ソラシド国の王子
「大変です先生!」
男はカシムを見つけると、叫びながら近づいて来た。
カシムとカイヤは同時に振り返って男を見た。
「どうしたのだ。ザック」
飛び込んで来た男はザックと言うらしい。
「王国軍が・・・攻めてきます!」
大急ぎで走って来たザックは荒い呼吸のまま声を振り絞った。
「は?」
カシムやカイヤ、それに周りで酒を飲んで陽気に騒いでいた男達も驚いた。と言うより、訳が分らないという戸惑いの表情が周りに広がった。
ザックは息を整えると、「この島にクレール殿下がいると、駐留兵に王国軍から連絡が入ったらしい」
ザックの話しを聞いた島民に緊張が走った。
「誰がそんな話しをしていたんだ」
カシムが恐い顔でザックに問いただした。
「兄のバレットの居酒屋に島の港の駐留兵が数人で飲みに来て話していたそうだ。彼らは店の隅の席に座り、深刻な顔でこそこそと話していたらしい。兄が注文を聞きに行ったら話しを止めたので、何かあると思った兄は彼らの話がなんの話しをしているのか聞くことにしたと言っていた。みんなも知っているとおり、兄は耳がいいのでカウンターに戻って、気づかれないように彼らの話を聞いていたそうだ。そしたら、国王軍が明日の早朝にドッテン島に来ると聞こえたので、そこから先はもっと集中して聞いたそうだ。一人の兵が『何故王国軍が来るのだ』と聞くと、上官と思われる兵が、『詳しいことは分らないが、指揮官と部隊長が話しているのが聞こえた。聞くつもりはなかったが、場所的に動くに動かれず、そのまま聞いてしまった。なんでも本土から連絡が入って、夢見姫がこの島にクレール王子が生きている』と言ったらしい。それで王子を探すために王国軍が派遣されて来るらしいのだ。『クレール王子は2年前に殺されたのではないか?』『私もそう思っていたのだが、夢見姫の能力は侮れないから、確認の為王国軍が来ると聞いた。しかし、今の王国軍は敵も味方も見境なく殺すと聞いている。本当に王国軍が島に乗り込んできたら、島にいる者は全員殺されるかもしれない。王国軍がカイ村に目を向けている間に逃げよう』と相談をしていたそうだ」
ザックの話しを聞いていたカシムは苦い顔をした。
「夢見姫か・・・不味いな」
「どういうことですか?」
アルはカシムに尋ねた。
「夢見姫はソラシド国の隣ドリラム国の姫で、彼女の夢見は良くあたるのだ」
「クレール王子とは誰ですか?」
「ソラシド国の第3王子でした。ドリラム国の夢見姫サライアナ様とは婚約していました。しかし、王子は2年前の騒乱の時に亡くなりました。いまさら何を調べに来るのでしょう」
カシムの顔がますます歪む。
「暗殺されたのですか?」とヒラリーが尋ねた。
「そうだ」
「今の国王軍を率いているのは誰ですか?」
アルも難しい顔をしている。
「当時皇太子だった第1王子が2年前に亡くなって、その後後継者争いが起こったのだ。今は第2王子が皇太子になっていると聞きました。私たちは第1王子が亡くなった後、何の理由も無く捉えられてこの島に連れてこられました」
カシムは少し苛立っているように見えた。
「アル殿申し訳ないが、今は貴方と話している時間は無い。私たちはただ殺されるわけにはいかない」
カシムの言葉に呼応するかのように、カイヤと男達が移動を始めた。
「アル殿、今夜はゆっくり休んで頂きたかったが、それも出来なくなりました。私たちは対策を練らないといけません。王国軍が来るとしたら夜明け前でしょう。王国軍の対象はこの村の住民だ。迷惑をかけて申し訳ない」カシムは頭を下げた。「あなた方は私の家で休んで、夜明け前に村から出て下さい。この村の反対側に港があります。港の側で船に乗る機会を覗って下さい。どさくさに紛れて、駐留兵と共に船に乗って逃げて下さい」
カシムはそう言うと男達が去って行った方へ足を向けた。男達の一部はカシムを待っていたが、カイヤは見当たらなかった。
「カシムさん、お待ち下さい」
歩み去るカシムをアルが呼び止めた。
「微力ながら、俺たちにも加勢させて頂けませんか?」
足を止めて振り返ったカシムはハッキリした声で言った。
「いえ、それは出来ません」
「なぜ?いいじゃない。私たちも手助けするわよ。一食一飯のお礼だと思って」
ヒラリーが強気の発言をする。
「いえ、ご迷惑をかけるわけにはいきません」
かたくなにカシムは私たちの申し出を断った。
「それは、相手が王国軍だからですか?」
アルは不満を隠さなかった。
「それもあります」
「それも・・・カイヤがクレール王子だからか」
