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王都の地下

 礼拝堂の前。

「礼拝堂・・・」

 白く輝く建物を見上げて呟いた。

「ここは以前来たところでしょう。ここに地下通路の入り口があるの」

 ヒラリーは半信半疑で尋ねた。

「地下の移動装置をサーチしたら、礼拝堂に地下通路の入り口が見えたのです」

 私はサーチの結果を説明をする。

「いや、あんたを疑っているわけではないけれど、まさかあの霊廟にある魔方陣が入り口なの」

「いえ、霊廟の魔方陣ではなく、礼拝堂の祭壇の裏に階段があるみたいです」

「どっちでも良いから、早く行こうぜ」

 私とヒラリーの話を聞いていたアルがしびれを切らしたように礼拝堂に入った。

「あれ?」

 礼拝堂に入った途端、2頭身に縮んだ。

「戦闘でもないのに縮んだ」

「殿下、敵がいるのかもしれません。気を付けてください」

 グレッグが周りを見回す。

 敵がいる感じではない。礼拝堂の中は静謐な空気が漂っていた。グレッグは目を凝らして礼拝堂の中を見渡したが誰の姿も見えなかった。

「確か以前来たときも縮んだわよね」

 ヒラリーは考えるように腕を組んだ。

 それを横目で見ながら、小さい身体で腕を組んでもかっこよくないと思った。

「もしかしたら、ここは殿下とイルカのゲームの世界そのものかもしれないわね」

「と言うと?」

 アルがヒラリーの呟きに反応した。

「古いRPGは、移動するときや建物に入ったりすると小さくなるのよ」

 ヒラリーの言葉にアルはウンザリしたように頷いた。

「以前にもそう言ってたな。俺たちのゲームになると動く度に小さくなるのか」

「ハッキリ『そうだ』とは言えないけれど、たぶん・・・」

 ヒラリーも小さくなることにはウンザリしているようだ。

「ここで立ち止まっていても仕方ありません。先に進みましょう」

 グレッグはあまり気にならないのだろうか。アルとヒラリーを促した。

「グレッグ、お前は気にならないのか?」

「私だって小さくなるのは気になりますよ。しかし、修正できないのなら、この姿に慣れるしかないと思います。そうしない事には先に進めません」

 グレッグは思ったより順応性があるようだ。だから、サーシャリアがグレッグを誘うのだろうか。

「そうだな。無駄な時間を潰すくらいなら、先に進んだ方がいいな。それで、入り口は何処にあるんだ」

 アルは祭壇に向かって歩きながら私に尋ねた。

 サーチを発動中の私の目には、祭壇の裏にある階段が見えている。

「この祭壇の裏に地下に降りる階段が見えます」

「祭壇を動かすということだな」

 アルとグレッグが祭壇の周りを調べてみた。しかし、スイッチなどは見つからなかった。

「祭壇を動かすにはどうすれば良いんだ?」

 私は祭壇を凝視する。

 そうすると、祭壇に刻まれている王家の紋章がキラリと光った気がした。

「この紋章・・・」

 紋章を手でなぞってみるが、何も起こらない。

「何も起こらないな。その紋章がどうかしたのか?」

 アルの問に「光ったような気がするのです」と私は答えた。

「光ったと言うことは、何かあると言うことだな」

 アルは紋章をじっと見つめた。

 盾の前に勇者の剣と魔法使いの杖が交差し、盾の上に獅子が乗っている王家の紋章。

 獅子の黄金の目が光って見える。

 アルは躊躇うことなく光る獅子の目に触れた。

 ズ、ズズズ・・・

 何かがずれる音がした。

 驚いて祭壇から離れると、祭壇が少しずつ上に上がり、床から1m挙がったところで止まった。祭壇の下に階段が現れた。

「入り口だ」

 私たちは急いで階段に足を踏み入れた。

 全員が中に入り終えると、祭壇はストンと滑るように降りてきて入り口を塞いだ。瞬間目の前の空間が闇に包まれた。

 目が慣れてくると、全くの暗闇ではなく、通路の壁の所々が、ボヤッと明るくなっているのが分った。

「明るくはないが、歩くには充分だ」

 アルが率先して階段を降りていく。

