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流刑の島

 カシムの家は村の外れにあった。私たちが来た森とは反対方向の林の中に建っていた。2階建ての小さな家だ。

 玄関の扉を開けるとすぐに大きめのテーブルと椅子が数脚ある部屋になっていた。右の壁の横に2階にあがる階段がある。階段に上がる横の壁に扉のない部屋が見えた。どうやら台所のようだ。

「この家には私と息子の二人暮らし。私たちはこの部屋で全ての用事を済ませている。また、村の集会所としても使っている。食堂などは無いので夕食はここで食べて貰うことなります」

 カシムは次に台所に案内した。台所は竈の横に石で作られた簡素な調理台と流しがあり、流しの横に大きな水瓶があった。

 竈の横の壁にはじょうろのような物が付いている。なんの道具だろう。不思議に思った。

 竈の横にある扉を開けると風呂場に続いていた。

 風呂場には湯船と湯船に向かって台所の壁から伸びるパイプがあった。

「竈で沸かしたお湯を竈の横のパイプを通して湯船に入れるようにしています」

 ヒラリーは珍しい物を見るように壁から出ているパイプを眺めた。

「薪で直接沸かさないのですか」

「お風呂の水を直接湧かすのですか?」カシムは怪訝に思ったのか眉を寄せた。

「五右衛門風呂って知ってます?」

 ヒラリーはそう尋ねた後、しまったという顔をした。

 私の記憶では、魔法を使うこの世界で五右衛門風呂はみたことない。

「五右衛門風呂とは?」

 カシムはヒラリーに尋ねた。

「昔、本で読んだことがあるのですが・・・大きな釜を風呂釜にして、下から竈に火を炊いて風呂釜の水を温めて入るのです」

 ヒラリーは昔本で読んだと誤魔化したが、深く突っ込まれたら返答に困っただろう。私も五右衛門風呂は知っているが、テレビや本でしか見たことがない。前世でも実物は見たことが無いので、本で読んだことは間違っていない。

「それだと火傷してしまいませんか」

 カシムには想像ができないようだ。

「お湯が良い温度になったら竈の火は消すのですわ。火が直接あたっている釜の底は直に触れると火傷するから、足の下には直接触れないように板を置いてその上に乗るのよ」

「はあ、そういうのもあるのですね」

 ヒラリーの説明を聞いても知らない人には分らないと思うのだが、とりあえずカシムはヒラリーにそう返事をした。

 褒める要素の少ないヒラリーだが、五右衛門風呂が出てくるなんて、流石に忍者などの昔の物が好きなだけあると、私は変に感心してしまった。

 風呂場を覗いた後は、2階に案内された。

 2階には三つ扉があったが、下の階の広さを考えると、どの部屋も狭そうだ。カシムは扉の一つを開けて中に案内した。ベッドが一つあるだけのホントに小さな部屋だ。寝るためだけの部屋なのだろう。

「こんな島なので客が来ることはありませんが、何かの時のために空いた部屋を一つ用意しています。ベッドも一つしかないので、申し訳ないのですが、一つのベッドをお二人で使って頂くことになります。あとのお二方は私の部屋をお使いください。私は息子の部屋で寝ます」

 一つのベッドに二人なんて、とても窮屈そうだが、突然現れた私たちが悪いので文句は言えない。一つの部屋を4人で使えと言われなかっただけでも良しとしよう。

「ありがとうございます」

 アルがリーダーらしく丁寧にお礼を言った。

「ご不便をおかけしますが、夕食が出来るまで、お風呂に入ってくつろいで下さい。今からお湯を入れますので・・・」

 カシムが言い終わる前に、グレッグが言った。

「あ、お風呂は沸かさなくてもいいですよ。私たちは魔法が使えるのでお湯は自分たちで準備します」

「魔法が使えるのですか?」

 魔法と聞いてカシムが驚いたことに、ヒラリーが驚いた。

「ソラシド国は魔法が使えないのですか?」

「ソラシド国では、直系の王族のみ魔法が使えます」

「ああ、そうなのですね。私たちの国では平民も魔法が使えます。魔力を持っていない人の方が少ないですね」

 アルの説明にカシムは再度驚いた。

 大陸の中には魔法のない国や、一部の者しか魔法が使えない国がある。そういえば隣国のトラスト国は魔法が使えないと言っていた。あの王子達を見ていると甚だ怪しい気もするが・・・私たちの国は魔力の大小はあるものの、国民のほとんどが魔法を使える。極小の私でも生活魔法くらいは使える・・・ようになった。学校で色々教わって少しずつ魔力もついてきている。

