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魔女と移動装置

 隣国の王子との顔合わせの日から一週間、毎日王城に来ているが、聖女救出に関する情報はアルのところには聞こえてこない。

「静かね」ヒラリーが暇そうに呟いた。

「何の噂も入ってこないことは上手くいっているんじゃないか」

 アルは気にもとめてないようだ。

「それより、聖誕祭の休みももう終りだ。明日は学園に戻らないといけないから、一度、地下の移動装置まで行ってみないか」私たちを見回してアルが言った。

「それは良いアイディアね。殿下がいつそれを言うか待っていたわ」と、ヒラリーはアルの提案に賛成した。

 アルとヒラリーの会話に驚いたのはグレッグだ。

「殿下、移動装置を使ってその先に行くつもりですか?」

 グレッグは不安そうにアルに尋ねた。

「行かない手はないだろう。ジョイール達は毎日の様に出掛けて居るらしい。それに、彼の地とここでは時間の進み方が違うらしいので、短時間の探索だったら時間を気にすることもないみたいだ」

「それはそうですが、知らない所に行くのですからそれなりの装備をしていかないと・・・」

 グレッグは慎重派らしく行くのには反対らしい。でも、アルの言うことには逆らわないので、不安に感じながらも、声に出して反対とは言わない。

「それはそうだな。でも、たいていの装備は空間ポケットに入っているから大丈夫と思うよ」

「そうね、グレッグ様の心配も分るけど、空間ポケットがあるから大丈夫よ」

 ヒラリーはグレッグの半分も心配してないようだ。

「しかしヒラリー様。何かの時の為に水と食料は持って行った方が良いと思います」と私が言うと、「そうね。じゃあイルカ水と食料を調達してきて」とヒラリーは言った。

 それを聞いたアルは、「よし、厨房に行こう」と立ち上がると、私を連れて部屋を出た。

 わざわざアル自らが行かなくてもいいのに、と思いながら私はアルの後を付いて行った。ヒラリーは当たり前の様に動こうとしない。グレッグはそんなヒラリーをみて迷っていたようだが、アルがグレッグとヒラリーは留守番だと言うと、何となくホッとした様に見えた。

 厨房に隣接する倉庫の前に着くと、アルは掛っていた鍵を魔法を使って開けた。

「さあ、見つかる前にちゃちゃっとやってしまおう」

 倉庫の扉を開けながらアルは言った。

「大丈夫ですか?」

 心配する私に、「ちょっとくらいなくなっても気づきはしないさ。さあ、早くやってしまおう」とアルは言った。

 倉庫に入ると、入り口近くに積まれた小麦粉の袋と卵と水を空間ポケットに押し込んだ。そして、倉庫の奥にあった冷蔵庫の中に解体された肉と乳製品を見つけたので、それも空間ポケットに入れた。そして何食わぬ顔で倉庫を出て扉を閉めた。

「さて、これだけあれば大丈夫だろう」

「そうですね。一ヶ月は持ちそうです」

「ざっと様子を見るだけだから一ヶ月もかからないよ」

 アルは軽く言ってその場を離れようとした。

「少し待ってください」慌てて引き止めた私を、まだ何かあるのかと言うようにアルは怪訝な顔で振り返った。

「食材があっても調理器具と食器がありません。鍋とフライパンがないと調理も出来ないし、食べるためには皿やコップも必要です」

「それはそうだな。今回は短い時間の予定だけど、今後の事もあるから、厨房で貰ってこよう」

 私たちは忙しく食事の準備をしている人がいる厨房に入った。

 アルは厨房の責任者を見つけると鍋やフライパン・食器の使ってない物が有ったら分けて欲しいと頼んだ。責任者はアルが厨房に来たことにビックリしたようだが、特に使用目的も聞かず鍋とフライパン・食器とナイフやフォーク等のセットを渡してくれた。

