隠された王子
聖乙女戦隊のお披露目パーティ前日の昼頃、ヒラリーと私はアルに王城に呼び出された。
アルの執務室に行くと、すでにグレッグはアルの隣にいて私たちを待っていた。
「やあ、急に呼び出してすまない」
すまなさそうに見えない顔でアルが言った。
「何かあったのですか?」
王子相手にどうかとも思うが、少し怒気を含んだ声で、ヒラリーが尋ねた。
明日のパーティの為のドレスを選んでいる最中に呼び出されたからか、ヒラリーはすこぶる機嫌が悪かった。呼び出したからには、それ相応の理由があるのだろうと思うが・・・
最近はグレッグの前でも時々素が出ている。
まあ、グレッグはそんなこと気にしてないようだが・・・
もちろんアルも気にしていないようだ。
「この間、サーシャリアが銀髪に赤い目の子供の悪霊の話しをしていただろう。それで、俺以外に亡くなった王族の中に、同じような容姿の王子がいたか調べてみたんだ」
「「「いたんですか!?」」」
三人が同時に叫んだ。
「いた」とアルは言った。そして、「なんと父上の兄君らしい」と続けた。
「え、国王陛下は一人っ子じゃないんですか?」
グレッグが驚くのも無理はない。国王陛下に兄弟がいたという話しは聞いたことがなかった。
「前国王、つまり、お爺さまはお婆さまと一緒になる前に、当時の聖女と結婚していたんだ。そして、その聖女との間に王子が二人いた」
「国王陛下のご兄弟がお二人もいたのですか?」
普通二人も王子がいたら噂くらいにはなるだろうに。それを城のみんなが知らないとは、どうしてだろうと不思議に思った。
「第1王子と第2王子の間は10歳離れていて、そして、第2王子と父上の年も10歳離れている。第1王子は国王が結婚する前に生まれたので、聖女の私生児ではないかと噂された。聖女は平民出身だったので、結婚前に生まれて王子は正式に王子として認められなかったらしい」
淡々と話すアルは何処か悔しそうに見えた。
「でも、国王様の子供だったんでしょう」
ヒラリーは不満を隠そうともしない。
「そうなんだけど、当時の貴族会が認めなかったらしい」
「貴族会?」
「お城の重鎮達の集まりで、王族に関する重要案件を審議するところだよ」
とグレッグがアルに代わって答えた。
「第1王子様の件は分りましたが、第2王子様は第1王子様が10歳の時に生まれたのでしょう。その時はもう結婚してたんでしょう?」
ヒラリーの機嫌はますます悪くなった。
「第1王子誕生後、国王は聖女と結婚して幸せになるはずだった。しかし、第2王子が生まれたときに問題が起きたんだ。結婚して正式に王の子として生まれたにもかかわらず、影の様に隠されて育てられた。それは第2王子の容姿が銀髪に赤い目をしていたから。赤い目は魔女の目とされて、誕生当時から呪われた不吉な子と言われ、離宮に隔離されて育てられたそうだ。聖女は正妃となったのに、結局どちらの王子も貴族会に認めて貰えなかった。国王は妻であい聖女と子供達をとても可愛がっていた。正式に王子として認めない貴族会に反発をして、側室を薦める貴族会を無視していた。ところが、あと一ヶ月で15歳になるはずだった第1王子が、その冬の流行病であっけなく亡くなってしまった。第1王子が15歳の成人になったら、貴族会に何と言われようと、王子達の存在を国民に伝えようと思っていた国王はとてもショックをうけた。第1王子が亡くなって、気落ちした国王は第2王子を離宮から呼び戻した。離れて暮らしていたとはいえ、第2王子は幼少期から頭脳明晰で、魔法も優れていて、王子としての気質はしっかりしていた。国王は今度こそ国民に王子の存在を知らせようと思った。だけど、また、貴族会が反対した。貴族会は色々と難癖をつけて、聖女の子供を王子とは認めなかったらし。い国王と貴族会が対立する中、第2王子が15歳の成人を迎えたら、国民に知らせるということで、双方が妥協したそうだ。ところが、第2王子は15歳になる前に亡くなってしまった。だから、二人の王子はそれぞれの理由で、国民に知らされなかったんだ。」
アルの話しがあまりにも具体的すぎたので、思わず「誰に聞いたのです」と尋ねた。
「俺のもう一人のお爺さまに聞いた」
もう一人のお爺さま?
あ、あの『じじーず』ね。
「それで・・・」
ヒラリーが先を促す。
「第1王子が15歳で流行病で亡くなった後、貴族会の中で第2王子を表舞台に出そうという話しが出たらしい。でも、強固に反対する者がいたんだ。それで、もう一人王子を産んでもらおうと言うことになったらしい。聖女様は年齢的に無理だろうという話になって、貴族の中から第二妃を迎えた」
「わーっ、政治的匂いがプンプンする。もしかして、二妃って強力な貴族の娘とか・・・」
ヒラリーの顔が嫌なものを聞いたと歪む。
「そうだよ。重要ポストをになう侯爵の娘だよ。翌年、二妃は男の子を産んだ。そして、第2王子は毒殺された」
「「「毒殺!」」」
「第2王子の母である聖女は、王子が毒を飲んだとき一緒にお茶を楽しんでいた。爺様も王子の遊び相手として同席していた。王子はお茶を一口飲んで血を吐いた。爺様は咄嗟に王子からカップを受け取った。聖女が慌てて治癒と回復の魔法を掛けたけれど、第2王子は助からなかった。聖女は第2王子がもう生き返らないと知ると、爺様が持っていたカップを取り、王子が飲み残したお茶を一気に飲んだ。そして、血を吐いて倒れた。王子は子供だったから死んでしまったけれど、王妃は一命を取り留めた。しかし、それっきり意識が戻ることなく眠ったままらしい」
そうか、あの『じじ』様は第2王子の遊び相手だったのか。だから王子達の話しに詳しかったんだ。
「眠ったまま?では、生きているのね。何処にいるの?」
私は『じじ』様の事に注意が向いていたが、ヒラリーは聖女の事を考えた様だ。
「教会にいる」とアルが言った。
「何故、教会に?」
そうだ、何故教会にいるのだろう?
