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聖女と婚約者

 二日後、サーシャリアから連絡があった。

 サーシャリアにとっては不本意かもしれないが、礼拝堂で待ち合わせることになった。

 私たちは約束の時間より早く礼拝堂に着いた。

 入り口で待っていると、サーシャリアが片手を上げて近づいてきた。

「見られると不味いから、中で話そう」

 サーシャリアはそう言って中に入った。私たちも後に続いた。

 アルが礼拝堂の中は声が響くので、廟に誘った。確かに礼拝堂にいたら誰か来るかも知れないし、廟の方が話しやすいと思われた。

 サーシャリアは廟と聞いて、少し躊躇したようだったが、人に見られたり聞かれたりするのは不味いとおもったにか、廟で話すことに賛成した。

 私たちは棺のある廟の中に移動した。

「本当に棺が置いてあるんだ」と、今更ながらにサーシャリアが驚いた。

「それで、聖女の話はどうだった」

 アルがサーシャリアに聞いた。

「聖女は確かに二人いるらしい」

「らしい?」

「教会や魔法省に面と向かって聞けないだろう。だからそういう話しを聞いたけど本当だろうか?と聞いてみた」

「誰に聞いたの?」

「姉に聞いた」

「アンジェラ?」

「そう、今魔法省にいるでしょう。それに聖女だから知っているかと思って」

「そしたら、二人いるって言ったの?」

「先日のパーティの事もあるから、魔法省でも、聖女についていろいろ調べているらしい」

 サーシャリアはしつこく聞くアルに眉を寄せた。

「そうか、わかった。それから、パーティの時に地下が関係してるとか言ってなかった?魔女は地下に逃げたの?」

 そういえば、聖女お披露目の時に地下イベントの話しをしてたような。

「魔女は窓から出て行った。だから、地下は関係なかった」

「じゃあ、地下イベントは別に発生すると言うこと?」

 ヒラリーが口を挟んだ。

「そうみたいだね。地下イベントは起こらなかったから、私の思い違いだったかもしれない。あの後、少し考えてみたけれどよく分らなくて、もしかして、ヒラリー嬢の言った聖誕祭の時だったかもしれない」

「と言うことは、聖女がまた襲われるの?」

「いや、聖女が迷子になって探しているときに魔女と遭遇したのかもしれない」

 サーシャリアはゲームを思い出しながら話していたが、急に顔を上げてグレッグの顔を見た。

「そういえば、グレッグも聖少女隊の取り巻きに入っているけど聞いている?」

「何ですって!」

 すかさずヒラリーが口を挟んだ。

 ヒラリーの剣幕にサーシャリアが一瞬怯んだ。

「どうして第2王子の側近のグレッグ様が、聖少女隊の取り巻きにならないといけないのよ」

「実は、ゲームでそういう設定になっているんだ」

「どういう設定ですって」

「えーと、話しにくいんだけど、聖少女が5人に、取り巻きの男性が5人で、メインは第1王子なんだけど、第1王子と結ばれなかった聖女は、それぞれの取り巻きとカップルになるんだ」

 またまたヒラリーが叫んだ。

「何ですって!」

 私はヒラリーが怒り出す前に、サーシャリアに尋ねた。

「それで、取り巻きの人は誰と誰?」

「僕と、第1王子の側近のスコートとグレッグ。それと、アンドレとハンター」

「第1王子の側近だったらクロードがいるじゃない。どうしてグレッグ様なの」

「クロードは子爵家なので、一応伯爵家以上と言うことらしい」

 サーシャリアの答弁が苦しそうだ。

「しかし、グレッグもそうだけど、スコートもサーシャリアも婚約者がいるだろう。彼女たちはどうするんだ」

 アルがすごく当たり前の事を聞いた。

「それが、ゲームの中では、婚約者同士が結託して聖女を虐めるところもあるんだ。それで、卒業式のイベントの前に全員婚約破棄されるというシナリオがあって・・・」

 ヒラリーの顔が真っ赤になっている。最高に怒っている。

「ヒラリー、僕は婚約破棄はしないよ」」

 グレッグがヒラリーを慰めている。

「それが、ゲームに強制力が働くかもしれないんだ」

 サーシャリアは自信なさそうに呟いた。

「ゲームの強制力なんか弾いてやるわ。だいたい、私がグレッグ様の婚約者になれたのはゲームとは違ったからよ。易々と強制力に従うものですか」

「いや、グレッグの場合は、卒業式まで行かずに婚約解消になる。それこそ、聖誕祭に迷子になった聖女と一晩過ごしたからなんだけど・・・」

「何ですって!」

「一晩過ごしたって、別に変なことはしてないんだけど、若い男女が一緒にいたら、色々噂になるだろうからって、周りの圧力でそうなったと言うか・・・」

「じゃあ、グレッグ様とその聖女を一緒にさせなければいいのよね」

「そうだけど・・・ゲームの強制力が」

「強制力なんてくそ食らえよ。イルカ、聖女が迷子になったら、グレッグ様に行かせないで、あなたが助けに行くのよ」

 え!私がグレッグ様の代わりに迷子の聖女を探す!?

「迷子になる聖女様は分っているのですか?」

 迷子になる聖女が分れば、聖誕祭の日はその聖女をマークしてればいいと私は考えた。

「良く覚えていないんだよね。第1王子がどの聖女を選ぶかでカップルになる相手が変わるから、一応全員と考えていた方がいいと思う」

 なんだそりゃ?グレッグにGPSでも取り付けて、その日の行動全てを監視しないといけないのでは?

「俺もグレッグの婚約者がヒラリーでなくなるのは困る。何としても阻止しよう」

 アルがグレッグの婚約者がヒラリーでないと困るなんて、どうした風の吹き回しだろう。不思議に思ってアルを見る。

「ヒラリーが領地に帰ってしまったら、必然的にイルカもいなくなるだろう。それは避けたいからな」

 へ?なんでそこで私の話になる。ヒラリーが領地に帰ったら、私もヒラリーについて領地に帰るからですって?グレッグが第1王子について、私までいなくなると、アルの側近がいなくなるから困ると言うことだろうか。そうかもしれない。アルはコミュニケーションに難があるから、ポツンになるのが嫌なのだろう。

「嫌だと言っても、もうすぐ取り巻きも決まる予定だよ」

 心なしか、サーシャリアの声が沈んでいる。

「サーシャリアの婚約者って誰?」

 ヒラリーが思いついたように尋ねた。

「ジェイド伯爵家のエドナ嬢だけど」

 エドナですって。

「彼女は、聖女の近衛隊に入るのでは?」

 どちらも聖女を守る役目をしていたら、いつも会ってしまう。それで良いのだろうか。

「そうだよ。彼女はいつも一生懸命で、お互い尊敬できる間柄だよ」

 それ以上何も言わなかったけれど、サーシャリアも悩んでいるのだろう。そんな気がした。

 しばらくの間沈黙が続いた。

 その沈黙を祓うようにアルが言った。

「よし、だいたいのことは分った。グレッグの事は父上に頼んでみる。それでも取り巻きに入ったら、必ず俺かイルカがグレッグに付くことにする。とりあえず、そういうことで、解散しよう」

 私たちは礼拝堂を出た。

 去って行くサーシャリアの足取りが何故か重いように見えた。

 彼もいろいろ有るようだ。


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