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礼拝堂

 礼拝堂を隅々見て回ったが、金貨が数枚と宝箱を1つ発見したこと以外、地下通路に繋がるような所はなかった。

「この部屋には見当たらないな」と、呟くアルにグレッグが答える。

「そうですね。床も壁も変なところは見当たりません」

「次は廟へ行くか」

 廟と聞いて、ヒラリーが嫌な顔をする。

「廟って、お墓みたいなところでしょう」

 それを聞いたアルは、「そうだけよ。棺が並んでいるだけだから恐くないよ」

 棺が並んでいると聞いて、ヒラリーの顔がますます強ばる。

「代々の王族の棺だし、魔法で処理されているから大丈夫」

 何が大丈夫なのだろうか?

「だって、そのまま棺にはいっているのでしょう」ヒラリーの顔が青ざめる。

 アルはヒラリーの様子など関係なく、祭壇の横にある扉に向かった。扉の前でアルが呪文を唱えると、音もなく内側に開いた。

「勝手に入ってもいいの?」

「王族は入れるんだ」

 アルは躊躇うことなく入って行く。私たちも後に続いた。

 全員が扉を通ると、扉は音もなく閉まった。

 廟の中はずらりと棺が並び、静謐な空気に満ちていた。

「あら、臭くないわ」ヒラリーが意外な顔をする。

「だから魔法で処理をしているから大丈夫と言っただろう」

 咎めたようなアルの声が反響する。

 そこは静かな空間だった。ヘアピン1つ落としても聞こえそうだ。

 アルは躊躇うことなく床や壁を確かめている。

 渋々参加しているヒラリーを横目に、私も軽く床や壁を叩いて空間がないか調べる。

「見つからないな」とアルは額の汗を拭った。

「見てないのは棺の下だけだな」

 アルは棺の横に落ちていた金貨を拾っている私を見て言った。

「俺が浮かせるから、みんな棺の下を見てくれる?」

 棺を浮かせるなんて、先祖のバチが当っても知らないぞ・・・

 並んでいた棺が浮き上がると、幾何学模様が描かれた床が現れた。

「魔方陣だ!」と、アルが言った。

「グレッグ、その模様を写して」

 私は即座に、「私が記憶するから、少し待って」と言った。

 私は記憶力がいい。写すよりも覚えた方が早いと思ったのだ。

「大丈夫か?」

 アルの顔が疑問符になっている。

「大丈夫よ、こう見えてもイルカは記憶力がいいのよ」

 何がこう見えてもだろうか、ヒラリーは自分の事の様に自信満々だ。ヒラリー様、覚えるのは私なんですが・・・

 余計なことは考えないようにしよう。今は模様に集中しよう。

 しばらくして、「大丈夫です。記憶しました」と私が言うと、疑問符のアルの顔が頷いた。

 棺が静かに降りて元の位置に戻った。

「イルカ、本当に覚えたのか?」

 アルはまだ半信半疑なようだ。

 私は安心させるように、大丈夫ですと頷いた。

「それじゃあ、ここを出るぞ」

 私たちは廟から出て、礼拝堂からも出た。

 外に出ると元の姿に戻った。

「小さいのは可愛いけれど、動くのに不便だわ」と、ヒラリーが呟いた。

 全く同意見だ。他のみんなもうんうんと頷いている。

「イルカのゲームは、古いゲームかもしれないわね」大きく伸びをしながらヒラリーが言った。

「古いゲームって?」

「最近のゲームは戦闘場面でも等身大だったと思うのよね。よく知らないけれど・・・」

 知らんのかい!と突っ込みを入れたくなる。

「ゲームの話しはどうでもいいから、早く戻ろうぜ」

 私とヒラリーの話には興味がないと、アルは歩き出した。

「何処へ行かれるのですか?」

 グレッグが慌ててアルの後に付いていく。

「俺の執務室」

 歩いているアルから答えが返ってくる。

「ヒラリー達も一緒にですか?」

 ピタリと足を止めて、アルが振り返った。

「当たり前だろう。イルカが覚えている間に紙に写してもらわないといけないからな」

 さっきの魔方陣を写す為に執務室に行くらしい。私の記憶力は、慌てなくても消えないけど、アルは魔方陣を見て何かに気付いたようだったから、それを早く確認したいのだろう。

 再び歩き出したアルの後を私たちは付いて行った。



 テーブルの上に広げた紙に、私は覚えた幾何学模様を描いていく。

 80%ほど描き上げて中央部を描こうとしたとき、何処からか声が聞こえた。

『それ以上描いてはいけない』

 私は描くのを止めて、周りを見回す。私たち以外誰もいない。

「どうした、イルカ。忘れたのか?」

 アルやグレッグ、ヒラリーが心配そうにみている。

「いえ、今誰かが、それ以上描いてはいけないと私に言ったのです」

「誰も何も言っていないけど・・・」と、みんなは顔を見合わせた。

「もしかしたら、ご先祖様かもしれないな」

 アルが考え込むように言った。

「ご先祖様!」

 ヒラリーの顔に恐怖が見える。

「廟の棺の下にあったからな。あそこは王族しか入れないから、王族が棺を動かすときは誰かが亡くなったときだから、魔方陣の事は知っていると思う。でも、それを口外することはないだろうから、外に出してはいけないものなのかもしれない。いいよ、描いているだけを見ても、だいたいのことは分るから」

「ねえ、ご先祖様から注意されたと言うことは、ご先祖様の魂は生きているの?」

 おどおどとヒラリーが尋ねる。

「詳しくは知らないけれど、礼拝に行ったとき声を聞いたという話しは聞いたことがある」

「だったら、その魂が元の身体を動かすこともあるんじゃないの」

「それはないと思うよ。そんな話しは聞いたことがない」

 ヒラリーの質問に、アルは気を悪くしたようだ。

「ごめんなさい、そんなつもりで言ったんじゃないの。サーシャリアが聖女達のパーティの日に礼拝堂から霊が出て来たと言っていたから、もしかしたら・・・と思ったの」

 確かに、サーシャリアは初めのイベントで礼拝堂から霊が出て来て、みんなを襲うと言っていた。本当にあの棺の蓋が開いて霊が出てくるのだろうか?

「わかった。パーティが終わるまで、この魔方陣の詮索はしないことにしよう」

 アルは描きかけの図をテーブルから取り上げた。そして、サーシャリアの言うイベントが始まった場合の対処について話し合うことにした。


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