隠し通路探索
アルは本棚の上から本を一冊取って、一番下の棚からも一冊取った。そして、上の本は下の棚に下の本は上の棚に上下入れ替えた。すると本棚が音もなく横に動いた。本棚のあった壁にはポッカリと開いた空間が現れた。
グレッグとヒラリーはしばらくポカンと壁に空いた穴をみていたが、「殿下、これは・・・」とグレッグが尋ねた。
「すごいだろう。これは北の塔の地下通路とは別の通路みたいだ。おそらく隠し通路だと思う」
「他の部屋にも繋がっているのでしょうか?」
「たぶんな。部屋の中に入れるかどうかはその時次第だけどな」
アルはその点についてはあまり興味が無いようだ。
「さあ、出発するぞ」
そう言うとアルは穴の中に入って行った。私たちも慌てて後に続く。
空間の先には階段が下に向かって続いている。昨夜私が上ったあの階段だ。上るときに傾斜の大きな階段だと思っていたが、下ってみるともっとよく実感できた。傾斜角60度くらいありそうだ。まるで梯子を下りているようだった。踏み外したら下まで真っ逆さまだろう。少々恐いことを考えてしまった。前を下っているヒラリーは大丈夫だろうかと心配になった。
「ヒラリー様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。こんなこともあろうかとヒールのひくい靴を履いてきたのよ」
流石に前回の地下通路の探索で学習したのだろう。パーティでない限り城に来るときはヒールの低い靴が良いと・・・
まあ、ヒラリーの場合、落ちそうになったら風魔法で何とかすると思うから心配はしていないけれど・・・
「隠し通路の地図を作りますか?」とグレッグが尋ねた。
「いや、今日は宝探しだけだ」
「宝探しですか?そういえば、宝箱を探すと言われてましたね」
昨夜アルが言っていたことを思い出したようだ。
「宝箱ですか?それはステキですね」
ヒラリーは隠し通路で宝探しと聞いて喜んだ。
「イルカが宝箱からサーチの腕輪を見つけたように、役に立つ魔道具やポーションや貴重な魔石が手に入るかもしれない。聖誕祭の休暇を暇に過ごすことを考えたら、学園に戻るまでに隠し通路の探索と宝探しはぜひやってみたいことだと思ったからね」
階段を降りた先に壁が現れた。
アルが壁の一部を触ると、急に壁が消えて真っ暗なトンネルが現れた。
階段の上から漏れていた明かりが急に消えて、立っている場所も真っ暗になった。
「上の扉が閉まったみたいだね」
アルは魔法で小さな火の玉を出した。
「ここから先はこの火が明かりになる。その前に、イルカ、サーチで宝箱を探してくれないか」
私は宝箱の場所と念じながらサーチをかけた。
目の前に宝箱が示された通路の地図が現れた。
「殿下、通路はまるで迷路です。縦横にいくつも分かれています」
「そうだろうな。宝箱の場所はわかるか?」
「はい、ざっと見て20個くらいありそうです」
「それじゃあ、一番遠い宝箱を目指そう」
「一番遠い宝箱ですか?」グレッグは首を捻った。
「近いところから見て行けば荷物が増えて困るだろう」
アルの答えにヒラリーが尋ねた。
「空間ポケットはないの?」
「空間ポケット?」
「そうよ。こういうゲームの中ではいろいろな物が無限に入る空間ポケットがあるはずよ。武器防具を扱っているショップに売ってるはずよ。高い物だから冒険者全員ではないけれど、上級者なら多分持ってるはずよ。だkら冒険者は軽装で出掛けることが出来るのよ」
「そんな便利な物があるのか」
「ゲームの中では宝箱に入っていると思ったんだけど・・・詳しくは覚えてないな・・・」
へえ、漫画のようなポケットがあるのかと感心してしまった。ヒラリー曰く、ここはゲームの世界だったっけ。何でもありなんだ。
「イルカ、とりあえず遠くの宝箱を目指して、途中にある宝箱を開けながら進もう」
アルの言葉で、私の思考は現実に戻された。
「その前に、サーチに反応した宝箱の中に明るさの違う宝箱があります」
「明るさの違う宝箱?」
「はい、まるで見つけて貰うことを望んでいるようにチカチカと点滅しています」
「それは面白いな。じゃあ、その宝箱を開けつつ遠い宝箱に向かおう」
「分りました。ではこの先を右に曲がります」
私たちは黙々と歩いた。
地図上では近くに見えても歩くと結構距離があった。
1つ目の箱には回復ポーションが入っていた。2つ目、3つ目と宝箱を開けていく。4つ目の箱がチカチカと存在を誇張している宝箱だった。
宝箱を開くと中には変わった形の魔石が入っていた。
「この魔石は加工されているみたいですね」
箱の中を覗き込んでいたグレッグが言った。
「すこし大きめの菱形の魔石が4つと小さな魔石が4つ。すべて色が違う」
グレッグが魔石を取り出そうと手を伸ばした。するとバチバチと火花が散った。グレッグは思わず手を引っ込めた。
「殿下、この魔石を取ろうとするとビリビリと痺れて、中まで手を入れることが出来ません」
グレッグは相当痛かったのだろう、手をフルフルと振った。
「では、私が・・・」と私も箱の中に手を伸ばす。
火花もビリビリも感じなかったが、魔石の手前で手が止まった。
「魔石が何かに保護されているようで、これ以上手を進めることが出来ません」
傍観していたアルとヒラリーが箱の中を覗く。
じっと箱の中を見つめていたアルは「もしかしたら・・・」と、魔石に手を伸ばした。
今度は妨害されることもなく、魔石はアルの手の中に収った。
「これは、殿下の物ってことかしら」
ヒラリーがアルの手の中の魔石を見て呟いた。
「そうだと思う」とアルは頷いた。
アルはポケットに魔石を仕舞うと次を目指した。
次の宝箱には剣と盾が入っていた。
宝箱は中身を取ると消えてしまうのでそこに置いていくわけにはいかず、初めの予想通り宝箱を開ける度に荷物が増えた。
「次がもっとも遠くにある宝箱です。これも光っているので重要な物が入っていると思われます」
私たちは宝箱を目指して暗い通路を進む。
宝箱を見つけた。箱を開けると皮の袋が4つ入っていた。
「これはなんだろう」
箱を開けて最初に中の物を取り出すのはグレッグの仕事になっていた。
「袋みたいね。4つあるってことは私たち一人に1つと言うことかしら」
ヒラリーは袋を手に取った。そして袋の中を覗いた。
「これって、空間ポケット!」
ヒラリーが驚いたように叫んだ。
「空間ポケットって、なんでも入ると言っていたアレか?」
「そうよ。この袋の中は何も見えないわ。底がないのよ。間違いないわこれは空間ポケットよ」
アルは試しに剣と盾を入れてみた。
袋の口は剣と盾を飲み込んだが、袋の大きさは変わらなかった。
「そうみたいだな。これから先、宝箱の中身はこの袋に入れて持って帰ろう」
私たちは荷物の心配をすることなく他の宝箱を開けて執務室に戻った。




