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ヒラリー側近になる

 翌日の夜、アルの部屋。

 この男子寮の棟は、私の体型が変わる場所になっている。

 必然的にアルに迫るヒラリーも2頭身である。

「殿下、私を王子の側近に加えて下さい」

「側近と言っても、貴族のお嬢様を側近にすることはできない」

 ヒラリーの押しに対して、アルはキッパリと拒否している。

 リアルサイズだと真剣な話し合いに見えるのだろうけれど、身体が小さい分迫力に乏しい。

「エドナ様も貴族だけれど、聖女達の護衛に付いてるわ」

 昨夜エドナから何を聞いたのだろう。

 今朝食堂で会ったと思ったら、午前中の授業を休むと言って何処かへ出掛けていった。いつもは私に声も一緒につれて行くのに、今日は違った。ひとりで出掛けて行って、戻って来たら、アルの側近になりたいと言い始めたのだ。

「エドナ嬢は聖女専門の警護を担当する役目を王宮から命じられている」

 アルは少しいらだった様子で答えた。

「昨夜エドナ様と話した時に、男子寮は女子が遊びに来ても何も言われないと聞いたわ」

 あちゃー、男子寮に女子が入れることがバレている。

「それが、何か?」

「私が用もないのに男子寮に出入りできないから、殿下の側近にして貰えば、立派な言い訳が出来るでしょう」

「ヒラリー、君がエドナ嬢から何を聞いたか知らないけれど、君を側近にするためにはローレイル侯爵の了承を得ないといけない。それに、今俺の側近になるのは危険だ」

「危険だから側近になると言っているのよ。私がグレッグ様の代わりに殿下の側近を務めたいのよ。お父様の許可は頂いているから大丈夫よ」

「侯爵の許可を貰っているだって!」

「そうよ。午前中にお父様を訪ねて許可を頂いてきたわ」

 ヒラリーはポケットから小さな封筒を取り出した。そして、それをアルに渡した。

 手紙の内容を見た途端、アルは疲れた顔をした。

 どうやらローレイル侯爵の許可証のようだ。

 ため息を吐きながらアルが言った。

「侯爵は許可はするけれど、必ずイルカと一緒に行動をさせるようにと書いている」

「それはそうよ。殿下の側近になるとしても、未婚の貴族の子女が二人っきりになるのはよからぬ噂の元ですもの」

 確かに、アルの側近は私しかいないが、私は貴族ではないし、剣の実力的に側近になる資格がある。しかし、ヒラリーは風魔法使いだ。攻撃力は強いけれど、学校の授業のみで実践の経験がない。

「わかった。百歩譲ってヒラリーを側近にしよう」

 アルの大きなため息が部屋中に広がった。

「ありがとう。これで心置きなく男子寮に来れるわ」

「男子寮に来てどうするつもりなんだ。グレッグは隣の棟だからここには来ないよ」

「大丈夫、私が飛んで会いに行くから」

 恋は盲目とはよく言ったものだ。

 ヒラリーは何とも思わないだろうが、私はアルを巻き込んで申し訳なく思った。

「それで、ヒラリー様。昨夜エドナ様とお話ししたのは、男子寮に女子が入れる事だけだったのでしょうか」と私は尋ねた。

 エドナから聞いた話しが、男子寮に女子が入れる事だけだったら、何の成果もなかったと言うことだ。

「違うわよ。あくまでもエドナ様から聞いた話しだけれど、5人の聖女の中でひとりを除いて婚約者はいないらしいわ。そして、ジョイール殿下以外の男子は皆婚約者がいるのだけれど、王宮側は補助騎士として付けている人達を、それぞれの聖女の相手にと考えているみたい」

「それは強引だな」アルが呟いた。

「そうなのよ。だから私もうかうかしてられないのよ」

 ヒラリーの本音が飛び出したところで、アルが尋ねた。

「聖女の一人は婚約者がいると言っていたな」

「ええ、最年少のフェアリスは生まれてすぐに隣国の第三王子と婚約したそうよ」

「隣国の第三王子」

「そうなのよ。なんでも家庭の事情とやらがあるらしいわ。フェアリスのお母様が隣国の公爵家の出自で、お兄様がいらしたそうなんだけど、事故で亡くなられて公爵家を継ぐ方がいなくなったらしいの。それで、第三王子とフェアリスを結婚させて第三王子に公爵家を継がせるらしいわ」

「我が国としては聖女を他国に嫁がせることは希望しないだろうけれど、そういう事情があれば仕方ないのかもしれないね」

「それでね、現在フェアリスの相手をしているのがスコートなんだけど、スコートも我が国の三大公爵家の一つスワイツ家のロザリアと婚約しているのよ。彼の場合、幼少期にジョイールの遊び相手の一人として王宮に遊びに来ていたロザリアと仲良くなり、幼いながらも自分たちで将来を決めたらしいわ。スコートがロザリアのお父様とお母様に直接お願いに行って二人の婚約が決まったと聞いたわ」

「その話なら知っている。ジョイールがこんなに早く婚約者を決めることないのにとスコートに言っているのを聞いたことがある」

「へぇ、その時スコートは何て答えたの」

 小さな恋人達の話しにヒラリーは興味津々のようだ。

「ロザリアは可愛いし、公爵家の公女だから今のうちからお願いしておかないと、僕が迷っている内に誰かと婚約したら後悔するからと言っていた様な」

「それで、スコートは早々と婚約者のいるフェアリスの面倒を見ているのね」

「多分そうだろうね」

「残るはアレカとコレカね」

「エレーナは?」

 わかりきったことだけど、私は一応聞いてみた。

「ジョイール殿下の様子を見ていたら分るでしょう。ジョイール殿下はエレーナ一筋よ」

 ヒラリーからは予想通りの答えが返ってきた。

「そうだな。じゃあ、アレカ嬢とコレカ嬢がグレッグの相手なんだな」

「相手なんて言わないで。グレッグ様は私の婚約者よ」

 ヒラリーはジロリとアルを睨んだ。

「ヒラリーは昔からグレッグ一筋だからな」

 半分呆れ気味にアルが言った。

「そうよ、グレッグ様は私の推しなんですもの。アレカだろうがコレカだろうが絶対阻止してみせるわ」

 ヒラリー、笑った顔が恐い。

 これで『迷子の一夜』の相手が絞られた。

 話しが一段落すると、ヒラリーは帰る支度を始めた。

「明日から試験だから、私はもう帰るね。イルカは仕事の後でゆっくり戻って来てね」

 ヒラリーは寮のベランダに出ると、風魔法で帰って行った。

「では、アルも早く寝て下さい」

 私はアルを寝室に追いやると、明かりを一つだけ残し警護の体制に入った。


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