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泊まりませんか

「なんだ、まだ見ていたのか」

 アル達が戻って来た時も、私は第1王子の部屋を覗いていた。

「お二人が出て行った後に、第1王子殿下が何かを言っていたのです。王子殿下以外は眉を顰めていましたから、またよからぬ事を考えているのではないかと見ていました」

「フーン、何か企んでそうだな」

「私もそう思います。声も聞くことが出来たら良いのですが・・・」

 私とアルが話していると、グレッグが何の話し?とばかりにアルを見た。

「ああ、グレッグはまだ知らなかったね。イルカがサーチの腕輪を見つけたんだよ」

「サーチの腕輪?」

「イルカが魔法具の入った宝箱を見つけたんだ」

「宝箱を見つけたんですか?」

「いつもは何も無い場所で宝箱が光ったらしい。開けて見ると腕輪が入っていたそうだ。俺がジョイールの部屋にグレッグを迎えに行ったのも、サーチの腕輪で探して貰ったからだ」

「あ、それで迎えに来てくださったのですね」

 アルがジョイールを訪ねるなんてことは、まったくと言って考えられない事だったので、グレッグも不思議に思っていたようだ。

「それで、グレッグはどうしてジョイールの部屋にいたんだ」

「殿下の執務室に行こうと廊下を歩いていたら、スコートとサーシャリア様にばったり会ったんです。挨拶をしようと声をかけたら、あれよあれよというまにジョイール殿下の部屋まで連れて行かれたんです」

「またジョイール付になるように誘われたんだろ」と、アルは口を尖らせた。

「そうなんです」

 グレッグは困った顔で頷いた。

「ハッキリ断ったのに、しつこいな」

「私もお断りしたんですけれど・・・」

「グレッグ、あいつらの言う事なんて聞かなくていいからな。いくらジョイールの母親が言ったって、グレッグは俺のだと父上には了解を得ているから、あいつらの誘いに乗る必要はないからな」

 アルは突き放すように言うと、ドサッと長椅子に腰を下ろした。

「そうなんですけどね・・・」

 グレッグは困り果てた様子でアルの正面に座った。

「とにかく、その件はもう一度父上にお願いするつもりだ。それより、森の魔獣の件だけど、先ほど魔法省から報告があった。あのオオカミの生息域は『魔の山』だそうだ」

「魔の山ですか?」

 初めて聞く名前だった。

「この大陸の北の端に、一年中霧に覆われた草原がある。その先に雪に覆われた魔女の住む山があるそうだ。そこが『魔の山』と呼ばれているらしい。森の結界に異常が見つからなかったから、魔女が手引きしたと考えられるけれど、どうやって国の結界と学園が森にかけた結界の二重の結界を通り抜けてオオカミを引き入れたのかはまだわからないらしい」

「魔法省は『魔の山』に調査を予定しているのでしょうか?」

「難しいだろうな。『魔の山』を目指した冒険者で戻って来た者はいないらしい。それに、これから冬になるから北に向かうのは自殺行為だ」

 一年中霧と雪に覆われた『魔の山』。夏でも行くのは難しいだろう。

 アルは本棚から地図を取り出した。

 大陸全土の地図だ。

「サーストラル王国がここ。そして、王都がここで、学園がここ」アルが地図上を指さす。

 学園の授業では国内の文化や産業が中心で、国外の事はまだ学んでいなかった。だから大陸全体の地図を見るのは初めてだった。

 サーストラル王国は大陸の東にあった。東側には海があり、南と西には他の国と接している。北側は山と森に囲まれている。

「王都の北の森と、学園の東側の森は繋がっているんだ。この森をずっと北に向かうと、噂の霧の草原と魔の山に繋がっている。地図には載っていないが、魔の山はここだと思う」

