塔の探索3
「南の塔ですか?」
「ああ、この辺りの様子からすると南の塔だろう」
南と言ったら城の正門があるはずだ。しかし、近くに門は見当たらない。
「南には城の正門があると思いますが、この辺りに門はないように思われますが・・・城も見えませんし・・・」
「ここは城壁の外、南の離宮の近くのようだ。この塔全体が魔法で隠されている」
そう言われれば、塔の周りに魔法の障壁が見える。
「戻ろう」
アルは踵を返すと塔の中に戻った。
地下の部屋に向かう階段を降りる途中でアルのスピードが落ちた。どうしたのかと見ていると、顎に手を当てて何か考えている。
「どうしたのですか?」
私の問いかけに気付かないほど集中しているようだ。
地下の部屋に入るとしばらく立ち止まって、火球を部屋の中央に掲げて部屋全体を見渡した。
「どうかしたのですか?」
二度目の問いかけには気付いたようだ。
「何でもない」と呟き、廊下に繋がる扉を開けた。
短い廊下を通って、地下通路のある部屋にはいり、再び地下の通路を下った。
ゆるいカーブの地下通路に着いたところで、アルが言った。
「このまま地下通路を通って東の塔を探すか、今夜は一旦外に出て帰るのとどっちがいいだろう」
「東の塔は後日ということですか?」
「今夜はもう遅い、東の塔は後日でもいいだろう」
確かに気になる時間だ。
「ヒラリーは徹夜して調べろと言ったのか?」
「ヒラリー様は寝て待っていると言っていました」
「じゃあ問題はないな。お前が帰るのを待つ気はないと言うことだろう」
「そうですね」
確かにあのヒラリーが起きているはずがない。そうだとしたら、ここで帰ってもいいのではないか。
「それに、東の塔が何処にあるのか分った気がする」
「では後日、外から行くと言うことでいいですか?」
「だいたいの場所の目星はついている。しかし、本当にそこならやっかいな場所だ。どうしたものかと・・・」
「遠いのですか?」
「確かに距離的にも遠いだろうな。東の魔物の住む森の中だからな」
アルの返事を聞いて、私は驚いた。
「なんでそんなところに有るのですか」
「俺に聞かれても知らない」
「アルは行ったことがあるのですか?」
私の問にアルはしばらく黙っていた。
どうしたのだろうと顔を覗き込むと、少し戸惑った様な顔をした。そして、ポツリと呟いた。
「俺は小さい頃誘拐されたことがある」
そういえば、小さい頃に誰かに狙われているということがあって、アルの母上の実家の公爵邸へ引き取られていたと言っていたっけ。
「未だに誰が犯人か不明なのだが、俺は小さい頃から命を狙われていたらしい。毒を盛られたこともある。そういうこともあって、いつも俺の側には護衛が付いていた。ところがある日、俺が昼寝をしているときに、どうやって俺の部屋に忍び込んだかわからないが、警護の者達の隙をついて誘拐されてしまった。誘拐犯は城の中で殺すのは不味いと思ったのだろう。城から離れた場所に俺を閉じ込めた。食事を与えなかったらそのまま死ぬと思ったんだろう。昼寝から目覚めると、光も差し込まない真っ暗の中に閉じ込められていた。俺は一週間閉じ込められていた。俺はまだ子供だったから簡単な魔法しか使えなかった。幸い水の魔法が使えたので水を飲むことができた。それで、食べ物がなくても死なずにすんだ。助け出された後に、魔物の住む森の中に閉じ込められていたと教えてもらった」
「何歳の時ですか?」
「年が気になるか?」
気になる。私は今でも簡単な魔法しか使えない。でも、年を聞いたら落ち込みそうだったので私は質問を変えた。
「それで、話しの流れからいけば、閉じ込められたところが東の塔だったのですか?」
「そうだと思う。南の塔の内部を見ていたら、変な既視感を感じた」
「なるほど、閉じ込められていた場所の記憶と同じだったのですね」
「ずいぶん昔の事でもう忘れてると思っていたんだけど・・・何故か同じ感じがするんだ」
アルは話している間、手元の明かりを暗くしていた。
