魔物
試験と試験に挟まれた日曜日。私は学園の東側にある魔物討伐実施訓練の森エリアに来ていた。
試験中だというのに、何故この場所にいるかというと、ヒラリーがこのエリアの状況を確認したいと言い出したからだ。
例の『迷子の一夜』の防衛は試験が終わってから用意するのでは遅すぎる気がするから、試験中に現場の下見をしたいとの強い要望があり、強制的に命じられたのである。その為、アルも仕方なく私たちに付いてきた。
実施訓練用の森なので、危険なレベルの魔物は存在しないと聞いている。
身長が変化していないので、今のところ魔物が出てくる心配はないように思う。
森の中を歩いていると突然ヒラリーが警戒を始めた。
周りを注意を向けるけれど、特に魔物の気配は感じられない。
ヒラリーは周りをキョロキョロ見回して何かを探しているようだ。
「ヒラリー様、どうされました?」
「不思議なんだけど、私の個人的GPSがグレッグ様が近くに居ると言っているのよ」
「個人的GPSって何ですか?」
「グレッグ様が何処にいても分るように、発信器魔道具を渡したのよ」
「なんだそりゃ」アルは呆れたように言った。
「だって、最近はちっとも会えないんですもの。先日風の魔石でペンダントを作ったときに位置を知らせる魔道具を見つけたので、装飾品に加工して貰ってグレッグ様にプレゼントとして渡したのよ。もちろんグレッグ様はそれが魔道具なんて知らないわ。『迷子の一夜』対策よ」
「なるほど、それでグレッグがこの森にいるかもしれないと?」
「確証は持てないけれど、そんな感じがするの」
「それじゃあ避難小屋のチェックからしようか」
避難小屋とは、魔物に襲われたときに逃げ込む為の小屋が森の中に数カ所建っている。その場所の確認からしていこうと言うことだ。
森の中は6つのブロックに別れていて、A・B・C・D・E・Fそれぞれのブロックに避難小屋があると聞いている。ブロックはAが比較的簡単なエリアでB・Cと行くにしたがって魔物のレベルが強くなるらしい。
私たちは最初の避難小屋Aを目指した。
魔物に出くわすこともなく避難小屋に着いた。小屋の中は誰かが入った形跡はなかった。
私たちは避難小屋に誰かが入ったらすぐ分るように魔法を掛けた。そして、次の避難小屋を目指した。
途中で急に身体のサイズが変わったので何事かと思っていたら魔物が現れた。
魔物は三体。私たちと同数だ。
私とアルが同時に魔物に飛びかかろうとしたら、アルが先に攻撃を掛けた。その間、私とヒラリーは何故かその場から動けなかった。
アルの攻撃が終わると、魔物1が飛びかかってきた。攻撃は出来ないけれど、防御は出来るみたいだ。
「どうして一人ずつしか動けないんだ」
アルが当然の疑問を口にした。
その疑問にヒラリーが答える。
「イルカのゲームだからでしょう。一度に動くのは一人だけ。魔物も一匹ずつで交替に戦うのよ」
「何だそりゃ!」
「何だと言いたいけれど、そういう設定になっているのよ」
「じゃあ、次は私の番ね」
私はアルが傷つけた魔物を狙って剣を振る。魔物1が消えた。
魔物2が細かい霧状の毒液でアルを攻撃した。
「チッ、毒だ!」
「大丈夫?次は私の攻撃だけど、解毒のポーションを使うから攻撃は任せるわ」
ヒラリーは解毒のポーションをアルに使った。
ポーションは私が持っているけれど、パーティの中では誰でも使えるようだ。
アルの毒が消える。
魔物3がヒラリーを攻撃したが、ヒラリーは風魔法で攻撃を避けた。
次はアルの番だ。アルはさっき毒を使った魔物2を切りつけた。
魔物2がよろける。そして、再び毒を吐く。
その毒は次の攻撃準備をしていた私に掛った。
不味いなと思って身構えたが、何故か私に魔物の毒は効かなかったようだ。
私は魔物2を切りつけた。魔物2が消えた。
魔物3が私を狙って襲ってきたので、攻撃を避けた。
ヒラリーが魔物3を風の刃でやっつけた。
私たちは魔物に勝利した。
私たちの身体が光って元のサイズに戻った。
「ステータスが出ないと不便よね」とヒラリーが言った。
「ステータス?」
「レベルが上がったとか色々状態を教えてくれるものよ」
「どうすれば見れるんだ?」
「どうすればって、私が知るわけないでしょう。こういうゲームの時はお約束のように出てくるはずなんだけど、ゲームが古すぎるのかもしれないわ。でも、魔物を倒したからレベルはアップしているはずよ」
よく分らないけれど、魔物を倒したらレベルは上がると覚えておこう。
「しかし、順番にしか戦えないのはもどかしいな」とアル。
「それもお決まりのパターンみたいね。慣れるまで苦労しそう」
ヒラリーが疲れたように言った。
「それより、次の避難小屋に急ぎましょう。行く先々で魔物に会っていたら避難小屋全部を見れなくなるわ」
ヒラリーの言うのもごもっともだ。魔物と出会ったら戦わなければならない。さっきは3匹だったが、個体数が多くなるとそれだけ時間も掛る。毒などを使う魔物だったら、持っているポーションで足りるかどうかも分らない。あまり長居をしたくない場所だ。
幸いBとCの避難小屋までは魔物と出会わずにすんだ。
「ここから先は魔物のレベルも上になるから充分気を付けるように」
アルは周りに注意を向けた。
私にも感じるくらいに魔物の気配が濃くなってきた。
「なるべく上を行きましょうか?」
ヒラリーが風魔法で身体を浮かせた。
「そうだな。イルカは木の上を移動できそうか?」
アルがそう尋ねたので、私は頷いた。
「ヒラリーの言うようにここから先は下を行くと魔物と遭遇する機会が増えそうだ。みんな木の上を移動しよう」
私たちは木の上に登った。
アルとヒラリーは風魔法を使い、私は木の枝から枝へ跳躍して先を急いだ。




