脱出
この戦い方は待ってる間に体力の消耗を押さえることは出来ても精神的に疲れる。
どのくらい相手をしていただろうか。残りは後一匹になっていた。
今度は誰の攻撃だったろう。戦うのにも飽きが来ていた。
それは私だけではないようだ。アルもグレッグもいい加減うんざりした顔をしている。
「残り一匹だな」
急にアルの声が元気になったように感じた。
後一匹倒したらこの戦いが終わる。
3対30の戦いだったのだ。全員で攻撃できたらもっと早く終われるのに。まったくこの戦い方ときたら・・・もうすぐ終わると思うとホッとした。
アルの容赦ない攻撃で最後の一匹が倒された途端、3人が同時に叫んだ。
「「「やっと終わった!」」」
ゆっくりしたいけれど、また新手が現れたら困る。私たちは一角オオカミが残した魔石を集める事にした。
上級の魔物や魔獣を倒すと消滅したあとに魔石が残るのだ。
魔石を拾い集めていると、壊された小屋から青白い光が周りを照らした。あの魔方陣が光っているようだ。ボンヤリ見ていると光の中からサーシャリアが出て来た。
「これは酷いな」壊れた小屋を見てサーシャリアが唸った。
「一角オオカミが片付いた頃に戻ってくるとはタイミングがいいな」
アルが嫌みっぽくサーシャリアを見ている。
「これでも急いで戻って来たんだよ。あれから一時間も経ってない」
「一時間も経っていないだって!」
グレッグが驚いた。
「もっと長い時間戦っていたような気がする」
「まったく、一人ずつの戦い方は疲れる」
アルが心底疲れたように呟いた。
「一人ずつの戦い方?」
アルのぼやきにサーシャリアが不思議な顔をした。
「戦いが始まると、一人ずつしか動けないんだ」
アルの説明にサーシャリアは「あぁ・・・」と理解したように頷いた。「RPGの戦い方はそうだったね」
「しかし、サーシャリア様達が魔女と戦った時は普通に戦っていませんでした?」
RPGとサーシャリアのゲームはどう違うのだろう。ゲームが違えば戦い方が違うなんて、私には理解できなかった。
「確かに魔女と戦ったときは一人ずつではなかったね。もしかしたら、イルカのゲームのイベントの場合はそうなるのかもしれないね」
「私のゲームのイベント?」
どういうことだろう?
「殿下達はこの森に下見に来たと言っていましたが、他の目的はなかったのですか?」
「そういえば、ヒラリーが森で魔物と戦って経験値を積めといっていたような・・・」
「経験値ですか。そうだとすると、やっぱりイルカのゲームになっているみたいですね」
「イルカのゲームとヒラリーやサーシャリアのゲームとの違いはなんだ?」
アルの疑問に私も同意見だった。
「ヒラリーの乙女ゲームも私のゲームも対象者と関わることで好感度を上げていくゲームだから、戦うことで経験値を上げるイルカのゲームと設定が違っているんです」
「設定が違う?」
「ええ、RPGは経験値を積んで最後にラスボスと戦う設定になっているのです。それに比べて、私やヒラリーのゲームは、対象と接することで親密度を上げてハッピーエンドに持っていくゲームですからね。戦い自体が少ないというより無いと考えた方が早いです。まあ、私のゲームは戦いながら親密度を上げていくのですが、RPGみたいに戦いがメインのゲームではありませんからね」
どう違うのか・・・設定が違うと言われたら、何となく分ったような分らないような・・・なんたって、自慢じゃないけれど前世の私はパソコンを使っていたけれど仕事のみで、ゲームなんかやったこともなかったから理解が追いつかない。
アルとグレッグは理解すら出来ないのだろう。何を言っているのだという不思議な顔をしている。
「まあ、この世界にはパソコも無いし、ましてやゲームと言ったらカードかボードですからね。理解して欲しいと思うのは無理な気がします」
サーシャリアはヤレヤレといった顔で肩をすくめた。
まてまて、同じ時代を知っている私も知らないぞ。と突っ込みたくなるが、私が転生者とバレるのは困るので黙って見ていた。
「それより、此処に居たらまた一角オオカミに襲われるかもしれません。さっさと戻りましょう」
「そうだな。魔石も集め終わったし、早く此処を離れた方が良いだろう」
アルはサーシャリアに続いて小屋に向かった。
私とグレッグも後を追う。
「しかし、派手に壊されたね。此処はもう使い物にならないみたいだね」
「一斉に小屋にぶつかってきたからな。魔方陣が作動するだけでも良しとすべきだろう」
「この魔方陣はこのままにしておけないから、私たちが移動したら消滅させます」
「そうだな。これを使って魔獣達が学園に来るとは思えないが、魔女が絡むとそれも出来そうな気がする。サーシャリア、消滅の方法は分っているのか」
サーシャリアは、「さっき戻ったときに消滅の方法を聞いてきました。学園側としても不安材料は消しておきたいみたいですからね」と意味ありげにアルを見た。
「しかし、此処だけ消しても他の避難小屋の魔方陣を使われると言うことも考えられないか?」
「その辺も抜かりないようです。他の避難小屋に魔法省の者達が派遣されたみたいです」
「そうか、それなら心配ないな。しかし、そうすると森からの非難方法が無くなるのでは?」
「上級魔獣が出た以上、当分この森は立ち入り禁止になるみたいですよ」
サーシャリアはそう言うと、私たちを魔方陣の中央に集めて呪文を唱えた。魔方陣が青白く光り、気が付いたら小さな部屋の中に立っていた。
「此処は?」
アルが尋ねた。
「こちらへ」とサーシャリアが壁の一部に手を当てると、そこに空間が開き廊下が現れた。
私たちは無言で長い廊下を歩いた。10メートル近く歩いただろうか、突然行き止まりになった。目の前にアルのは壁だ。サーシャリアが壁に触れると、先ほどと同じように壁に空間が開き、中は普通の部屋になっていた。
部屋の中には学園所属の騎士が数名立っ ていた。
騎士達はアルに向かって礼を取った。
「フェアルート第2王子殿下、学園長が森でのことを詳しくお聞きしたいとお待ちしております。学長室までお越しください」
騎士は扉を開けて、アルを促した。
サーシャリアとグレッグは後に続いたので、私も続いて行こうとしたら、「ルカさんはこちらの扉からお帰りください」と引き止められた。そして、アル達に開かれた扉とは反対側の扉を指さした。
アルが抗議しようとしたが、「学園長の指示でございます」と、騎士に止められた。
その様子を見ていた私はアルに言った。
「殿下、私は先に戻っております」
私は丁寧にお辞儀をすると、扉を開けて出て行った。
扉の外は狭い廊下が続いていた。しばらく歩くと先の方に明かりが見えた。明かりに向かって歩いていると、いつの間にか図書館に出ていた。
何故こんな所に・・・と思って、後ろを振り返ると、そこには歩いてきたはずの廊下は無く、ただ本棚が壁の様に立っていた。どうやら廊下の外れに図書館へと転移する魔法が掛っていたようだ。魔方陣の場所を知られないためだろう。
私は気持ちを切り替えて寮に戻る事にした。
部屋のドアを開けると、ヒラリーが待っていた。




