隣国の王子
廊下を歩いていると、向かい側から華やかな一団が近づいて来た。廊下の中央を歩く男がリーダーらしい。髪は赤褐色。目は碧で鼻梁は高く整った顔をしている。身長も高く何処か傲慢な雰囲気が感じられる。
中央の男は、私たちとすれ違う一歩手前で立ち止まり、「これはこれは、フェアルート第2王子ではございませんか」と、いかにも驚いたといったように大げさな様子で挨拶をしてきた。
アルも立ち止まり、「隣国の第2王子殿下初めてお目に掛ります。今、貴国の方々との面会に伺うところでした。私の名前をご存じと言うことは、改まって挨拶の必要はないと言うことでしょうか。それにこれより先は貴公には関係のない場所と思いますが、城の従者も付けずに何処へ行こうとされていたのですか」と、第2王子を冷ややかに見た。
「おやおや、私はフェアルート殿下の機嫌を損ねたみたいですね」
隣国の第2王子はますます大げさな態度でアルを見た。
わざとやっているのだろう。第2王子の側近達は王子を止めようともしない。どちらかと言うとニヤニヤして見物しているといった感じみたいだ。アルがどんな態度を取るか楽しんでいるようだ。
アルはムッとしたみたいだが、平静を装い少し強めの口調で隣国の王子に言った。
「城の中を歩くときは、我が国の従者を必ず付けて頂きたい」
「おお、恐い。フェアルート殿下は真面目なのですね」
第2王子は大げさに驚いてみせる。
「ガイグレート殿下。そのような態度を取ってはいけません」
第2王子の後ろにいたロープを目深に被った、いかにも魔法使いと思われる女が窘めるように言った。しかし、顔の半分をローブで隠した女の唯一見えている赤い唇は嘲るように弧を描いていた。この女も明らかにアルを見下していた。
「我々は顔合わせを終えて部屋に戻るところです。部屋に戻るだけなので従者の方にはご遠慮頂きました」ローブの女はそう言って軽く頭を下げた。
「そういうことだ」
隣国の第2王子ガイグレートは肩から下げたマントを翻すとアルの前でUターンして来た廊下を戻っていった。
「彼らに与えられた客間は反対方向だったはずだ。いったい何の用事があってこっちまで来たのだろう」
遠ざかる後ろ姿を見ながらアルは不機嫌な態度を隠す事もなく呟いた。
「彼らには気を付けた方が良さそうですね」ヒラリーも憤慨したように言った。
「もう顔合わせは終わったのでしょうか?」
グレッグは顔合わせの行なわれる廊下の先の部屋を見た。
「まだだろう。あの男が勝手に出て来たと思った方が正解だろう」
アルは再び顔合わせようの部屋を目指して歩きはじめた。
部屋の前に着くと、扉の前に立っていた兵士が扉を開けてくれた。
「遅くなりました」
部屋に入るなりアルは言った。
「いえ、まだ始まっておりませんので大丈夫です」と宰相が答えた。
部屋の中を見ると、隣国の第3王子と思われる人物とその従者が1人、そしてジョイールと宰相と魔法省の職員が数名いた。そこに国王の姿はなかった。
隣国の第3王子は金髪碧眼の噂通りの美形だった。第2王子ほどの傲慢な雰囲気はなく、全身に温和そうな優しげな空気を纏っている。
絶対に女にもてるだろうと私は思った。それに、確か三人の王子の中では一番優秀で、唯一魔法が使えると聞いている。第3王子は見かけ通りの人物と決めつけていいのだろうか。
部屋を見回していたアルが口を開いた。
「まだ始まっていないのですか?廊下で第2王子殿下と会いましたが、顔合わせはもう終わったと言ってました」
「申し訳ない。兄上は我慢ということが嫌いで、この部屋に着いて国王陛下の姿がないことを確認すると直ぐに出て行きました。ご不快な思いをさせてしまったようですね」
第3王子が丁寧に謝った。
「いえ、私のことを知っていましたので、顔合わせの時に名前が出たのではないかと思ったのです」
「すみません。サーストラル国の王子殿下お二人のことは事前に調べておりましたので、こちらにジョイール殿下がいらしたので、フェアルート殿下と申し上げたのでしょう。ご不快に思われたのなら私から謝罪致します」と第3王子は頭を下げた。「ガイグレード。兄の名前です。兄に他意はないのです。自分のやりたいようにするというのが兄の性格なのです。兄は誰の意見も聞かなくて、自国でも何処でも好き勝手に動いてしまうのです。だから急にこちらに来たのも兄の気まぐれみたいなのです」