「では、私は夕食の準備をするので、それまでゆっくりして下さい」

 カシムは私たちを部屋に残して出て行った。

 アルとヒラリーがベッドに座り、グレッグと私は床に座った。

「この島が流刑の島だったとは・・・」

 アルは腕を組んで呟いた。

「流刑の島から出るのは難しいのかな?」

 珍しくヒラリーも考えている。

「船が作れないと言っていたから、難しいんだろうな」とグレッグ。

「月に一度船がくると言ってたじゃない。それを乗っ取るというのはどうかしら?」

 ヒラリーは船の乗っ取り計画を立てているようだ。

「そんな事をしたら、この島の人達が迷惑します。きっとお咎めがあって処刑されるかもしれませんよ」

「やめてよイルカ。処刑なんてあるわけないでしょう」

 ヒラリーは否定したが、アルは私の意見に賛成した。

「カシムの様子を見ていると、この島の罪人は普通の罪人ではない気がする。俺たちが何かをすることで本当に処罰されるかもしれない」

 アルは私たちを見回した。

「でん・・・アルもそう思われますか?」

 グレッグには思い当たることがあるようだ。

「俺の考えでは、ここの島民は政治的なことで流刑になっているのではないだろうか」

「政治犯ですか。たとえば現国王に意見した者とか、王権のいざこざで迫害を受けた者とかですか」私の問を聞き、グレッグはアルを見た。

「そんなところだろうな」

 アルは否定しなかった。

 サーストラル国においても第1王子派と第2王子派がいる。表だった動きはないように見えるけれど、アルも何度か命を狙われている。何処にでもある問題なんだ。

「ソラシド国については名前くらいしか知らない。内情がわからないから表だって動くのは難しい。もう少し様子を見ていよう」

 アルはそう結論づけると、「さあ、風呂に行こう。俺とグレッグが先に入る。お湯の用意は任せてくれ」

 アルの火魔法とグレッグの水魔法でお湯を作るようだ。

 私たちは順番にお風呂に入り、全員が上がったところで、カシムが夕食が出来たと呼びに来た。

 日はすっかり暮れて、空には月が昇っていた。

 夕食は私たちが仕留めた熊料理らしい。久しぶりの肉なので、島の広場にみんなで集まって食べるらしい。

 広場は私たちが最初にカシムとあった場所だった。

 広場の隅に大きな熊の毛皮が干してある。毛皮の横には熊の肉のような物も干してあった。

「今日は熊鍋にしました。残りは干して燻製にします」

 広場に臨時の竈を作り、大きな鍋の周りには、料理担当の女性と子供達がいた。

 子供達を横目に見ながら中央に進み、丸太のテーブルと椅子が置いていある場所まで、カシムが案内してくれた。

「ここにお座り下さい」

 そこには若い青年が先に座っていた。

 私たちを見ると青年は立ち上がり「カシムの息子のカイヤと申します」と丁寧にお辞儀をした。

 カイヤは漆黒の髪の目鼻立ちの整った、ヒラリー言うところのイケメンだった。カシムとはあまり似ていない。

 久しぶりのご馳走と言うことで、大人の島民は酒を飲み肉を食べた。お酒が入っているからか、肉が久しぶりだからなのか、みな嬉しそうだった。

 食事が終り、酒を飲み交わす男ばかりが残った。

 月明かりの中、食事中は黙っていたカイヤが話しかけてきた。

「あの熊を倒したと聞きました」

「熊に遭遇したので倒しました」

 カイヤがどんな話しをするのかわからなかったので、アルは当たり障りのない返事をした。

「冒険者とも聞きました。冒険者はどんな依頼でも受けられるのですか?」

「どんな仕事でもと言うことはないです。出来そうだと判断したものを受けるようにしています」

 カイヤは冒険者に興味があるのだろうか。でも、彼はこの島から出られないのではないだろうか。

 そこへカシムがやって来た。

「カイヤ、今夜は楽しく飲む日です。お話があれば明日の朝にしたら如何ですか」

 カイヤはカシムを見て、渋々立ち上がった。

 その時、慌てた様で男が飛び込んで来た。


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