王都の地下2
目の前に現れた通路を私たちは下った。
今度の道はらせん状ではなくまっすぐに下っていた。
しばらく下っていくと、道が平坦になり、通路の先に明るい光が見え始めた。
「出口のようです」とグレッグが言った。
ほの明るい通路の光とは違い、明るいドーム状の部屋に出た。
それはドームの中央にあった。
「移動装置だ」
移動装置に近づいた。
装置の手前の床に『行きはよいよい。帰りは恐い』と書いてあった。
「『行きはよいよい』と言うことは、行くのは楽って事だよな。じゃあ、『帰りは恐い』とはどういう意味だろう」
アルが唸るように呟いた。
「帰りは大変と言うことだろうから、この装置は行き専用と考えるべきだろうか」
「多分そうだと思うわ」
アルの呟きにヒラリーが同意した。そして、移動装置の手前の床に書かれている文字を改めて見た。
「北の塔の移動装置にも同じ事が書かれていたのかしら?」
「そうかも知れないね。だから初めから戻るための魔方陣を用意したのかもしれない。隣国の王子に移動装置を知られないようにするためかと思っていたが、もし、これと同じ文章が書かれていたとしたら、魔法省があらかじめ戻るための魔方陣を用意する必要があったのだろう。なんたってジョイールと隣国の王族を連れて行く事になるから用心に用心を重ねないと責任問題になるからな」
「俺たちは何の準備もしていない。準備をしたからだな」
アルは移動装置の側を離れた。
移動装置の他に何か無いかとドームの中を見回していたグレッグが話題を変えるように言った。
「この部屋にも宝箱がいくつかあります。その中に装備が入っているかもしれません」
四人は宝箱に歩み寄った。
1つ目の宝箱の蓋を開けると、そこには銀色に縁取られた紫紺のマスクとマントが入っていた。
「これは、色的に言って俺の物かもしれないな」そう言いながら、アルは空間ポケットにマスクとマントをしまう。
次の箱には魔法使いの杖とマント。
「これは誰の物だろう。俺たちの中に魔法使いはいない」
アルは魔法使いの杖とマントを自分の空間ポケットに入れた。
3番目の宝箱は少し小さくて鍵が掛っていた。
「鍵が掛っている」
アルは前の部屋で見つけた鍵を合わせた。
カチリと音がして宝箱が開いた。
中には指輪が四つ入っていた。
『もどりのゆびわ』私の頭の中に声が響いた。
「『もどりのゆびわ』だそうです」
「『もどりのゆびわ』?」
ヒラリーは少し考えて、「もしかしたら、この指輪を使って、移動装置で行った先から戻ってくることが出来るのかもしれません」と、閃いたように手を叩いた。
指輪は、それぞれ赤い石と青い石と緑の石の付いているものと、色のない石の付いている合計四つ入っていた。
アルは赤い石の指輪を手に取った。すると、指輪はスルリと指に入った。
「この石はそれぞれの魔法属性に対応してるかもしれないね」
「では、私は青い石ですね」
グレッグが指輪に手を伸ばす。すると、赤い石の指輪がアルの指に納まったと同じようにグレッグの指にスッと納まった。
同じように緑の石はヒラリーの指に、色のない石は私の指に納まった。
「この指輪が、俺たちを戻してくれると信じよう」とアルが言ったので、私たちは全員頷いた。
私たちは残り全ての宝箱を開けた。中にはポーションや旅に必要なアイテムが入っていた。それらを空間ポケットにしまった。
「殿下、このまま移動装置で移動されますか?」
グレッグがアルに尋ねた。
「いや、さっきも言ったように、装備をそろえて出直した方がいい。だから、今日はここまでにしよう。ここに来るのに何度も通路を通ってくるのは面倒だから、魔法省が移動先と城とを魔方陣で繋いだように、移動の魔方陣をここと俺の部屋に設置することにしよう」
「そうね、それが良いわ」ヒラリーも賛成した。
アルはドームの隅にちょっと見では分らない魔方陣を描いた。
「この魔方陣は、殿下がいないと発動しないの?」
ヒラリーが魔方陣を見ながら尋ねた。
「俺がいなくても発動するが、俺が認めた者しか使えないようにした」
「それなら安心ね」
ヒラリーは頷いた。
「とりあえず、この魔方陣は一つだけでは働かないから、帰りは今来た道を辿るしかない」
アルはそう言うと、来た入り口に向かった。
「えーつ。『もどりのゆびわ』を使って見ないの」
「変なところに戻っても困るから、この指輪の使い方も慎重に準備してからの方が安心だろう」
「なーんだ、初めから魔方陣を用意してたら良かったのに!」ヒラリーがうんざりした様に呟いた。それをグレッグが宥めて、元来た道を引き返すことにした。
来るときは下りだったので楽だったが、帰りは延々と続く階段を上った。礼拝堂に戻った時にはみんなくたくたに疲れて声も出なかった。
礼拝堂の外に出ると、もう夕闇がせまっていた。
「けっこう長くいたみたいですね」
「今日はもう戻りますわ」
ヒラリーがくたびれ果てたように言う。
疲れたヒラリーに寄り添っていたグレッグは、「殿下、ヒラリーを送ってきます」と心配そうに言った。
「そうだな。では、明日、同じ時間に執務室に来てくれ」
私たちはその場で別れた。