「国の周りに結界が張られているのを知っているだろう。この結界は元聖女が守っている。眠っていてもその力は発揮されているそうだ」
「二人の王子を不幸にした国を守っているというの!」
信じられないとヒラリーは怒っていた。
「王子達は不幸になったが、聖女は本当に王様を愛していたと爺様が言っていた」
アルはヒラリーが怒ったことに驚いた。
「でも、二妃を娶られたのよね」
ヒラリーの目が半眼になり、ジロリとアルを睨んだ。
「国の為に無理矢理だったらしい。国王は二妃が懐妊すると二度と二妃に近寄ることはなかったらしいよ」
「それって、本当の話?殿下がそう思ってるだけじゃない」
「いやいや、爺様から聞いた話しだから本当だよ。それに聖女が毒を飲んで眠りにつくと、聖女の側から離れることなく、数年後に亡くなったと聞いた」
アルはヒラリーの剣幕にタジタジなりながらそう言った。
「わーっ、可愛そう。聖女様が平民だったと言うだけで、何をしているのよ!」
ヒラリーは聖女に同情して、ぶち切れそうな勢いだ。
「でも、そうすると眠っている聖女様は、結構なお年になるのよね。もし、聖女様が亡くなったら結界はどうなるのよ?」
少し落ち着いたのか、ヒラリーは結界のことを思い出したようだ。
「だから、新しい聖女が必要なんだよ」
アルがハーッと大きなため息を吐いた。
「5人いるから、大丈夫じゃない?」
グレッグは軽く言った。
「5人いても足りないかもしれないんだ」
どうしてアルはそう思うのだろうと考えていると、ヒラリーが「どうして?」と聞いた。
「いま、この国の結界を守っているのは、二人の聖女なんだ」
アルの口からまた新しい情報が飛び出した。
「二人の聖女って?どういうことよ?」
「二人の聖女というのは、王子達の母である聖女と父上を振った聖女の二人なんだ」
「国王陛下を振った聖女って、行方不明じゃなかった?」
「そうなんだけど、これは本当に極秘事項なんだが、十数年前にとある場所で聖女は発見されたんだ。そして、発見された時から眠ったままと聞いている」
「もしかして、それが国王陛下が二人の妃を正妃にしない理由だったりして・・・」
ヒラリーの唐突な発言に、アルは苦い顔をした。
どうやら図星だったらしい。
「この二人の聖女の力で結界は守られているけれど、最近、魔女の出現が多いのは力が薄れてきていると思われている」
「そうなんだ」
私はヒラリーと顔を見合わせて納得する。
「だから聖女戦隊でも何でもいいから、結界を守る聖女の力を国は求めているんだ。その為には、今度のパーティで起こるかもしれない事から聖女達を守らないといけないんだ」と、アルは言った。
「それで、話しを戻すけれど、第2王子は毒殺された時、世の中を呪って死んだの?」
容赦ない、ヒラリーの指摘。
「爺様の話だと、第2王子は、第1王子を認められなかったことや自分が隠されて育ったことで、母親を悲しませたと思っていたらしい。だから貴族会の人達を恨んでいてもおかしくないだろうと言っていた」
「貴族会の重鎮って、もしかして、二妃様の大叔父の侯爵様って事だろうか?」
グレッグがポツリと呟く。
「まって、二妃様の大叔父って、第1王子様のご親戚よね」
「そうだけど」
「ああ、見えてきたわ。それじゃあ悪霊も出てくるというものよ」
変にヒラリーは納得した様だった。
「そうそう、今日来てもらったのは、君たちに見せたいものがあるからなんだ」
アルは話しを変えるように椅子から立ち上がった。
アルは私たちを、小さな図書室に案内した。
アルは書棚にあった本を数冊抜いて、壁に描かれた模様に向かって呪文を唱えた。すると、音もなく書棚が動き、3メートル四方の小さな部屋が現れた。
「ここは・・・」
「ここは前国王の秘密の場所なんだ」
片側の壁に長椅子が1つ、反対側の壁に一枚の絵が掛っていた。その絵には、幸せそうな家族が描かれていた。
「これは・・・」
「前国王様と聖女様と二人の王子だよ。第1王子が亡くなる数ヶ月前に描かれたと聞いている」
四人は木陰に佇み微笑んでいた。
聖女によく似た第1王子、そして、国王と同じ銀髪の赤い目の第2王子。そこには幸せな家族がいた。
「この第2王子って、フェアルート殿下に似てません?」
絵を見ていたヒラリーが呟いた。
「俺もそう思った。サーシャリアが間違うのも分る気がする」と、グレッグもヒラリーと同じ事を考えた様だった。
「では、この王子が悪霊になるのですか」
私の目には、第2王子が悪霊になるようには見えない。
「悪霊とは言い切れないよ。何か伝えるために出てくるのかもしれない」
「何かって、何を?」
ヒラリーが尋ねたが、アルは答えなかった。