 アルが厨房の責任者からそれらの品物を受け取っている間、私は肉切りばさみとナイフと油や調味料をコッソリ頂いてポケットに入れた。

 鍋や食器などをその場で空間ポケットに入れることは出来なかったので台車を借りて厨房を出た。

「結構スムーズに事が運びましたね」

 私が言うと、「俺が何処かで野外訓練をすると思ったんだろう」と何でもないことのように言った。

「確かに野外訓練には間違いないですね」

 私も首尾通りに事が運んだことに満足していた。


 執務室に戻り、いよいよ地下の移動装置に向かう事にした。

 アルが空間ポケットから2メートル四方の長い紙の筒を取り出した。

「それは何ですか?」とグレッグが尋ねると、アルは紙の筒を開いて見せた。そこには魔方陣が描かれていた。

「魔方陣ですか!」

 驚いたグレッグに「部屋の壁にも描いているけれど、持ち運びできるのがあった方が戻りやすいと思い同じ物を描いたんだ」とアルは説明した。

「ナイスアイディアですわ。そうしたら、どんな場所に行っても戻れると言うことですよね」

 ヒラリーは両手を叩いた。

「そのつもりだよ。何があるか分らないからね」とアル。

「そうとわかれば、早速出掛けましょう」

 ヒラリーに促され、私たちは紙の魔方陣の上に立った。

「このまま発動したら、この魔方陣はここに残るのではないのですか?」私は疑問に思い尋ねた。

「この紙は特殊で、魔方陣が発動すると到着地点まで一緒についてくるんだ。だから到着したらもとの紙に戻るから筒状にしてポケットに戻せばいいんだ」

 アルはそう言うと魔方陣を発動させた。

 魔方陣から発せられた淡い光が全体を包むと、変な浮遊感に襲われた。気が付くと移動装置のある地下のドームの中に立っていた。

 移動装置は相変わらず明るく輝いていた。ただ一つ違っていたのは、その装置の前に1人の女が立っていた。

 魔女だ!

 私たちは驚愕した。

「待ちくたびれたわ」魔女が言った。

「城の北側の装置が発見されて、魔王の城が見える草原に人間どもが出入りしはじめたから何事かと思っていたら、誰かが聖女を攫ったと言うじゃない。せっかく静かに暮らしていたのにうるさいったらありゃしない。それで、他の装置の確認に来たら、変な魔方陣を見つけたから待っていたのよ」

 魔女の赤い唇がニヤリと笑った。

「お前は、聖女を攫った魔女とは違うのか!」

 アルは魔女から間合いを取りながら尋ねた。

「あんなのと一緒にしないでくれる。私は静かに暮らしたいのに、あの女は・・・」

 魔女はマジに嫌そうに顔を歪めた。

「では、お前がここに来たのは何故だ?」

「移動装置を使えないようにする為よ」

「何ですって!」

 ヒラリーが聞き捨てならないと叫んだ。

「貴方たちに私の住処の周りをうろついて欲しくないのよ」

 うんざりした様に魔女は言った。

「お前の言いたいことは分ったが、俺たちにも予定がある」

「見たところ、あんたらはあの聖女を探している連中とは違うようだけど。魔王の城に何の用があるのさ」

「魔王の城には何の用もない。しかし、俺たちは行かなきゃいけない。だから行くのだ」

 アルが訳の分らないことを言っている。

「変な奴らだね。お前達が私の住処に面倒をかけないのなら行くのは構わないよ。その代わり帰ってこれるかどうかは保証しないよ」

「どういうことだ?」

「簡単さ、お前達が出掛けた後にこの装置を使えないようにするからさ」

 魔女は意地悪な声で答えた。

「そんな事はさせないぞ」

 アルが剣をかまえた。

「あたしは戦いを好まない。ここで戦うつもりなら、先にこの装置を壊してしまうよ。先に壊すか、後に壊すかだけの選択はお前達に任せるよ」

 魔女は一歩も引かないようだ。

「殿下、どっちみち壊されるのなら行ってみましょうよ」

 すっかり冒険者気取りのヒラリーがアルを見た。

「でも、装置を壊されてしまったら戻れないかもしれないんだよ」とグレッグ。

「ここまで来たからには、行かなきゃでしょう」

 ヒラリーは譲らない。

「面白い子だね。女の子の方が勇気があるね。さあ、どうする。男の子達」

 魔女は楽しんでいるようだ。

「分った。行こう」とアルが決断した。

「そうそうそうこなくっちゃ。『行きはよいよい、帰りは恐い』だからね。帰ってこれるかどうかはその時次第だよ。そして、行き着く先も、その時次第。まあ、頑張ってみるんだね。生きて帰ってくることを願っているよ」

 そう言うと、魔女は私たちを移動装置の前に押し出した。装置から眩い光があふれ出したと思ったら、私たちは森の中に立っていた。


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