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強制力

 新学期が始まって一週間。ゲームの強制力だろうか、グレッグはサーシャリアの言ったとおり、聖女達を補佐する任務に就かされていた。

 そのせいでヒラリーは最大限に不機嫌だ。

 教室で会えるじゃないなんて考えていたら、同じ教室にいるのだが、席が遠く離れているためなかなか話すことが出来ない。休み時間には第1王子の側近のスコートがグレッグを誘って何処かに連れ去ってしまい、学校でもなかなか話す機会が無いというのが現状だ。

 おかしな事に、それはアルについても同じだった。グレッグはアルの側近なのに席も遠く離れていた。どちらかと言うと第1王子の近くにいる。

 やはりゲームの強制力とやらが働いているのだろうか。

 授業が終われば、声を掛けようと思っても、もう教室にはいなかった。

 アルとヒラリーの不機嫌オーラは増すばかりだ。

 アルは私がいればいいと言っているけれど、グレッグを勝手に使われるのを怒っている。ヒラリーは例の『迷子の一夜』の相手が誰だろうかと戦々恐々としている。その為、放課後は、グレッグを見張るように言われている。

 私は剣の練習場とは校舎の反対の位置にある、魔法の練習場の天井近くの明り取りの窓から中を覗いていた。

 聖少女隊が魔法の練習をしている場所だ。流石にアンジェラは卒業後魔法省に行っているから、この子供じみた練習には参加していない。

 私が子供じみたと感じているのは、光属性の攻撃魔法の練習をしているのだが、魔法が使えない私が水魔法を使うのと同じ程度にしか見えないからだ。そんな聖女達を、アンジェラを除くアンドレとハンターの魔法省組に混じってグレッグ達が聖少女隊にアドバイスをしている。

 聖少女達から少し離れた所でエドナ率いる聖女親衛隊が待機している。彼女たちも一緒に剣の練習をすれば良いのにと思うのに、ここでは魔法以外は使ってはいけないようだ。疲れるだろうに、同じ姿勢で聖女達の練習を見ている。

 エドナはサーシャリアから何も聞いていないのだろうか。サーシャリアが聖女の手を取っても表情が変わることがなかった。

 そんな事を考えながら見ていたら視線を感じた。練習場に目をやるとアンドレとサーシャリアが私を見ていた。

 気配は消していたつもりだったが、見つかってしまった。

 もし、覗きがバレたら、グレッグにヒラリーの伝言を伝えに来たと言うことで言い逃れをしようと思っていた。実際、ヒラリーはグレッグと話しがしたいと言っていたので間違いではない。

 見つかったのなら隠れることはない。練習が終わったのを見計らって、練習場の出口で待つことにした。

 グレッグはスコートと一緒に三人の聖女を連れて出て来た。

「グレッグ様」と声を掛けると、グレッグは何故かホッとした顔で私を見た。

 グレッグに近づこうとした私の前に、二人の聖女が立ちはだかった。よく似ているから、この二人はドッチ辺境伯家のアレカ様とコレカ様だろう。

「あなたは?」

「私はグレッグ様の婚約者のヒラリー様の使いの者です」わざと婚約者を強調する。

「グレッグ様の婚約者ですって」

 アレカとコレカは小馬鹿にしたような顔をした。ヒラリーの事を良く思っていないのが分る。馬鹿にするんじゃないよ。光属性じゃないけれど、ヒラリーの魔力も負けてはいないと、文句のひとつも言いたくなる。

 もう一人の少女はスコートの影に隠れて覗いている。この少女は2クラス下の聖女候補だった少女だろう。

「イルカ、ヒラリーに後で連絡すると言っておいて」

 グレッグは慌てて私の腕を引いて二人から引き離して言った。

「分りました。グレッグ様お待ちしております」

 私は他の方々に挨拶をしてグレッグと別れた。

 グレッグ達よりも少し後からサーシャリアも練習場から出て来た。

 サーシャリアが私を呼び止めた。

「イルカ」

 何でしょうと振り返る。

「毎日練習場を覗いているようだけど、ヒラリーの指示だろう?」

 そうよ。そうでなければ、人の練習を見に来るわけないでしょう。と言いたいが、グッと我慢する。

「ヒラリー様は、サーシャリア様が言われていた『迷子の一夜』をとても気にしています。グレッグ様に間違いが起こらないよう、今から私が見張っているのです」

 私は立ち止まることなく、スタスタと歩きながら答える。

「やはりそうか。聖誕祭の時で間違いないと思うけれど、私も記憶が曖昧でそうだとハッキリ言えないんだ」

 サーシャリアも私の歩調に合わせて付いてくる。私は結構早足だ。

「ただ、来週から実践練習に入る」

「実践練習ですか?」

「王都と学園都市の間の森で行なう予定だ。もしかしたら、その時何かイベントがあったかも知れない」

「どのくらいの期間ですか?」

「毎週土日の予定だ。あまり強くない魔獣がいる場所を選んで入るらしい」

「毎週土日ですか。厳しいですね」

「早く慣れてもらいたいからね」と行った後に、サーシャリアはため息を吐く。

 まあ、あの練習を見ていたら、魔女と戦えるのは当分先のような気がする。

「練習場にエドナ様率いる親衛隊もいましたが、彼女たちも一緒に行くのですか?」

「いや、あくまでも聖女達の訓練なので、エドナ達は行かない。それに、彼女たちも魔獣相手はまだ無理だと思う」

 聖女隊とサーシャリア達か。

 さっきの二人は2クラス上だ。何が起きてもおかしくない。グレッグは優しいから毒牙に掛るかもしれない。

「私もその森に入れますか?」

「いや、許可が必要になる」

「許可ですか」

 これは少しやっかいな事になりそうだ。この話を聞いたらヒラリーも行きたがるだろう。

 許可の件はアルに聞いてみよう。

「しかし、イルカも大変だね」

 サーシャリアは私を見た。

「グレッグ様はヒラリー様の推しですからね。絶対に『迷子の一夜』は阻止しなくてはいけないんです」

「へぇー、推しなんだ。それでゲームの内容と少し変わっているんだ。グレッグの婚約者になるためにヒラリーが何か細工をしたんだろう」

「細工はしてませんよ」

 うそだ、アルにヒラリーにするように頼んだ。

「そうでなければ、ゲームと違う事が起こらないだろう」

「ゲームと違う事は先日のパーティの時にも起きたでしょう」

「パーティの時?」

「あの時、サーシャリア様は地下イベントがあると言っていたけれど、魔女と毒殺された王子が出て来たけれど、地下イベントは発生しなかった」

「確かに」

 サーシャリアは立ち止まった。

「ゲームと同じにしないためには、フラグが立ちそうなイベントを消していけばいいのか」

 ブツブツと呟いている。

「ヒラリーに伝えて、ゲームのすりあわせをしたいと言っていたと」

 私が頷くと。

「イルカはグレッグを見張るのにいつも来ているから、決まったらイルカに連絡するからよろしく」

 サーシャリアと別れたのは女子寮の近くだった。

 私はグレッグの事を伝える為にヒラリーの部屋に向かった。


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