第3王子は第2王子の行動は自分も止められないのだと、すっかり恐縮した様子でアルに言った。
「そうなのですか」とアルは言った。
「では改めて挨拶をしましょう。私はフェアルートこの国の第2王子です」
「あ、失礼致しました」
慌てた様に第3王子もアルに挨拶を返した。
「はじめまして、私はトラスト国第3王子マリウスです」
アルとマリウスはお互いの紹介がすむと握手をした。
握手をした時にマリウスの指先に微かな魔力が見えた。アルも感じたのだろう。
「マリウス殿下は魔法が使えるのですね」
アルの問いかけにマリウスが驚いた顔をした。
「おわかりになりましたか?」
「いま、指先に魔力が出ていました」
「申し訳ない・・・私は魔力はあるのですが、コントロールが上手く出来ないのです。それで不快な思いをさせてしまったみたいです」
「そうですか」
アルは頷いたが、その返答に納得していないことは私にも分った。やはり隣国の2人の王子は何か企んでいるのかもしれない。要注意人物とインプットされた。
「フェアルート、この時間になっても陛下が現れないと言うことは、ここには来ないと言うことだろう。私とマリウス殿下は今後の事について話し合わないといけないから、お前はもう帰っていいよ」
ジョイールにそう言われてアルは頷いた。
「わかった。聖女の件については、私は何の手伝いも出来ないからな」
アルはその場にいた宰相や魔法省の職員全員を見回してゆっくりと言った。
自分で勝手に出ていったのではないとその場にいる全員に印象づけた。
私たちが部屋を出るとき、宰相はジョイールと第3王子の打合せのために、魔法省の職員と別の部屋に移動するよう手配をしていた。
執務室に戻ると、アルは今まで押さえていた感情を解放した。
「隣国の王子。2人とも怪しいと思わないか。何か企んでいる気がする」
アルは行儀悪く、応接様のソファーにドサッと腰を下ろした。
「私もそう思うわ」すかさずヒラリーが言った。
「あいつ、第3王子の方だけど、何が魔力のコントロールが出来ないだよ。俺の魔力を探ろうとしたのは間違いない」
「そうなの!」グレッグとヒラリーが驚いた。
「私も見ていました。あれは故意です」私もヒラリーに続けた。
「そうか。イルカはあいつの魔力が見えたか」
「はい、第3王子のメイン魔力は白属性です」
「白!確かに雰囲気と合っているな」と納得するアルに、「そうですね。雰囲気からして白属性ですね」とヒラリーも納得した様だ。
「フェアルート殿下は属性を感じられませんでしたか?」
私は少し疑問に思って聞いた。
「ああ、属性までは分らなかった。ただ魔力を探られているのは分った。止めたけどな。あいつとの握手は気を付けた方がいい」
「分りました」グレッグが神妙な顔で頷いた。
「みんなは大丈夫だと思います」と私が言うと、「どうして?」とヒラリーが聞いた。
「あの方より、皆さんの魔力の方が大きいからです。小さい物は大きい物の力は測れません」
「あんたが言うと本当に聞こえるから不思議ね」
「では、イルカはどうするの?」グレッグは私を見て心配そうに尋ねた。
「私は魔力が無いので、探ろうにも探れません」
「そうだった。グレッグ、イルカは魔力を探られてもそんなに魔力がないから大丈夫だよ。それより、あいつが魔法省のアンドレみたいでない事を祈るよ」
「考えが読めると言うことですか?」
グレッグが真剣な顔をした。
「さっき握手したときに、アンドレと同じ魔力を感じた気がしたんだ」
「それでは、気を付けなきゃいけませんね」ヒラリーが真顔になった。
「ああ、でもマリウスは接触することで見えるタイプと思う。アンドレみたいに目を合わせたらと言うことは無いと思うけど、相手が何を考えているか分らないから、用心するに超したことはないな」
私たちは改めて気を引き締めることにした。




