目的
パーティ会場の外は逃げ出した招待客で溢れていた。廊下に集まり出て来たばかりの扉を不安そうに見つめている。
「あの魔女の言っていたことは本当なんだろうか」
「あれは誰だ」
「ラフティ王子?前王の王妃にお子がいたなんて、私は聞いた事がないぞ」
そんな囁きが聞こえる。
私のすぐ横からも話し声が聞こえた。
「私は当時聖女宮の担当でした。王妃様には二人の王子がいらっしゃいました。でも、当時の貴族会が王子と認めなかったと聞いています」
声の方を横目で盗み見る。会場でラフティ王子と呟いた年配の貴族だ。彼の周りに数名集まっている。
「貴族会が認めなかったと?私は前王の時代貴族会の会員だったが、王妃にお子がいた話しは聞いた事がない」
「私も直接は存じませんでしたが、お子がいらしたと聞いています」
周りを気にしながらも、ボソボソと小声で囁きあっている。
「私はまったく知らなかった。魔女が言ってたが、本当に毒殺されたのか?」
元貴族会の会員だったと言った男が尋ねた。
「亡くなられた原因は存じません」年配の貴族が答えた。
私は横でその話を聞いていた。貴族会が知らない?おかしな事もあるものだ。アルの爺様の話だと、貴族会が反対したと言っていたはずだが・・・
私が周りの話しを盗み聞きながら思案していると、
「私、イルカのゲームがわかったかも知れないわ!」と、唐突にヒラリーが言った。
は?今この場所でこの人はいったい何を言っているんだろうか。思わずヒラリーを睨んだとき、アルがチッと舌打ちをした。
「何よ、私が嘘を言っているというの!」
私たちが聞いていないと思ったのか、ヒラリーは怒って口を尖らせた。
聞いていないと言うより、聞こえてはいるが、今、この状態で何を言っているか分らない。
「どういうこと?ヒラリー」
グレッグが宥めるように言う。
「だから、イルカのゲームの話しよ」
ヒラリーの顔色が変わる。
不味い癇癪を起こしそうだと判断した私は、
「ヒラリー様、皆さんが不安にされているこの場所で、その話は不味いと思います」と注意をする。
パーティ会場の中から聖女隊と魔女が戦っている音が外まで聞こえてくる。会場の外は大きな音が聞こえる度に、不安そうに肩を揺らす招待客が集まっていると言うのに、こんなときにゲームの話しは流石にダメだろう。
私は周りを気にするようにヒラリーに促した。
初めは私が何を言わんとしているかわからないようだったが、周りに大勢いることに気が付いたヒラリーは、慌てて口を閉じた。
グレッグはヒラリーを少し離れた場所に引っ張って行った。
アルは年配の貴族達の話しをもう少し聞きたかったようだが、ヒラリーの唐突な発言で、私たちが隣にいることに気付いた年配の貴族達は慌てたように、別の場所へと移動していった。
アルは諦めたように、私たちが移動した廊下の隅にきた。
「で、ヒラリーの話を聞こうか」
アルは少し怒った口調で尋ねた。
「イルカがRPGのゲームの登場人物だとしたら、この世界での役割は“本当の聖女を探すこと”なのよ」
アルの様子など全然気付かないヒラリーは、どや顔でそう言った。
「どうしてそう思うんだ」と、アル。
「さっきラフティ王子が言ってたでしょう。私たちに“本当の聖女を探して欲しい”って。だから、それがイルカのRPGゲームの目的なのよ」
「だからどうしてそうなる!」
アルは不機嫌を隠していない。さっきの年配の貴族の話しの続きが聞けなかった事が、よほど残念だったのだろう。
私もあの続きが聞きたかったのでアルが怒りたい気持ちが分る。
しかし、ヒラリーは違った様だ。
「考えてもみなさいよ。RPGは目的を達成するために能力を高めていくゲームよ」
そんなの知らんがなと、突っ込みを入れたくなった。
ああ、もうっ!っと、ヒラリーは癇癪少し前の状態だ。
「だから、イルカの目的が“本当の聖女を探す”なのよ!」
ヒラリーの言わんとしていることがいまいち分らない。
「どうして私が本当の聖女を探さないといけないの」
「そんなの私に分るわけないでしょう。でも、あんたがRPGの住人なら、本当の聖女を探すのが目的だと思うのよ。だってRPGって、何かを求めて魔物と戦い、レベルを高めて最後にラスボスを倒して何かを手に入れるのよ。その何かが“本当の聖女”だと考えたら、ゲームが始まった意味がわかったと思ったのよ」
なるほど、私がRPGの住人ならその目的を達成しないといけないんだ。何となく分ってきた。ヒラリーはその目的が“本当の聖女を探す”だと思っているんだ。
私がそのことを伝えようとした時、さっきまで騒々しかったパーティ会場の扉が開いた。
ジョイール王子と聖女隊が出てくる。
「皆さん、聖女隊の活躍により、魔女は追い払いました」とジョイールが言った。
一瞬の沈黙の後、歓声が起こった。
「ジョイール王子バンザイ!聖女隊の皆さんバンザイ」
ジョイール王子と聖女隊は一躍時の人となった。もっとも、聖女隊を知ってもらう為のパーティだったから、魔女を追い払ったことは、宣伝効果抜群だっただろう。
パーティはそのままお開きになるかと思っていたら、初陣の勝利を祝うらしく、場所を変えて続けるそうだ。
私はもう充分楽しませてもらったので、帰ってもいいかな・・・と思っていたら、そう思ったのは私だけではなかったようだ。
アルの「行くぞ」という合図で、私たちはその場を離れた。




