サーチサーチ
昼過ぎから降り始めた雪は、夜の闇が空一面を覆い隠す頃には道も屋根も覆い隠していた。
窓を開けると雪で冷やされた空気が部屋の中に入ってくる。
積もればすこしは寒さも落ち着くだろうと思っていたが、意に反して凍えるように寒かった。それでもアルとの約束のため出掛けなければと、窓枠に足をかけた。
外へ飛び出そうと足に力を込めたところでヒラリーに呼び止められた。
「待ちなさい。イルカ」
私はピタリと動きを止めて、声の方に振り返る。
「何でしょう。ヒラリー様」
嫌な予感しかしない。こういうときの予感は良くあたるのだ。
ヒラリーは私の前に白い物を差し出した。
「雪の日には黒より白にしなさい。黒は目立ってしまうわ」と持ってる物を私の前で広げて見せた。
「この白装束を着替えて行くのよ」
ヒラリーが持ってきたのは白い忍者装束だった。
まてまて、雪の上では白は有りかもしれないが、それ以外の所では、いままで通り黒の方が闇に紛れると思うのだが・・・と思ったが、有無を言わさぬ押しでヒラリーに押し切られてしまった。
結局、白い装束に着替えて出掛けることになった。
いくら白を着ても、雪の上を走ると足跡が残ることにヒラリーは気付かないのだろうか。
ぶつぶつ文句を言いつつ、馬車の轍の跡や街路樹の上を選んで城に向かった。
アルに呼ばれているからといっても、この格好で正門や通用門を通るのは無理がある。かえって不審がられるとおもったので、地下の隠し通路から入ることにした。
雪の日に隠し通路に入るのは難しい。入り口に魔法がかけられていると言っても、魔法の手前で突然足跡が消えたらおかしいだろう。こんな雪の日に藪の中まで入ってくるとは思わないが、用心に越したことはないので、入り口の手前から跳躍を繰り返して、なるべく足跡が残らないように地下通路に入った。
地下通路は初めこそ寒かったが、奥に進むに連れて気にならなくなった。地下は空気の動きがないからだろうか。そんな事を考えながら暗い通路を壁伝いに進む。
魔力が少ない私でも小さな明かりくらいはともせるけれど、こんな所で誰かと遭遇したらと思うと明かりを点ける気にはなれなかった。
暗い中を進んでいると、左の方にチカリと光る物が見えた。目を凝らして見ると宝箱だ。何度かこの通路を通っているが、宝箱を見つけたのは初めてだ。
私は周りを気にしながら宝箱に近づいた。
よく見ると宝箱には鍵穴がなかった。もっともいままで開けた宝箱で鍵が掛っているのは数えるくらいしかなかったが・・・
私はそっと宝箱の蓋を持ち上げた。
箱の中に淡い白金の光が見えた。
腕輪だ。
箱の中には腕輪が入っていた。
何処からか『サーチの腕輪を手に入れた』と囁く声が聞こえた。
サーチの腕輪?不思議に思いながら腕輪に触った。するとそれはスルリと私の腕に巻き付いた。慌てて外そうとしたがぴったりと手首に収ってしまった。
5センチ幅くらいのリストバンドのようだった。
私の腕に収ると、宝箱は消えてしまった。
サーチの腕輪と言っていたような。
私は手を上げて「サーチ」と呟いてみた。
すると暗い地下通路の図面が頭の中に現れた。
私は「アルの居るところ」と呟いてみた。そうすると、現在地からアルのいる所までを印す道が現れた。そして、アル個人に集中するとアルの姿も見ることが出来た。
アルは一人だ。
私はサーチで現れた道を辿っていつものアルの部屋の下に着いた。この上にアルの部屋がある。私がきたことを告げるためには上まで上がらないといけない。どうして地下からきたことを告げようかと迷っていると、行き止まりの壁の向こうが透けて見える事に気付いた。壁の先に階段が見える。
もしかしたら塔にあったようなカラクリが壁にあるのかもしれない。そう思った私は壁のレンガを探ることにした。
サーチの力だろうか、1つだけ光るレンガがあった。私はそのレンガに触れてみた。
すると、壁がスーッと消えて目の前に階段が現れた。驚きながらも先に進み階段に足をかけると、消えていた壁が再び現れて今まで通って来た道が壁で塞がれていた。
私はサーチの指示する方向に階段を上って行った。
上った先にまた壁があった。横の壁にハンドルの様な物が付いている。
私は壁の向こうがわに意識を集中した。そうすると壁の向こうにアルの執務室が見えた。
アルが一人なのを確認してハンドルを回す。
ギーッと音がして、目の前の壁が横に動いた。
私は動いた壁の隙間から部屋の中に飛び出した。
目の前に真剣な顔をして剣を構えたアルがいた。
アルは突然飛び出した私の姿を見て驚いた。
「イルカ!」
呆然としているアルを見ていると。ガチャッと後ろで音がした。
振り向くと、出て来た所が本棚になっていた。アルの執務室の本棚だ。
「イルカ、何故そんなところから出て来たんだ」
アルは信じられないと言うように首を振った。
私は地下通路でサーチの腕輪の入った宝箱を見つけたことから話した。
淡い白金の腕輪をアルに見せる。
通路は暗かったので腕輪の装飾とか見えていなかったが、透かし模様の入った金属とは思えないような繊細な腕輪だった。
まじまじと腕輪を見ていたアルは、もっとよく見ようと私の手首から腕輪を外そうとしたが「しっかりイルカの腕に馴染んでいるね」と、諦めて手を離した。
「そうなんです。手に持ったらスルスルと巻き付いて外れなくなりました」
「あの通路で宝箱は見たことがなかったから、イルカのために誰かがそこに置いたのかもしれないね」
「そんなこと有るのでしょうか?」
「あるかも知れないよ。だってヒラリーがここはゲームの世界だって言ってただろう。ゲームがどんな物か知らないが、何でもありと考えた方がいちいち驚かなくて良いかもしれないと思うんだよ」
「それはそうですね」
アルの言うことも一理あると思い頷いた。
「ところで、グレッグ様はまだですか?」
「グレッグは用事を済ませてから来ると言っていたんだが、それにしては遅いな」
「では、グレッグ様がどの辺にいるのか早速サーチを使って見てみましょうか?」
「あ、それは便利だな」
私はグレッグの事を思いながら「サーチ」と呟いた。
頭の中に地図が現れてグレッグの位置が示された。
「あれ、お城の中にいますよ」
「城の中?ここに向かっている途中なのかな?」
「いえ、グレッグ様は動いていません。部屋の中のようです。ここから割と近いところです。その場所までズームしてみますね」
私はグレッグの居る場所に集中した。
部屋の中に4人いる。3人がグレッグを取り囲んでいるようだ。
「グレッグ様を囲むように、第1王子殿下とスコート、そしてサーシャリア様が見えます」
それを聞いたアルは、「あいつらまだグレッグを諦めていなかったのか」と呟くと、部屋を飛び出して行った。
しばらくすると、第1王子の部屋にアルが現れた。何か言い合いをしているが、アルはグレッグの手を引いてその部屋を出て行った。
後に残った三人は何やら話している。この話も聞けると良いのにと思っていたら、アルがグレッグを連れて帰って来た。