カシムはアルの言葉に目を瞠った。
「隠さなくてもいい。カシムはこの国では王族のみが魔法が使えると言っていただろう。私たちは魔力が見えるのだ。カイヤは魔力を持っている。違うか?」
カイヤに魔力があるのは私にも分った。しかし第3王子とは結び付かなかった。
その時上空に殺気を感じた。
「危ない!」と私が叫ぶのと同時にアルが防御シールドを張った。
「早いお越しだな」
上空を見ると、月の明かりを背に3匹の飛龍の影が見えた。
「ほう、俺様の攻撃を交わす奴でも雇ったのか」
上空から声が響いた。
「あの声は、第2王子」
カシムの表情が固まった。
「この程度のシールドなど、なんの役にもたたぬ」
第2王子はシールドを破り降りてきた。
「ちょっとアル、もっと強力なシールドを張れなかったの」
ヒラリーが文句を言った。
アルは少しムッとして、「奴らの出方を見たいので、簡単なシールドを張っただけだ」と言った。
「久しぶりだな、ホーエルル子爵」
竜の背に乗ったままの第2王子がカシムを見下ろした。
「夢見姫の話を聞かなければ、俺はお前達の事を思い出しもしなかっただろう」
「ロイド殿下、何のお話しでしょうか」
「ふん、惚ける気か。お前が公爵の息子とクレールを取り替えたのは分っているぞ」
「侯爵様の子息と王子を取り替えた。何のことでございましょう」
「まだしらを切るつもりか。まあいい、この村にいることは分っているから見つけるのも時間の問題だ」
ロイドと呼ばれた王子は一緒に来た従者に指示を出した。
「お前達は王子を探せ」
アルがヒラリーと私に村人を助けるように目で合図してきた。
私達は逃げる振りをして、広場の隅に集まって様子を見ている村人の中に入った。
ロイドについてきた二人の従者は竜から降りると、村人に近づいて来た。
「ヒラリー様、あの二人は魔法が使えるようです」
「そうみたいね。でも実力では私の方が上よ」
何処からそんな自信が沸いてくるのだろう。でもヒラリーがやる気になっているのなら大丈夫な気がしてきた。
私は二人に気づかれないようにサーチでカイヤを探した。カイヤの気配が地中から感じられる。地下に逃げているらしい。カイヤの側には子供達の気配もする。
「王子が何処にいるか、誰か教えてくれないか?」
従者の1人が村の若者に近づいた。
私は咄嗟にその若者の前に飛び出した。
「威勢がいいな。しかし、お嬢ちゃんには用はないんだ。引っ込んでいてくれないか」
従者は言葉と同時に剣を抜き、私に向かって振り下ろした。
女の子もなにも関係ないみたいだ。ただ邪魔者は排除する。最終的にはこの村の全員を殺すつもりなのだろう。
私も剣を抜き、振り下ろされた剣を薙ぎ払い、従者の首元に剣の切っ先を突きつけた。
「危ないお嬢ちゃんだな」
もう1人の従者が風魔法で援護を始めた。私に風魔法で攻撃してきた。風魔法ならヒラリーの方が上手だ。竜巻を従者に向けて放った。もちろん殺さない程度に力を弱めている。
ヒラリーの風魔法で2人は広場の端まで飛んでいった。
アルを見ると、ロイドも攻撃を始めたようだ。大きな炎と爆発音が聞こえた。ロイドは火魔法を使うみたいだ。どうだと言わんばかりの表情で火炎を見ていたロイドの顔が驚きの表情に変わった。爆発の炎が小さくなると、シールドの中でアルが冷ややかに笑っているのが見えた。
アルがロイドに向かって「お前の魔法では俺は倒せないよ」と言っているのが聞こえた。
飛ばされた従者がロイドに近づき何かを告げたとたん、ロイドの顔が悔しさで歪んだ。
きっと私たちに勝てそうも無いと思ったのだろう、慌てて竜に飛び乗ると「貴様ら覚えていろよ。こんな村焼き尽くしてやる」と捨て台詞を残して飛び去った。
「すみません。軽く脅すつもりだったのですが・・・」
アルはカシムに謝った。
「いえ、助かりました。ありがとうございます」
色々言いたいことがあると思うのだが、カシムはただそう言った。
「あの口調だと、本当に村を焼くかもしれません。大丈夫ですか」
アルがそう言うと、カシムは複雑な顔で頷いた。
「急いで皆と話し合わなければいけない」
「そうですね。奴らが船にも度ったら、王国軍が攻撃を始めるでしょう。多分この村を潰すつもりだと思います。村を防御シールドで囲っておきます」
「ありがとうございます」
カシムは、会合が終わったら報告に来ます。それまでの間、休んでいて下さいと告げて、村人達と何処かに向かった。たぶん、王子と子供達が隠れているところに行ったのだろう。
村を囲むようにシールドを張ると、私たちはカシムの家に向かった。