 アルは北の端に飛び出た場所を指した。

「この森はかなり広いですね。西の国まで広がっています」

「そうだな。大陸の4分の1が森だともいえる」

「この森に魔女が住んでいるのですか?」

「そう言われているが、実際の所は分っていない」

 アルはそう言うと、地図を元の場所に戻した。

「魔女と野獣の件は、魔法省とジョイールに任せて、せっかくの休暇、まだ調べていない城の隠し通路を探索しないか。また宝箱が見つかるかもしれない」

 私もグレッグもアルの提案に賛成した。

「そうと決まれば、明日の昼過ぎヒラリーも誘って集まろう」

 明日の約束をして隠し通路から帰ろうと思っていたら、グレッグが馬車で送ってくれると言うので、ありがたく乗せて貰うことにした。白の忍者装束では目立つので、アルから地味目のマントを借りた。

 グレッグの公爵邸の方が城に近い。

「すみません、グレッグ様。此処で降ろしていただけますか」

「屋敷まで送るよ」

 優しいグレッグは、馭者に侯爵邸に行くように指示を出した。

 公爵邸の前を素通りするときに、私は隠れるように停まっている馬車に気付いた。

「グレッグ様、サーシャリア様の馬車があの木立の影に停まってます。グレッグ様が戻られるのを待たれているのでは?」

「僕は第1王子殿下の所には行かないって言ったのに・・・」

 グレッグが本当に困った顔をしたので、「では、ローレイル邸に一緒に行かれませんか?少し遅い時間ですが、ヒラリー様は起きていらっしゃると思います」と誘ってみた。

「こんなに遅い時間に訪ねて変に思われないだろうか」

「事情を話せば旦那様も分っていただけます」

 馬車がローレイル邸に着いたとき、半ば強引にグレッグを馬車から降ろした。

 私の強引な誘いを断り切れないグレッグが、サーシャリアを拒否出来ると思えなかったので、誘って良かったと思った。

 私と一緒にグレッグがきたのでヒラリーは大喜びだった。

 ヒラリーとグレッグが応接室に向かうのを見送ってから、執事に侯爵様に会いたい旨伝えて、執事と一緒に侯爵様のもとに向かった。

 私は侯爵様に、学園でグレッグが第1王子付に強制的に変更されたこと、第1王子がグレッグを聖女の一人とくっつけようと画策していること、そして、今日城で見聞きしたことを話した。第2王子がグレッグを手放す気はないと国王の了解を得ているのに諦めてくれないようで、グレッグの帰りを待ち伏せしているサーシャリアの馬車を見つけたので、グレッグを屋敷に誘ったと話した。

 その話しを聞いた侯爵は、ヒラリーの婚約者のグレッグを聖女とくっつけようだなんて不謹慎来回りないと、侯爵様にしては珍しく顔色を変えた。

「今夜はグレッグ殿に泊まっていただくので部屋の用意をして下さい。それから、今から手紙を書くので公爵邸に届けるように」

 侯爵様は私の隣に立っている執事にそう申しつけた。そして、私に向かって、「ルカはグレッグ殿に今夜は泊まっていくように私が言っていたと伝えてください」と言った。

 私は侯爵様に挨拶をして部屋を出た。

 応接室の扉をノックする。

 返事がない。

 再びノックする。

 シーン。

 間違ってもいかがわしい事はしていないと思いつつ、そっと扉を開けて中に入った。

 応接室ではヒラリーとグレッグが楽しそうに話しをしていた。

 しばらく声をかけずに見ていたが、私が側に居ることに全然気付かない様子なので、「オッホン」と、わざと聞こえるように大きな咳払いをした。

 二人はギクッとして、同時に振り返った。

「あら、イルカ。戻っていたのね。ノックくらいするものよ」

「ノックはしましたが、返事がなかったので入らせていただきました」

「あら、そうだったの」

 私はチラリとヒラリーを見て、グレッグに話しかけた。

「グレッグ様、侯爵様が今夜は泊まって行かれる様にとのことです」

 グレッグは戸惑いの表情を、ヒラリーは歓喜の表情を浮かべた。

「そんな、迷惑では?」

「侯爵様が、グレッグ様がお泊まりになる旨のお手紙を公爵邸にお送り致しましたのでご心配には及びません」

 私がそう伝えると、グレッグは安心したようだった。

「では、明日は一緒にお城にいけるね」

 心配事がなくなったのか、グレッグとヒラリーは遅くまで話しをしていた。

 付き合わされる私は、少々醒めた目で二人の様子を見ていた。


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