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図書室にて

 図書室の入り口でサーシャリアが待っていた。

 来ないと思っていたのだろうか、私たちの姿を見て安堵したように見えた。

「中で待っていても良かったのに」

 話しかけようとしたサーシャリアをヒラリーが遮った。

「中では静かにしないといけないからここで待っていたんですよ」サーシャリアは少しムッとしたようだ。

「中で話せないなら図書室に来る必要ないんじゃない」

「いや、閲覧室では話しが出来るんだ。閲覧室は個室になっていて受付を通さないと行けないようになってます。初めての人が後から入るのは少し手続きが面倒なので外で待っていました」

「そうなの?」

 王宮の図書室は初めてだ。中のシステムがどうなっているのか分らない。ここはサーシャリアに任せた方が良さそうだ。

 サーシャリアに付いて図書室に入る。

 入ってすぐ横に受付のカウンターがあった。

 受付の横には2階に登る階段がある。

 図書室は、真ん中に通路があって、通路の両側に櫛形に書架が並んでいる。入り口と受付を除いた壁にも本棚で囲われている。こう言うと暗い本だらけの図書室と思われそうだが、室内は思ったより明るかった。

 図書室全体に光が届くように設計された大きな天窓があり、天窓から書架のある場所までは吹き抜けになっている。

 図書室の中はシーンと静まりかえっている。小さなピンを落としても聞こえそうだ。こんな所で秘密の話しなど出来そうにない。

 受付で手続きをして、図書館の奥に進む。サーシャリアは本棚の間を進み、一冊の本を手に取った。

 私たちも近くの本棚から本を一冊取った。

 受付に戻ると、閲覧室を使う手続きをして鍵を貰った。

 サーシャリアは鍵を貰うと、慣れたように受付の横の階段を上った。

 階段の上は、片側は吹き抜けの書架を見下ろせるデッキ通路、反対側は番号の付いた扉が並んでいた。

 サーシャリアは鍵と同じ番号の部屋の扉を開けた。

 中には読書用の机が一つと数客の椅子があった。

 天井は無く天窓からの光がこの部屋にも差し込んでいた。

「ここは防音魔法が施されているから話しをしても大丈夫だよ」

 緊張していたのだろうか、サーシャリアはフーッと息を吐き出した。

「初めて来たわ」

 ヒラリーは珍しい物でも見るように部屋を見回している。

「たまにこの部屋を打合せにも使うことがあるんだ」

 サーシャリアは本を机に置き椅子に座った。

「このインターホンはなあに?」

 ヒラリーは壁際インターホンを指さした。

「それは、飲み物だとかを頼むときに使う物だよ」

「ここで飲み物を飲んでも大丈夫なの」

「本を汚さなければ大丈夫だよ。もっとも本も汚れないように魔法がかけられているけどね」

「へぇ、便利ねぇ」

 ヒラリーは一通り部屋の中を見回すとサーシャリアの向かいの椅子に座った。

「さて、話しを聞きましょう」

 サーシャリアはゴクリと喉を鳴らした。

 この世界ではサーシャリアの方が年上だけど、前世ではヒラリーの方が年上だ。前世のゲームの話しをする時は、サーシャリアは大学生に戻ってしまうようだ。

「ヒラリーのゲームは『乙女ゲーム』だったよね」

「そうよ、あんたのゲームは『乙女戦隊ゲーム』でしょう」

「そうなんだ。そのゲームに『魔の山』は出てこないよね」

 確認するようにサーシャリアは上目でヒラリーを覗き見た。

「前にも言ったけれど、私のゲームには『魔女』も『魔の山』も出てこないわ。学園内だけだわ。だいたい恋愛の断罪ゲームにラスボスはいなかったもの」

「だよな、私のゲームには敵として『魔女』と『魔獣』は出て来たけれど、『魔の山』までは行かなかった。すべて王都で完結していた」

「全て王都で?じゃあ、魔女との最終決戦はどこで行なわれたの?」

「王都の地下に魔女の住処があって、最終的にそこに追い詰めて戦った」

「そうなのね」

「だから今回の事はバグとしか考えられないんだ」

「もう一つ考えられるわ」

 ヒラリーの言葉にサーシャリアが反応する。

「もしかして、イルカのゲーム」

「そうよ。正確にはフェアルート殿下のゲームよ」

「フェアルート殿下のゲーム?」

「そうよ、『真実の聖女を探す』のを頼まれたのはフェアルート殿下だわ。だからイルカのゲームだけどイルカのゲームではないの」

「それに『魔の山』が出てくると?」

「私のゲームでもあなたのゲームでもなければ、そうとしか考えられないでしょう」

「それはそうだが・・・」

「とにかく、私たちのゲームのバグではなくて、第三のゲームのイベントと考えた方が戦略を練りやすいと思わない?」

 ヒラリーの提案にサーシャリアが考えている。

 しかし、アルと私のゲームと言ったって、それでどうすれば良いのだろう。

「まず、サーシャリア様の話だと、魔女の住処は王都の地下にあるのよね」

「そうだけど、それがどうした」

「その地下は塔の地下道とは違うのでしょう?」

 サーシャリアは考えている。

「いや、あの塔の地下道の何処かだと思う」

「あの地下道は全部見たけれど、何も無かったと思うけど・・・まって、そういえば妙な動きをする地下道だったわね」

 そうだった。地下通路を普通に歩いていては目的地に着かなかった。

「あの地下道に別の道が隠れているのかもしれないわ」

「隠された道か。あり得るな」

 サーシャリアもヒラリーの考えに賛成のようだ。

「そうよ、そこには『移動装置』があるのよ」

「移動装置?」

「そうよ。そうでなければ、何の痕跡も残さず、国全体に張り巡らされているシールドの中に入ってこれるわけないわ」

「確かに・・・」

「ずいぶん前だけど、壊れた洞窟を覚えている?」

「壊れた洞窟?」

「私のゲームとあんたのゲームでフェアルート殿下が死んだ洞窟よ」

 サーシャリアがアッと口を開けた。

「思い出した?あの時洞窟の中にセーブスペースの様な物が有ったの覚えている」

「そういえば、変な物が有ったと聞いている。魔女が壊してしまったので調べられなかったと聞いた」

「魔女が壊したのは本当よ。あれが『移動装置』だったのかもしれないわ。そう考えると国内に『移動装置』が何処かに隠されていると考えられるんじゃない。見つけて利用できれば『魔の山』にも行きやすくなるかも・・・」

 ヒラリーの提案にサーシャリアが目を輝かせる。

「そうだね、まずは『移動装置』を探すことにしよう。ヒラリー、君と話せて良かったよ」

 サーシャリアは立ち上がると部屋から出て行こうとした。

「ちょっと待ってよ。本当にあるかどうかは分らないわよ」

「それでもいいんだ。可能性があるなら何でも試してみるよ」

 ヒラリーが引き止めるのを振り切ってサーシャリアは出て行った。

「困ったな。一つの提案だったのに」

 ヒラリーが困惑の表情を浮かべる。

「ヒラリー様、試してみる価値はありますよ。『移動装置』を探しましょう」

 私とヒラリーも図書室を後にした。


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