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勇者2

「じゃあ、殿下が勇者としたらどうなるの?」

 グレッグが緊張した声でヒラリーに尋ねた。

「どうにもなりませんわ。ゲームの主人公がイルカではなく殿下になったというだけですわ」

「では、俺もイルカの様にコインを拾ったり宝箱を見つけたりするのか」

「実際霊廟ではパーティを組んだ私たち全員が宝箱が見えていたと思いますけど」

 ヒラリーは確認するように言った。

「確かに見えてた。しかし、あの時はイルカのゲームと思っていたから、俺は見えていても関係ないと思った」

「あの時は身体が急に縮んだりしたから、私もイルカのゲームと思い込んでいたのよ」

「じゃあこれからは、ヒラリーが言うところのイルカのゲームは俺のゲームでもあるってことなんだよな」

「ええ、そうなりますね」

「ヒラリー様は私に経験値を上げて敵を倒すと言われてましたが、それは殿下も同じと言うことですか」

「そうよ。経験値を上げないとラスボスは倒せないから」

「ラスボスって最後に戦う一番強い相手ですよね。それを倒すのにはどのくらい経験値とやらが必要なのですか?」

 私はヒラリーに尋ねた。

「ラスボスがどのくらい強いかって、私はRPGはあまりしたことがないから知らないわ。ただRPGのゲームにはたいていステータスバーが画面上に出て、状態を確認出来るようになっているはずなんだけど、殿下とイルカのゲームはステータスバーが出てこないのよね。初期の古いゲームなのかしら。しかし、いくら古いゲームでもステータスは見えるはずなんだけど、そうしないと相手のレベルも分らないし、イルカ達がどのレベルにあるのかも分らない」

「ステータスバー?」

 また分らない言葉が出て来た。

「体力とか魔力とかを確認するメーターの様なものなんだけど。このバーがあると相手の力も見えるので攻撃にどのくらいのダメージを与えたか分るようになっているのよ。新しいゲームだとそれにスキルとかが見えて、敵のステータスに合わせて作戦を変えたりするとRPGばかりやってる友達が言っていたわ」

 ヒラリーはRPGは詳しくは知らないと言いつつも説明をしてくれる。

「だから経験値があがると、ステータスバーの数字も上がるの」

「経験値は敵を倒すと上がるの?」

「そうよ。だから魔獣調査は経験値を上げるのにもってこいの方法だと思うわ」

 ヒラリーがそう言うと、アルの顔が引きつった。

「ゲーッ、あのチマチマした戦いを沢山しろということか」

 アルからウンザリという気持ちがダダ漏れに伝わってくる。私も同感だ。

「あの戦い方はどうにかならないのですか?」私はヒラリーに聞いてみた。

「ゲームの設定がそうなっている以上、ここにいる私たちが変更を加えることは出来ないわ。ステータスを爆上げして、攻撃1つで魔物を倒せるようにならないと早く終わらないという事ね」

「じゃあ、弱い魔物だったら早くかたがつくな」

 アルの呟きが聞こえたのか、「そうしたら、経験値を上げるのに、沢山戦わないといけなくなるわ。弱い魔物と沢山戦うか、強い魔物を倒して早くレベルを上げるかどっちかだわね」と、ヒラリーが言った。

「一気にレベルアップをする為には強い魔物と戦った方がいいと言うことか」

 アルは頷いた。

「そうよ。でも、ゲームの流れから同じくらいの力の魔物が出てくるはずだから、設定通りの戦いをしないとレベルは上がらないと思うわ。それと、次の場面に行くためのイベントをクリアーしないと次へいけない場合もあるわ」

「次の場面?」

「次の場所という意味よ。その場所で必ずクリアーしなければいけないイベントが有った場合、そのイベントをクリアーしない限りその場所から移動できなくなるのよ」

「イベント?」

「たとえば、どうしても行かなければならない建物とか、入手しなければいけないお宝とか。時には、その場所に居る誰かと話さなければいけないとか。そのイベントをクリアすることでゲームが進む様になっているのよ」

「もし、その場所から動けなくなったら?」

「セーブしたところまで戻って、初めからやってみることね」

「セーブした場所に戻る?」

「探せばセーブポイントが何処かにあると思うわ。まず、セーブポイントを見つけることから始めた方が良いと思うわ。1つクリアする度にセーブしていけば、持っているステータスが全部無くなってしまうことは無いし、セーブポイントがあればゲームオーバーしてもそこからやり直せば良いんだから」

「ゲームオーバー?」

「たいてい敵にやられちゃうとゲームオーバーになるわ」

「敵にやられるって、死ぬのか?まさか死んでも生き返るのか?」

 アルが驚いた様に言った。

「あくまでもゲームの世界よ。この世界ではどうなるか分らないわ。でも、セーブポイントがあると言うことは、ゲームオーバーになったら戻れると思うのよね」

「ヒラリーが言う乙女ゲームもそうなっているの?」

 グレッグが恐る恐る聞いた。

「そういえば、ゲームではセーブできたけど、この世界でセーブは無かったわね。何があっても一日は過ぎて、過去に戻る事は無かったわ」

「と言うことは、いくらゲームの中と言っても死んだら終りと考える方が正解だろうな」

 私もアルと同意見だ。たまたまアルが生きているから動き出したゲームだとして、アルがいなくなったら元の2つのゲームに戻るだけだろう。

 この世界は不思議だ。ヒラリーのゲームもサーシャリアのゲームも結末は見えている。だからヒラリーはゲームの設定に逆らって、追放されない様に動いてきた。でも、アルと私のゲームの結末は分らない。この先の展開がどうなるのか予想もつかない。予想がつかないから手探りしながら進んでいくしか無い。

 アルは他のゲームでは死んだ存在だ。この第3のゲームが無事にラストまで進んだら、3つのゲームが合わさった新しい世界が広がるのだろうか。

 それぞれのゲームにヒラリーとサーシャリアという転生者が居るように、私は第3のゲームの転生者としてこの世界に来たのかもしれない。

 私がそんな考えにふけっていると、ヒラリーが欠伸をかみ殺したような声で言った。

「さあ、明日も試験が残っているわ。グレッグ様が戻ってきたのなら、イルカはもう必要ないわね」

 ヒラリーはアルとグレッグを見て言った。

「ああ、グレッグが戻って来たから大丈夫だ。試験が終わったら魔獣の調査が始まる。イルカはメンバーに入っているから後日打合せということで、今日はもう帰った方が良いだろう」

 私とヒラリーはベランダに出た。

 そして、アルとグレッグに見送られて女子寮に戻った。


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