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図書館にて

 魔法学園都市の図書館は、校舎の南の川の側にあるレンガ色の円筒形の建物だ。学校内にあるけれど、生徒だけでなく市民にも解放されている。市民が利用するときは、学園と市街地を分ける川に1つだけ掛っている橋を渡るようになっている。市民は橋の入り口で市民である証明を受けて学園都市に入ってくる。

 学園都市に入って来たら図書館だけでなく、学園内の他の場所にも行けそうな気もするが、何処へでも移動できたら学園内に不審者が入り込む事になるため、入り口で市民には分らない方法で印を付けているらしい。

 図書館の内部は真ん中が吹き抜けになっており、建物の内面の壁はぐるりと本棚が占めている。1階は貸し出し等をする事務的な部分の他は、読書スペースになっている。北側に縦に長い窓が1階から3階のまであり、外部からの明かりはそこから入って来ている。2階3階のフロアーは、真ん中の吹き抜けを除いた場所が読書スペースになっていた。

 私はヒラリーに頼まれた本を探して3階まで登り、ヒラリーの待つ2階フロアーの机に戻った。

 机には、頬杖を付いて1階のフロアーを見ているヒラリーと机に突っ伏して寝ているアルがいた。

「ヒラリー様、ご所望の本は見当たりませんでした。そのかわり、金貨二十枚と毒消しのポーション、回復ポーション、機能不全を直すポーションがありました」

 私は収穫物を机に並べた。

 ヒラリーはそれを見て、「イルカ、あんたのゲームはお金持ちになりそうね」とため息を吐いた。

 ヒラリーの目線は常に1階のフロアーの一角を見つめていた。

 視線の先には四人の聖女と第1王子、サーシャリア、スコート、そして、グレッグがいた。

 何でも、試験勉強を図書館でしているらしい。

 耳のいい私には、勉強の話しは聞こえてこない。他愛も無い話で盛り上がっているようだ。ヒラリーは話しの内容が気になっているようだけれど、私は教えない。教えたらヒステリーを起こすこと間違いないからだ。

 ここは図書室だから静かに!と言いたいが、王子がいるからか、図書館の職員は黙認している。

 王子と言えば、アルは何故寝ているのだろう。

「殿下、ここは図書室で、寝るところではありません」と言ってみる。

 アルは眠そうな目を開けて、「寮では熟睡できないから仕方ないだろう」と、大欠伸をした。

「不眠症ですか?」

「いや、グレッグが第1王子の棟に移動したから、俺の側に誰もいなくなった。だから、夜に熟睡できなくなった」

「どうしてそうなったのですか?」

「俺の知らない間に、聖女の担当と言うことでジョイールの側に移された」

 アルは不満そうにブツブツ言った。

「アルトは別なのですか?」

「アルトは下の階にいる。俺の階には誰もいない」

「そんなバカな!」

 王族は寮の中とはいえ、側近か警護の者か誰か一人は同じ階にいるはずなのに・・・

「それで、夜におかしな事でもあったのですか」

 私は心配になって聞いた。

「シールドを張って寝ているのだけれど、誰か分らないけれど干渉してくるんだ」

「それは危ないですね」

「そうだよ。だからよく眠れないんだ。グレッグがいたら、交替しながら眠ることが出来るけれど、一人だと気も抜けない」

 アルがお手上げというふうに肩をすくめた。

「学校には言ったのですか?」

「それが釈然としないんだよね。下の階にアルトがいるから大丈夫だろうと言うんだ。それじゃあ、アルトを同じ階に移動してくださいと頼んではいるんだけどね」

 私とアルがそんな話しをしていたら、それまで私たちの話に興味を持たなかったヒラリーが、「だったらイルカ、あんたが行ったら」と言った。

 何を言っている。とヒラリーを睨むと、「夜中に殿下の隣の部屋に忍び込んで、明け方に戻って来たらいいじゃない」と、真面目な顔が返ってきた。

 ま、待ってください。そしたら私の睡眠時間はどうなるのですか!と、言い返すつもりでいたら、アルがヒラリーの意見に同調した。

「それは良いアイデアだ。イルカがいたら安心だ」

「でしょう」

 アルとヒラリーは本気でそう思ってるらしい。

「待ってください。殿下の棟は男子寮ですよね。私は入れません」

「何言っているのよ。忍者の格好で忍び込めば大丈夫よ」

「そうそう、それに、四時間くらい眠れたら助かる」

 どうやら二人の間には、そこが男子寮でも女子寮でも関係ないらしい。

「イルカが九時頃来てくれたら、十時から四時間寝て二時だろう。イルカは二時に自分の部屋に戻って寝て六時に起きればいいじゃないか。それに、俺の階には専用の風呂があるから、食事だけしてきたら風呂は俺の所で入ればいい」

「あ、それは良いわね。イルカそうしてもらいなさいよ」

 ヒラリーがすごく非常識な事をさらりと言う。

 どうやら、二人は私が女子だと認識していないようだ。それならそれで良いけれど、なんか釈然としない。

 そんな話しでワイワイしていると、1階にいるサーシャリアと目があった。

 サーシャリアは私たちを見て、グレッグに声を掛けると、ひとり席を立って私たちの所にやって来た。

「これはこれは、奇遇ですね」

 眼鏡の奥の目が笑っているように感じるのは私だけだろうか。

「そうでもないだろう。俺たちも試験勉強をしているところだ」

「そうよ、私たちも試験勉強をしているのよ」

 ヒラリーがツンとすまして言う。

「その割には、机の上に本がありませんね」

 サーシャリアは机の上の金貨とポーションを見ていた。

「ポーションの勉強をしていたのよ」と、ヒラリー。

「へー、ポーションですか」

「そうよ、前期で習ったでしょう」

「そういえば、5年生の前期は薬草の種類とポーションの作り方を習ったような気がします。それより、ヒラリー嬢。先日イルカには頼んでいたのだけれど、イベントのすりあわせをお願いできないだろうか」

「ゲームからかなり逸脱しているのは確かね。分ったわ、その代わり、土日の実習に私たちも参加したいのだけど」

「許可があればいいんじゃない」

「許可は俺がもっらった」

 アルはポケットから一枚の紙を出してひらつかせた。

 サーシャリアはその紙を横目で見た。

「あくまでも聖女達の実習だから邪魔をしないでね」

「分っている。俺たちはイルカの経験値が欲しいから参加する」

「そうか、本当の聖女を探すには、イルカは経験値を上げないとね」

 サーシャリアは机の上の金貨を一枚取った。

「金貨やポーションを見つけるのは、イルカのゲームだったね。どんなゲームか分らないけれど、本当の聖女を探していたら魔物だけでなく魔女とも遭遇するだろうから、経験値は必要だね」

 サーシャリアは取った金貨を机の上に戻すと、

「ヒラリー嬢、打合せはいつにしようか?」

「土日が実習だったら、試験最終日の午後ではどうかしら」

「わかった。調整してみるよ。また連絡する」

 サーシャリアは私たちから離れると、元の席に戻って行った。

 席に戻ったサーシャリアに聖女のひとりが話しかけた。そして、私たちの方に顔を向けた。その目はヒラリーをじっと見ていた。


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