むって何艘いるのよ!」

「目視だけで7艘見えます」

「あんたの目で見えても、向こうはこっちに気づいてないわよね」

「島に向かって砲弾を打っているので、まだ気づかれてはいないと思います。でも雲が薄くなってきています。もう少し明るくなれば気づかれるかと」

「わかったわ」

 そう言ってヒラリーは黙り込んだ。

 船のスピードがまた上がった。ヒラリーは風を送ることに専念したようだ。

 このスピードで船のバランスが取れているのか分らないが、マストの上があまり揺れないのは、アルが魔法で調整しているのだろう。

 雲が晴れて、月明かりが海を照らし始めた。

 ギリギリで船は島の裏側に隠れることが出来た。


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