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王都へ

 魔物討伐実施訓練森エリアで魔獣が出没してから2ヶ月が過ぎた。

 不思議な事に、あの出来事の後に編成されたローレイル騎士団の調査隊に、アルとグレッグと私も加わって森中を調査したが、もとから生息していた小さな魔物以外発見されなかった。

 結界の綻びを疑って森の結界の境界をすべて確認して回っても見たが、破損箇所や魔力が脆弱になっている所も見当たらなかった。

 結果、何の異常も確認出来なかったため、魔女の仕業だったのだろうと結論づけられた。

 魔女が絡んでいたら、どうやってあれだけの魔獣を結界の中に引き入れたのかと言う疑問は残るが、そう結論づけることで些か強引とも思える幕引きをしたのだった。

 しかし、貴族院の一部はその結果に疑問を持っているようで、また同じ事が起きたら困ると、原因がハッキリするまで森エリアでの訓練は中止となった。

 その後も定期的に巡回が行なわれているが、2ヶ月たった今でも魔獣や魔女に遭遇したとの報告は無いようだ。


 私はブルッと寒気を感じて窓の外を見た。

 何やらチラホラと白いものが降ってきた。

 これから王都に向かう予定なのに積もったら困ると、少し憂鬱な気持ちで窓の外の白いものを眺めた。

 学園は明日から聖誕祭の休暇に入る。

 聖誕祭の休暇は2週間あり、この期間学生のほとんどが王都に行く。

 何故王都に行くのかというと、聖誕祭は国を挙げてのお祭りで、この時期、聖誕祭から新年にかけて多くのパーティが開かれる。まだ婚約者の決まっていない貴族の子女は、聖誕祭に開かれる各種のパーティに出掛けて未来の伴侶をゲットする機会と捉えている。

 私もヒラリーと一緒に王都のローレイル侯爵邸に戻るため準備をしていた。

「イルカ、支度は終わった?」

 ヒラリーがノックもせずにズカズカと部屋の中へ入って来た。

 淑女にあるまじき態度に、いつもの事だと目を瞑り「私はいつでも準備が出来ております」と答えた。

「馬車が車寄せの所で待っているはずだから、急ぎましょう」

 私が小さな鞄を持っているのを見て「それは何が入っているの?」と、ヒラリーが聞いた。

 私は軽く鞄を持ち上げると、「森エリアで収穫した魔石やポーションを少し持って行こうと思って・・・」と、最後の方はブツブツと聞こえないように呟いた。

 私とアルは経験値を積むためにかなりの回数森エリアに出掛けていたので、初めの時には見つけられなかった宝箱を数個見つけていた。その都度ヒラリーには報告していたので隠す事ではないのだが、魔獣と戦った時に収穫した魔石と合わせると結構な数になる。寮に残したまま出掛けるより持っていた方が良いと思ったのだ。

 ヒラリーは「ああ」と納得した様に頷いた。

 ヒラリーの良いところは、私が収穫したものは私の物と認めてくれるところだ。欲しいと思っていても絶対に「欲しい」とは言わない。そういうときは、ヒラリーの様子を見ながら私の方から渡すようにしていた。


 外に出ると雪は本格的に降り始めたようだ。

「早くしないと途中で馬車が止まってしまうわ」

 ヒラリーは急かすように馬車置き場に歩いて行く。本来なら玄関先で待っていたら、馬車がきてくれるはずなのだけど、学園の横の馬車停めには帰る生徒を迎えにきた馬車で長蛇の列が出来ていた。