「しかし、イルカが触っても何も起こらなかったのに、殿下が手を添えたら祭壇が動きましたね。いったい何が起こったのでしょう」

 グレッグは不思議そうに首を傾けた。

「たぶん、俺が王族だからだろう」

「王族だから動いたと言うのですか?」

 ヒラリーもまた疑問に思っていたようだ。

「ここは王族のための礼拝堂だからね。誰が触っても動いたらおかしいでしょう」

 そう言われてみればそうかも知れない。勝手に入って触っただけで祭壇が動き、地下通路がが現れたら、みんなが地下通路に押し寄せて大変な事になる。アルの言うことがあっているのだろう。

「しかし、けっこう下っているな。あの塔から続く地下通路とは繋がっていないのだろう」

「お気づき出ようが、この階段はらせん状に下ってます。あの塔の地下通路とは微妙にずれています」

 そうなのだ、この地下に続く階段はゆるく螺旋状になっている。そして四つの塔を繋いでいたあの通路の隣を通っているのに、交差することもない別の空間を通っていた。

「丁度この壁を隔てた向こう側に塔の地下通路が通っています」

 三人が「えっ!」と驚いた。

「しかし、この階段はあの通路よりもっと下に続いています」

 私の説明に壁に耳を当てて気配を探ろうとしたアルは、「何も聞こえない」と言ってその場を後にした。

 私たちは螺旋階段を黙々と下っていった。どのくらい下っただろう。急に視界が明るくなり、平坦な場所に出た。小さな広間のようだ。見渡すほど大きくないが、四方の隅に宝箱があった。

「宝箱がありますわ」

 ヒラリーの声がことのほか大きく響いた。

「まっ!」ヒラリーは口に手を当てた。そして辺りを見た。

 声に反応した者はいないように感じた。

「ヒラリー様。誰もいません。大丈夫みたいです」

 私は声を潜めて言った。

 四隅の宝箱を順に開けていく。

 一番目の宝箱にはコインがぎっしり。2番目の宝箱は宝石がいっぱい。

「こんなのを見ると、本当に宝箱ですね」

 沢山のコインにグレッグが感嘆した。

「この宝箱の中身はどうしますか?」

 グレッグの言葉にアルは少し考えていた。

「コインや宝石が必要とは思わないが、とりあえず空間ポケットに入れていこう」

 空間ポケットは何を入れても大きさも重量も変わらないから、宝箱の中身はとりあえず頂いて行くことにした。

 3番目の宝箱には小さな遠めがねが入っていた。

 どこからか『のぞきめがね』と聞こえた。

「『のぞきめがね』だそうです」と、私は聞こえたとおりに言った。

「『のぞきめがね』だって」

 アルが『のぞきめがね』を手に取って覗いて見た。

「何も見えないぞ」

「本当に?」とヒラリーはアルから受け取って覗いた。

「あら、本当に何も見えないわ」

『のぞきめがね』はヒラリーからグレッグに渡された。

 グレッグも「何も見えません」と言って、私に『のぞきめがね』をくれた。

 私もみんなと同じように覗いて見た。『のぞきめがね』の中は真っ暗で、部屋の様子も何も見えなかった。

「不思議ですね。本当に何も見えません。何か仕掛けがあるのでしょうか。とりあえずポケットに入れておきます」

 私は『のぞきめがね』を空間ポケットにしまった。そして4番目の宝箱に向かった。

 4番目の宝箱には鍵が入っていた。

「この鍵が何処の鍵なのか今は分らない。空間ポケットに入れていこう」

 アルは宝箱から鍵を取り出すと空間ポケットに入れた。

 部屋の中の宝箱は中身を取り出すと全て消えた。

「イルカ、次は何処へ行けばいい」

 部屋の中には入って来た階段の入り口しかなかった。

 私はサーチで位置を確認した。すると入って来たところとは反対の方に道が見えた。

 私は通路の見えた壁に近づいた。

 壁にうっすらと王家の紋章が書かれている。紋章の獅子の目が光った。

「殿下、また紋章がありました。この紋章に触れてください」

 アルが紋章に触れると、壁が一瞬の間消えて通路の入り口が現れた。


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