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屋根裏

 明け方近く、私は物音で目が覚めた。

 そっとベッドから起き上がる。

 私の部屋の扉を開けて現れたのは、ヒラリーだった。

「ヒラリー様、こんなに早くに何かあったのですか?」

 私が起きていた事にヒラリーは驚いた様だ。

「まあ、私があんたを驚かそうと思ったのに。もう起きてるなんて、反則だわ」

 反則だなんて言われても、ここは私の部屋だ。コッソリ入ってくる方が悪い。

「で、どうだったの?」

 ヒラリーは、アルの所に行ったことを聞きたいようだ。

「どうだったって、ヒラリー様の期待するようなことは何も無いですよ」

「私が何を期待してると言うのよ」

 男子寮に忍び込んだ感想を言わせたいのだろう。

「そういえば、寮に近づいた途端に2頭身になってしまいました。その時に不審な者を二人ほど捕まえましたが、2頭身は解除されませんでした。第2王子殿下の部屋に行ったときも2頭身のままです」

 私は、第1王子の部屋で見たことを言わないことにした。男子寮に女子がいたことをヒラリーが知ったら、絶対グレッグの部屋に行くと言い出すに違いない。

 窓から覗いた限りでは、第1王子達は2頭身ではなかった。アルは私と会った途端小さくなった。もしかしたら、私がそのグループの中に入ったら、必然的に私のゲームの中にご招待されるのかもしれない。グレッグとサーシャリアは私のゲームの事は知っているけれど、他の人達に知られる必要もないので、アルの寮に行ったときは、なるべく彼等と接触しないよう気を付けなければならない。

「ふーん、もしかしたら、男子寮はあんたのゲームの探索対象かもしれないわね」

 探索対象で思い出した。

「そういえば、寮の屋根裏でこれを見つけました」

 私はヒラリーに赤い魔石を見せた。

「赤い魔石じゃない。私が貰った物と同じかしら。赤は火ね。第1王子も第2王子も火魔法を得意としているわ。第2王子に渡したら良かったのに」

「フェアルート殿下に渡そうと思ったのですが、受け取ってくれませんでした」

「そうなの。じゃあ、私が預かってブレスレットにしてもらうわ」

「ブレスレットですか?」

「そうよ。そうしていたら、誰でも必要な時に使えるかも知れないじゃない」

 確かに。アルは必要な人が使えば良いと言った。ブレスレットにしたら誰でも使えるかも知れない。

「朝早くから動いたら、お腹が空いたわ。イルカ、早く着替えて食堂に行きましょう」

 ヒラリーはすでに制服を着ている。私は慌てて制服に着替えた。


 早朝の食堂はまばらだった。

 朝から訓練の入っている者や授業の前に予習をする者が早めの食事を取っていた。

 ヒラリーは食堂の中をキョロキョロ見回し、そして目当ての人物を見つけると、朝食のトレイを持って彼女に近づいた。

「エドナ様、おはようございます」

 ヒラリーが挨拶をすると、エドナは食事の手を止めて私たちを見た。

「ヒラリー様とイルカさん、おはようございます」

「ご一緒してもよろしいですか?」

 ヒラリーはエドナの返事も聞かずに隣に座った。私もヒラリーの横に座る。

 私たちが座るのを待ってエドナは尋ねた。

「私に何か聞きたいことでもあるのですか?」

「エドナ様はサーシャリア様の婚約者と聞いております」

 それを聞いたエドナは訳知り顔で頷いた。

「ヒラリー様はグレッグ様の婚約者でしたね」

「エドナ様は聖女様達の事をどう思われていますか?」

「どうって、私は聖女様達を護衛する任務をしています」

 エドナは当たり障りのないことを言った。

「それは分っております。私が知りたいのは、聖女様がサーシャリア様やグレッグ様の事をどう思っているかを知りたいのです」

「私とサーシャリア様の婚約は幼少期に家同士が決めたことですので、サーシャリア様が婚約を解消すると言われたら従うしか有りません」

 エドナは食事の途中でトレイを持って立ち上がった。

「すみません。もう行かなくては」

「私はもう少しエドナ様とお話がしたいです。放課後でも時間を取って頂けませんか」

 立ち去るエドナに向かってヒラリーは言った。

 エドナは立ち止まって振り返ると、

「放課後は聖女様達の護衛に付きますので、その後でしたら」と言った。

「分りました。では、夜にエドナ様のお部屋を訪ねてもよろしいですか」

「夜で有れば大丈夫と思います」と言って、エドナは食堂を出て行った。

 ヒラリーはエドナがいなくなると、「イルカ、私はグレッグ様と別れるつもりはないから、エドナ様から聖女様達の様子を聞くことにするわ。絶対グレッグ様の『迷子の一夜』を阻止するんだから」と鼻息荒く言った。

 エドナが去ったことで、ようやく私は朝食を食べる事ができた。

 流石の私も隣に座っているヒラリーより先に食事をすることはできなかった。支従関係の性である。

「あんたは今日も交替で寝に行くんでしょう。エドナ様との話は私に任せて」

 寝に行くだなんて、知らない人が聞いたらどう思うだろう。見張りに行くと言ってほしいものだ。

「ヒラリー様はグレッグ様の為に、頑張って話を聞いてきてください」

 そんな話をしていると、いつの間にか食堂は朝食を取る人達でいっぱいになっていた。

 食事を終えた私たちは食堂を後にした。


 再び夜である。

 アルのいる男子寮に近づくと、またまた2頭身に変身した。

 やはり、ここには何かあるようだ。

 今夜は不審者と遭遇することもなくアルの部屋を訪ねることが出来た。

 昨夜と同じく屋根からベランダに降りた。

 私はベランダのガラス窓から部屋の中を覗いた。

 どうやら来客がいるようだ。

 後ろ姿なので顔は見えない。だが、学生でないことは分った。

 窓の方を向いていたアルは私に気付いた様だが、私の存在が来客に知られないように無視している。

 私は来客が帰るまで屋根裏で待つ事にした。

 耳がいいので聞こうと思えば話しは聞こえるのだが、盗み聞きはよくない。よほどでない限り人の話は聞かないことにしている。

 アルの棟の屋根裏部屋でも宝箱を見つけた。

 中には魔石ではなく、魔力を帯びた剣が入っていた。

 宝箱から武器が出て来たのは初めてだった。


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