「助け出されたとき、閉じ込められている建物の外観は見えなかったのですか?」
「見ていない。ずっと暗い中にいたから、助け出されたときは眩しくて目を開けていられなかったし、気分的にも正常な状態ではなかった。後から森の中にある塔に閉じ込められていたと聞いた」
「しかし、魔物の住む森なんて誰も行かないですよ。見つけて貰えて良かったですね」
「ああ、東の森は魔物が住んでいるから、よっぽどの物好きでないと行かないらしい。たまたまグレッグの兄のハンターとアンジェラとアンドレの三人が魔法の授業で習ったことを試すのに、東の森で魔物を退治しようと、学校に内緒で東の森に入ったらしい。魔物退治の途中で雨が降ってきて、雨宿りの為に近くの建物に入ったら俺がいたらしい」
「本当に偶然だったのですね」
「俺は覚えていないが、大変な騒ぎだったらしい」
「ですよね」
水だけで一週間を過ごしたのだ、覚えているのが不思議だろう。
「そういう訳で、東の塔は魔物の森にあると思う」
話しが一区切りついたので、アルは西の塔を目指して歩きはじめた。私は慌てて後に続いた。右横に道が表れる度に印を探す。
「西の塔に向かっているのですよね?」
「入って来たところから出た方が疑われないだろう。それに、階段上の鍵の事もある」
そうだった。西の塔の階段上の鍵を内側から掛けていた。もともと外側に付いていた鍵を内側に掛け直したんだった。鍵をそのままにしていたら、あの扉を使っている者からしたら、誰かが忍び込んで鍵を内側から掛けたと考えるだろう。それは不味い。西の塔に戻って、鍵を元の位置に戻さなくてはならない。
横道を二つほど通り過ぎたところで、アルが西の塔に付けていた印を見つけた。
横道はいくつあるのだろう。東西南北とホールに2カ所。兵舎下の倉庫。さっきアルがスルーした横道には印がなかった。
「印を付けていないところは、また後日調べに来るのですか?」
「いずれ調べないといけないだろう」
アルは右に曲がると坂道を上り始めた。
登り切った突き当たりのレンガの壁を開けて暗い小さな部屋に出る。そして、廊下に出て次の部屋を通り階段を上る。建物正面の扉には魔法が掛けられている。間違いなく西の塔に戻って来た。
塔の上に出る階段を上りながら、上部にある窓を見上げる。
「今度は上まで登らないで、あの窓から入ることは出来ませんか」
アルが立ち止まって窓を見上げた。
「無理だろう。あの窓は頭は入っても身体が抜けないかもしれない」
「鍵を開けないいい方法だと思ったんですけどね」
「今後は用事のあるときは地下通路から来ればいいじゃないか」
呆れた声でアルが呟いた。
「それはそうなんですけど・・・」
階段の上に着いた。鍵は掛っていた。
私は道具を出して鍵を開けた。
外に出ると夜風が気持ちよかった。
鍵を元の様に掛けてから、下に飛び降りた。
浮遊魔法で降りてきたアルが、私の足を心配してくれたが、鍛錬で鍛えた足腰は飛び降りた衝撃を感じる事もなかった。
そのまま西門までアルに送ってもらった。
「夜道を一人で大丈夫か?」とアルが尋ねた。
夜道を大丈夫かって心配してくれているのかな。来るときも一人だったから大丈夫に決まっているんだけど・・・
「大丈夫よ」と、門を出て行こうとした時、門の警備にあたっていたローレイル騎士団の兵士の一人が「私が公爵邸までお送りします」と近づいてきた。
アルは兵士の申し出にホッとした様だった。
「では、屋敷まで送ってやってくれ」と兵士に言った。
兵士は「はっ!」とアルに礼を取った。そして、私に向かって「ルカは強いから大丈夫と思うけれど、一応女性だからな」と笑った。
私は兵士に送られて屋敷に戻った。
ヒラリーはすでに寝ているようだった。
東の塔のことや、そのほかの出口の事など問題は多々残っているが、この二日ほどヒラリーの命令で、夜中に働かされて寝不足気味なので、私も部屋に戻って寝る事にした。




