脱出1
私たちはカシムの家に戻っていた。
アルとヒラリーがベッドに座り、グレッグと私が床に座っていた。グレッグがなぜ床に?グレッグもベッドに座ってもいいのにと私は思うのだが、グレッグは何も感じてないらしい。どうやらこの態勢に違和感を感じていないらしい。グレッグらしいと言えばそうなのだが。
そんな事を考えていると、アルが話し始めた。
「カシムが俺たちにどんな話しを持ってくるか分らないが、俺たちは俺たちで作戦を練っていた方が良さそうだ」
「そうね。カシム達の話し合いの結果は分らないけれど、私たちには一食一飯の恩義があるから、これから予想されることを考えておくのもいいことだわ。」
さっきはどさくさに紛れて聞き間違いかと思っていたけれど、ヒラリーそれを言うなら『一宿一飯』でしょうと突っ込みたかったが、得意そうに話しているのに水を差すと後が恐いので言えなかった。
そんな事を思っていたら、「ヒラリー、そのたとえは間違っているぞ。いくら熊鍋が美味しかったからと言って、食ってばかりでどうするんだ。『一食一飯』ではなく『一宿一飯』の間違いだろう」と、アルが呆れたようにヒラリーを見た。
「まあ、そうとも言うわね」
ヒラリーは自分が間違っていたのを認めようとしなかった。
どう考えてもそうは言わないだろうとまた言いたくなったが、私は我慢をした。
アルだから良かったのだ。
「殿下は何か考えがあるのですか」
グレッグが殿下と言ったのでアルは渋い顔をした。
「アルだ。グレッグ」
無意識に言ってしまったのだろう、グレッグはしまったと手を口元に当てた。
「あの王子の事だ。今度は王国軍を率いて来るだろうな」
「私たちも戦いますか?」
「俺たちは部外者だ。他国の軍と戦うことはできない」
確かにそうだ。それにアルは王子だ。他国の紛争に参加したら国同士の争いにもなりかねない。
「俺たちができる事をしてあげたいけれど、この件はカシム達の話し合いの結果を聞いてからでも遅くないと思う」
「分りました」
私たちはアルの決めたことに従うだけだ。
「それよりも、夢見姫が気になる。もしかしたら俺たちが探している聖女かもしれない」
「そうね。確かめてみる必要があるわね」
ヒラリーが頷いた。
「いざとなれば、隠しているボートでこの島を出ればいい」
「そうね。そうしましょう」
その時、私の耳に階段を上がってくる足音が聞こえた。
「シッ、誰か来ます」
私は唇に人差し指を当てて注意を促すと、足音に耳を傾けた。
グレッグがそっと扉の近くに移動した。
キーキーと軋む階段を、音を立てないように静かに近づいてくる足音。
足音が部屋の前で止まった。
コンコン
小さく扉がノックされた。
「どなたですか?」
グレッグが扉の向こうに声をかける。
「私です。カシムです」
グレッグはアルが頷くのを確認して扉を開けた。
扉の前にはカシムが立っていた。
グレッグはカシムを部屋の中に招き入れると、扉を閉めた。
「今夜はゆっくり休んで頂こうと思っていたのですが、そうもいかなくなりました」
カシムはそう言って頭を下げた。
「話し合いの結果が出たのですね」
アルが尋ねた。
「はい、私たちはこの島から脱出することにしました」
「脱出ですか?船も無いのに?」
アルが驚いた様に眉を上げる。
「船はあります」
「島民を全員乗せるだけの船があるのですか」
大きな船でないと、島民全員は無理とおもうのだが・・・
困惑した様子の私たちを見て、カシムは静かに言った。
「港とは反対側の崖沿いの洞窟に隠しています」
「船があったのなら、今までどうして逃げなかったのですか?」
もっともな疑問をアルが尋ねた。
「私たちは脱出する次期を決めかねていました」
「どうしてですか?」とヒラリーが聞いた。
「監視の兵が1日に1回私たちの様子を見に来ました。彼らの隙を突いて島民全員で脱出するためには、彼らの信用を得て、様子見が2日に1回になる日を待っていたのです。彼らに見つからずに島を脱出するためには、天候と潮の流れも計算しなければいけませんでした」
「船はどうやって調達したのですか?」
アルはカシムを見た。
「船は、離縁した私の妻から送られてきました」
「離縁した奥様ですか」
「妻の実家の領地がこの島の先にあります。その領地は海運業が盛んで、ある嵐の日に船が漂着しました。しかし、それは妻からの依頼で、嵐で漂着したように見せかけてこの島に近づいたそうです。幸い船は崖の下にあった洞窟に入り込み、監視兵に見つかることはありませんでした。しかし、島民以外の者がいるのを不思議に思われないために、嵐で船が難破して乗組員だけがこの島に流れ着いたと報告しました。彼らはその嘘を信じたようで、崖の方を探索することもしませんでした」
「なるほど、船のことは分りました」
「先ほどのこともあり、島から逃げ出すのは今夜しかないと、島民全員で決めました」
「私たちも一緒と言うことですか」
「先ほど、王子に反撃をしたので、貴方たち王国軍の攻撃から逃げることは出来ません。このまま島にいることは危険なのです。だから私たちと一緒に来て頂きたいのです」
「分りました。それで、その船は何処に向かうのですか?」
「とりあえず、離縁した妻の実家の領地に向かいます。そこで、島民と貴方たちを降ろして、私と王子は隣国の夢見姫に会いに行く予定です」
カシムの話しを聞いていたアルは、
「では、私たちもカシム殿に同行して隣国に行けますか。私たちはある人物を探しています。もしかしたら、夢見姫がその人かもしれないのです」と言った。
カシムは一瞬困った顔をしたが、「それが貴方たちの望みであれば・・・」と、アルの申し出を受け入れた。




