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脱出用魔方陣

「で、君たちはどうしてここにいるんだ」

 Cの避難小屋に着いた途端、アルはサーシャリアに尋ねた。

「来週の実施訓練に備えて、事前に場所を調べた方が良いとの話になって、私たちが先行して調査をしていた」

 サーシャリアはそう答えると、反対にアルに尋ねた。

「ところで、殿下達はどうしてここに?」

「そっちと同じ様なものだよ。事前にどんなところか知っておいた方が良いと思ってね」

「そうですか」

 サーシャリアが思わせぶりな返事をした。

『迷子の一夜』の話しをヒラリーに教えたのはサーシャリアだ。ヒラリーが私たちと一緒なのを見てなるほどと思ったようだ。確かにその通りなのだけど、アレカとコレカが側にいるから本当の事を話せるはずがない。

 もしかしたら、案外今日がその日だったかもしれないのだ。

「しかし、この森には小さな魔物だけで、さっき見た魔獣はいないと聞いていたが・・・」

「私もそう聞いていました。それに、私の学年では何度か実施訓練に参加していますが、あの一角オオカミを見たのは初めてです」

「俺はこの森に入るのは初めてだけど、何度か来ているサーシャリアがそう言うのなら間違いないのだろう」

 アルもサーシャリアも考えている。

「魔獣がこの森に迷い込むことはあるのですか?」

 私はサーシャリアに尋ねた。

「いや、この森には魔獣が入ってこないように結界が張って有ったはずだ」

「結界が敗れたと言うことか?」

「しかし、結界が敗れたくらいで、テリトリーでもないこの森に入ってくるのは疑問だ」

「もっと大きな魔獣に住処を追われたのだろうか・・・」

「それは分らない。言えるのは、何故魔獣がこの森にいるのかを調査してからでないとハッキリしたことは分らないということだよ」

 アルとサーシャリアが話しているのを黙って聞いていた私は、小屋の外に異様な空気を感じて窓から外を覗いた。

 一角オオカミの群れが一定の距離を取って、小屋の周りに集まってきていた。

「大変です。一角オオカミが集まってきています」

 その場に緊張が走る。

「少し前まで、この地域には魔獣は一匹もいなかったのに」

 アレカが呟く。

「きっと、ヒラリーが吹き飛ばしたオオカミがこの近くに落ちたのだろうね」

 アルがヒラリーをチラリと見た。

「まあ、そしたらまた吹き飛ばしてやりますわ」

「止めた方がいいよ。この小屋の周りは木ばかりだから難しいだろう」

 サーシャリアは意気込むヒラリーを止めて、「しかし、参ったな。イルカ一角オオカミはどのくらいいるかわかる?」

「今のところは10匹くらいですかね」

 私は外を覗き見た。

 アルが私の横に来て外を見た。

「木ばかりで、オオカミは見えないが・・・」

「あの木の陰に見えませんか?」

 私はアルに耳打ちする。

「あ、形は分らないけれど、確かに黒っぽく影の様なものが見える」

「10匹以上の気配を感じます」

 幸い私の身体はまだ縮んでいない。オオカミたちは戦闘体制になるほど近くには寄って来ていないようだ。

「森の中では俺たちも戦いづらい。サーシャリア何か良い考えはないか」

「こうなったら脱出するしかないですね」

 サーシャリアが諦めたように言う。

「囲まれてるのよ。脱出って簡単にできないわ。もしかして、小屋の下に脱出用の地下トンネルでもあるの?」ヒラリーの半分怒った様な声がした。

「いや、地下トンネルはないけれど、各小屋に脱出用魔方陣が隠されている」

「魔方陣ですって!何処にあるの!」アレカとコレカが叫ぶ。

「魔方陣はこの床に書かれている」

 サーシャリアは小さく何かを呟くと、床が青く光り魔方陣が現れた。

「この魔方陣で脱出できるはずだけど、一度に4人しか移動できないという欠点がある」

「4人か。それじゃあ、サーシャリアとアレカ嬢とコレカ嬢、そしてヒラリーが先に脱出すればいい。俺とグレッグとイルカは後から行くよ」

「そう出来れば良いんだけれど、この魔方陣は登録している者しか使えないんだ」

「それは、どういうことだ?」

「勝手に森に出入りできないように、魔方陣を使える者を制限しているみたいなんだ」

「サーシャリアだけしか使えないと言うことか?」

「そういうことになる」

「わかった。俺たちは何とかするから、とりあえず4人で逃げてくれ。そして、森の管理事務局に応援を寄越すように依頼してくれ」

「分った。みんなを送り届けたら戻ってくるよ」

 サーシャリアはアレカとコレカとヒラリーを魔方陣の中に呼んだ。そして呪文を唱えた。

 魔方陣は青い光を部屋中に輝かせたと思ったら、4人の姿と一緒にスーッと消えてしまった。

「殿下、魔方陣が消えてしまいました」

 それまで黙っていたグレッグが口を開いた。

「呼び出す呪文があるのだろうな」

 アルは仕方ないと首を竦めた。

「それより、オオカミの動きはどうだ」

「かなり集まって来ているようです。覚悟を決めたほうが良いかもしれません」

 私は森の中を動くオオカミの影から目を離さずに答えた。

 オオカミは少しずつ間合いを縮めて来ていた。

 突然、私たちのサイズが変わった。戦闘モードに突入したようだ。あのちんたらした戦い方を思い出してうんざりしている暇はなかった。

 オオカミの第一陣が小屋のドアに体当たりしてきた。

「グレッグ、気を付けろよ。イルカの戦いモードは1人ずつしか動けないから始めに多くを倒せる魔法を使って数を減らすことを考えるんだぞ」

 アルが説明している間にドアが破られてオオカミが小屋の中に入ってきた。

 長い戦いが始まった。


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