「みんな考える事は一緒ね」

 ヒラリーは馬車の列を見てため息を吐いた。

 雪が降ったら車輪が雪に取られて動けなくなるかもしれないのでみんな急いでいるのだ。

 列の中にローレイル家の家紋の入った馬車を見つけた。私はヒラリーに馬車を回してもらうので雪の掛らないところで待つようにと言って馬車停まりに向かうことにした。

 ところがヒラリーは私の言葉を無視して、「待っているのも寒いわ。一緒に行った方が早く馬車に乗れるわ」と、馬車に向かって歩き始めた。

 馬車に着く手前でグレッグとサーシャリアに会った。二人の横にドッチ辺境伯の二人の聖女が立っていた。

 何やら揉めているようだ。

「グレッグ様、どうされたのですか?」

 ヒラリーがグレッグに話しかけた。

「いや、アレカ様とコレカ様が王都まで馬車に乗せて欲しいと言われているのだけど」

 前を見ると王家の馬車が止まっている。

「この馬車はフェアルート殿下専用の馬車だからダメだとお断りしているところなんだ」

 アルは馬車の中で我関せずとサーシャリア達を無視している。

「サーシャリア様の馬車は何処ですの?」

 ヒラリーが馬車を探す。

「ジョイール殿下の名前で馬車を二台用意していただくように手配していたのですが、連絡が悪かったのか馬車は一台しか来なかったのです。それで馬車を探していたら、フェアルート殿下の馬車を見かけたので、聖女様だけでも乗せていただけないかとお願いしていたのです」

「ジョイール殿下は何処に居るのですか?」

 ヒラリーはキョロキョロと周りを見回す。

「ジョイール殿下はスコートと2人の聖女様を乗せて先に行ってしまいました」

 なるほどね。ジョイール殿下は自分の贔屓の聖女が同じ馬車乗ったら後はどうでも良いみたいだ。その話にヒラリーもあきれた。

「そうだわ、良い考えがあるわ」

 ヒラリーがポンと手を叩いた。

「殿下の馬車に私とイルカが乗せていただくわ。貴方たちは家の馬車を貸して差し上げましょう」

「フェアルート殿下、私とイルカを乗せていただけませんか」

 ヒラリーは馬車の中のアルに声をかけた。それまで無視を決め込んでいたアルが、ヒラリーの話を聞いて私たちを見た。

「ヒラリーとイルカなら同乗しても良いぞ」

「ありがとうございます殿下」

 ヒラリーはアルにお礼を言うと、サーシャリアに向かって「家の馬車はそこに居るから馭者に送るように頼むわ。王城までで良いのかしら」

 サーシャリアはヒラリーについて馬車の所に行き、ヒラリーが馭者に頼むのを確認して戻って来た。

「アレカ様、コレカ様、お待たせ致しました。ヒラリー様の馬車をお借りすることが出来ましたのでご案内します」

 アレカとコレカはグレッグを見て、名残惜しそうにしていたが、サーシャリアの後について行った。

「あの2人、グレッグ様をまだ諦めていないのかしら」

 ヒラリーがボソッと呟いたのが聞こえた。

 そんなこんなで私たちは殿下専用の馬車で王都を目指した。

 馬車が動き始めると、アルがサーシャリア達に無視を決め込んでいた訳を教えてくれた。

 森エリアの調査が終わったからグレッグをジョイール殿下付に戻るように要請があったらしい。やっと返して貰ってアルの睡眠時間が確保出来たというのに、アルが怒るのも無理はなかった。

「もちろん断ったのですよね」

 ヒラリーが有無を言わさないぞとばかりにアルを睨んだ。

「もちろん断ったさ」

「まったく、ちょっと目を離すと言ってくるなんて、何を考えているのかしら」

 拗ねたように唇を尖らせるヒラリーにグレッグが言った。

「大丈夫だよ。僕が向こうに行ったら殿下が困るからね。これからは何を言われても殿下の側を離れないことにしたんだ」と、グレッグは言った。

 馬車は雪の中を走り、無事王都のローレイル邸の前に着いた。

「殿下、ありがとうございます」

 グレッグに手を添えられて馬車を降りたヒラリーが丁寧にお礼を言った。

 アルは軽く頷いた。

 私はヒラリーの後ろでヤレヤレと肩の荷を降ろしていたら、「イルカ、これからの事を打ち合わせしたいので、後で城に来てくれ」とアルから言われてしまった。

 グレッグが馬車に乗り込んだ途端、私の返事も待たずに馬車は走り去った。


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