聖女誘拐
「魔女が聖女を攫っていったというの?」
信じられないとヒラリーが呟いた。
「そうなんだ。こんな展開私は知らない。ヒラリー、君のゲームにもなかったよね」
サーシャリアは予定外の展開に興奮を隠せない様子でヒラリーに詰め寄った。
「サーシャリアどこだ!」
ジョイール第1王子の叫ぶ声が聞こえた。
「サーシャリア様、ジョイール殿下が呼んでいますわ」
サーシャリアに詰め寄られていたヒラリーは助かったとばかりに、ジョイールが呼んでいると伝える。
「ヒラリー嬢、後で時間を取って頂けませんか?」
ヒラリーとどうしても話したいのか、
「これから、今後の打合せがあると思います。少し遅くなると思いますが、王宮内の図書館で待って頂けますか」
サーシャリアはそう告げると、ジョイールの元に急いで行った。
「いったい何が起きているんだ」
人々の話から聖女が攫われたのは分った。
「広間にいる聖女は3人。アンジェラ嬢とドッチ家のアレカ嬢とコレカ嬢。ジョイールの様子からして、攫われたのはどうやらエレーナ嬢のようだ」と、アルは言った。
私たちが広間の隅で状況確認をしていると、宰相とローレイル侯爵が私たちの所に来た。
「フェアルート殿下、今回の件について会議が開かれます。急いでお越しください」
宰相とローレイル侯爵の顔が強ばっているところを見るとあまり良い状況ではないようだ。
宰相はアルと一緒にグレッグも連れて行った。グレッグも会議に出るならば、当然サーシャリアもジョイール王子と参加しているだろう。
私はヒラリーとアルの執務室で待つことにした。
一時間もしないうちにアルとグレッグは戻って来た。
アルの様子からあまり良い話しではなかったようだ。
「それで、どんな話しだったのでしょう」
険しい顔をしている二人にヒラリーが尋ねた。
「あまり良い話では無い」と、アルは前置きをして話し始めた。
「俺が広間を出た後に魔女が現れたらしい。魔女は聖誕祭のパーティを嘲笑い、『お前達の聖女を連れに来た』と言った。そして、エレーナとフェアリスを攫っていったそうだ」
「フェアリスを!」
「二人とも王族の婚約者だかららしい」
「そうね、エレーナはジョイール王子と婚約が決まったところで、今日のパーティで正式に発表される予定だったわね。そしてフェアリスの婚約者は隣国の第三王子」
「そうなんだ。それで隣国トラストに伝令を送った」
「それで、魔女はなんのために聖女を攫ったの」
「理由は分らない。魔女が去ったあのどさくさの後に国王宛の手紙が届いたそうだ」
「なんと言って来たのですか」
ヒラリーと私は身を乗り出してアルを見た。
「『聖女を助けたかったら、魔の山にある魔女の離宮に来い』と書かれていたそうだ」
「魔の山ですって!」
「会議で宰相から聞いた話しでは、魔の山には魔王の城があるそうだ。魔女の離宮は魔王の城の近くだろうと言うことだった」
魔の山、最近聞いたワードだ。あの一角オオカミの住処があり、冒険者達が戻ってこないという場所。
「魔王のしろじゃなくて、魔女の離宮と言うのは何故かしら?」
ヒラリーが呟いた。
「魔王は、この国の始祖の王が倒してから千年の眠りについているらしい。十数年前に一度目覚めたらしいが、その後現れたという話しは聞かないからまた眠りについたようだと言っていた」
「うーん、ゲーム的に考えると、ラスボスは魔王だと思うのだけど・・・この世界では魔女がラスボスになるのかしら」
「じゃあこれは俺のゲームの一部なのか?」
アルがウンザリした顔をした。
「そう考えるのが妥当だと思うわ。私のゲームには魔の山は出てこなかったし、サーシャリア様のゲームにも出てなかったみたいだから・・・だいたいRPGだと何処かに攫われたお姫様を助けると言う展開が多いから殿下とイルカのゲームだと思うわ。攫われたのが探している聖女と違うのは不思議だけれど、きっと何か関係があるのよ」
ヒラリーは鼻息荒く握りしめた両手に力を入れた。
「それで、聖女救助隊を組むんでしょう?」
「そうなんだけど、ジョイールがグレッグを貸してくれと言っているんだ」
「なんですって!冒険者すら帰ってこない場所に、何故グレッグ様が行かないとけないの!」
「いやいや、そんな事を俺が許すわけないだろう」
アルの言葉に怒りかけていたヒラリーがすこし落ち着いた。
「殿下、陛下は冒険者すら帰って来れないところに王子を派遣する予定なのですか」と、私は聞いた。
「分らない。でも派遣されたとしても、前線に出ることはないだろう。後衛から指示を出す程度だと思う」
「人選が大変ですね」
「そう、そこでグレッグに声が掛ったらしい」
「まあ、なんてこと!」
収っていたヒラリーの怒りがまた起きてきそうな雰囲気になった。
確かにグレッグは物腰が柔らかく優しい雰囲気だけど能力は高い。ジョイールが欲しがるのも無理はない。
「殿下はどうされるおつもりですか?」
「これが俺たちのゲームの一部ならば参加しないといけないと思うけれど、俺たちの目的とは違う事に力を裂きたくはないんだ」
私たちの目的、本物の聖女を探すこと。
魔女の意図が分らないだけに、何だか悶々とする。
「ここでくよくよ考えていても仕方ありませんわ。サーシャリア様が王宮の図書室で待っていると思いますから、私はサーシャリア様の話を聞いてきますわ。もしかしたらジョイール殿下がどのように考えているかも分るかもしれませんわ」
気分を変えるようにヒラリーが言った。
「サーシャリアと会うのか?」
「ええ、ゲームのすりあわせをしたいみたいですわ」
「そうか、わかった。後で結果を教えてくれ」
「分りましたわ。それではちょっと行ってきますね」
ヒラリーは私を連れて王宮の図書室に向かった。




